最悪の同窓会《白鳥慶一視点》
世の中は、華やかな容姿、才能、行動力に恵まれ、人々を惹きつけてやまない特別な存在=上に立つべきカーストトップの人間と、その他大勢の凡庸な人間=カースト底辺の人間に別れる。
僕の場合はといえばもちろん前者。
生まれた時から、容姿、才覚に恵まれ、人々を魅了する王子として華々しい人生を送ってきた。
高校時代には、持ち前の行動力を駆使して、容姿端麗、成績優秀な彼女(後の第一夫人)をゲットし、大学卒業後その後に起業した会社が大成功をおさめた。
高校から付き合っていた彼女と華々しい結婚式も挙げ、順風満帆と思われた僕の人生だが、その後ちょっとつまみ食いした有名コスプレイヤー(第二夫人)、元アイドル(第三夫人)が妊娠してしまった時は流石にやらかしてしまったかと思ったね…。
でも、心配ご無用!
時代は、俺に味方してくれた!
第二夫人の妊娠が分かった時、ちょうどその年の4月から、政府の少子化対策の為、「一夫多妻制法」が施行される事になっていたんだ。
巧みな話術で第一夫人を説き伏せた僕は、「一夫多妻制」を利用した婚姻関係を結び直し、妊娠させた元コスプレイヤーと元アイドルを「第二夫人」「第三夫人」として迎える事が出来たんだ。
そのおかげで、世論的には3人の妻子を持つ、時代の最先端を行く若者として、多くのメディアから注目され、更に業績を伸ばす事に成功したんだ。
災い転じて福となすってこういう事だね?
有名になっても、旧交を蔑ろにしない僕は、実業家同士の集まりが、キャンセルになった日、高校の同窓会の日程でもあった事を忘れずに、第一夫人の香織を連れて、わざわざ出向いてあげる事にした。
同窓会は欠席のはがきを既に送っていたけど、そこはサプライズ!
有名人の僕が来て、皆が喜ばない訳ないよね?
バン!
「いやぁ!皆、久しぶり!!」
同窓会の会場の扉を勢いよく開け、僕の美声を響かせると、案の定、会場にわあっと(特に女子の)歓声が上がった。
「ハッハー!今日は、実業家同士のパーティーが突然キャンセルになったので、こっちに参加できる事になりました。久しぶりに皆に会えて嬉しいよ。」
「皆、久しぶり。」
結婚式場の新郎新婦のように俺は白のスーツ、香織はゴージャスなドレスで、登場した。
「白鳥くん、カッコイイ♡」
「香織もキレイ♡」
登場した俺達夫妻に、女性達がキャーキャー騒ぐ中、負のオーラを発している人々もいた。
悪いね、男性陣?今回の同窓会の主役はこの僕なんだ!
「今度芸能人とコラボの企画するんでしょ?本当にすごいよね?」
「ハッハー!それ程でもないよ。ただ、今の妻の繋がりで、たまたまそういうお仕事が来てね?子育てで今は大変な時期なのに、色々関係者に連絡取ってもらって、助けられてるよ。」
僕は、ここでも多くの女性達に囲まれて、チヤホヤされていた。
特にまだ独身の女性達の目はギラついており、一夫多妻制が許された社会で、既に3人の妻を得ている僕だったが、ワンチャン4人目いけるんじゃないかという欲望が見え隠れしていた。
う〜ん。残念だけど、それはちょっと夢を見過ぎじゃないかなと思うんだ。
仕事で若い芸能人やそれに準ずる容姿の秀でた女の子と関わる機会のある僕から見たら、お顔の造作、肌質、スタイル、教養どれも並の同世代の女の子達に心奪われる訳がないんだよな。
けど、若い子のようにこっちが気を遣って話を振らなくても、僕が気持ち良く持ち上げてうまく話を持って行ってくれるところは流石年の功だね。
少し離れたところにいる香織も、女友達に囲まれて、今をときめく実業家の妻としての境遇を羨ましがられていた。
第二夫人を迎え入れて以来、いつもイライラしている彼女だが、
ステータスを見せつける機会になってストレス発散できただろう。
僕も香織も楽しい時間を過ごしす事ができ、同窓会に参加してよかったと思えた。
酔っ払いが、同窓会の雰囲気をぶち壊すまでは…。
「瀬川香織ーーっっ!!お前の元カレ石藤良二がここに来てんぞーっっ!!」
!??
突然誰かが声を張り上げ、そちらを振り向くと、顔は朧気に覚えているが、名前が思い出せない底辺男子が、大分酔っ払った様子で香織を睨んで来て、彼女は固まっていた。
立場上助けなきゃいけないのは分かっていたが、頭をよぎったのは、明日の仕事の予定の事。確かS社の雑誌のインタビューだったよな?
酔っ払いの底辺男子など、何をやらかすか分かったもんじゃない。
僕の麗しい顔に傷でも付けられたら、仕事に差し支えるな…。
顔もスタイルもとびきりの僕だが、腕力はほんなに強くないんだよな…。
僕が躊躇していると…。
「猿田っ?」
「お、お前何を言っ…?うわっ!」
!!
そこへ二人の男子が駆け寄って来た。
その内一人の底辺男子に見覚えがあり、僕は目を見開いた。
あれは確か…香織の元カレの、石藤とかいう奴…!?
止めようとしたらしいけど、奴ら二人は振り払われ、酔っ払いは香織の方にツカツカと歩み寄った。
チッ!何やってんだ!使えないな…!
「猿田くん、りょ…、石藤くん?」
香織は恐ろしげに、酔っ払いと石藤を前に、目を見張っていた。
酔っ払いは、更に大声を張り上げ、とんでもない事を言い始めた。
「お前、瀬川香織!!誠実な陰キャの石藤裏切って、リア充イケメンの白鳥の妻になって、いい気になってるかもしんねーけどな!
三股されて、他の二人の妻と一緒に住むって、実際のところどうなんだ?
暮らしぶりは豪華かもしれねーけど、他の女とイチャイチャする旦那を見せられるって虚しくねーのかよっ?
本当のところは、石藤と結婚してたら、一途に愛してもらえたんじゃないかって、後悔してんじゃねーのかぁっ?
どうなんだぁっ??」
「…!! |||||||||||」
香織は、口に両手を当て、蒼白になっている。
チッ!香織、多分怖くて固まっているのだろうが、そこで黙り込むと、ハイスペック旦那の僕より元カレの石藤と結婚した方がいいと思っているように周りから思われちまうだろう?
僕がこの事態に焦っていると…。
「何言ってんの?コイツ!」
「頭おかしいんじゃないの?」
「やめろ!!猿田!」
「お前飲み過ぎだぞ。」
「うわっ。何だよ!」
香織の取り巻きの女子達から酔っ払いに対する非難が相次ぎ、石藤ともう一人の底辺男子が、二人がかりで奴を捕まえた。
「離せ〜!俺は、女の幸せについて、もう一度考え直すように諭してやってるだけだ〜!!」
石藤はもう一人の底辺男子と一緒になおも叫ぶ酔っ払いを引きずりながら、香織から顔を背けてこう言った。
「彼女は、白鳥と一緒になって、子供も生まれて充分幸せそうじゃねーか。今更昔の事を持ち出すなよっ。」
「っ…!!!||||||||||」
…!! うわっ、石藤の奴、香織の地雷踏みやがった…!||||||||||
「石藤くん…!!」
「?!!」
香織は怒りにブルブル震えながら、石藤を睨み、大声で喚いた。
「確かに昔、あなたに不義理な事をしたかもしれないけど、こんな場所で、子供がいない事を当てこすらなくても、いいじゃない!
もしかして、猿田くんとグルになって、私に復讐しに来たんじゃないの?本当にひどい人ね!!」
「へっ?」
目をパチクリさせて惚けた様子の石藤に、香織は涙目になり、こんな一言を言い放ったのだ。
「あなたと添い遂げなくて本当によかったわ!!」
…!! 香織、よくぞ言ってくれた!
石藤ざまぁ!!
「石藤最低!」
「本当に無神経ね!」
「っ…!!! |||||||||||」
石藤は香織に残酷な言葉を投げ付けられ、香織の取り巻きの女子達から白い目で見られ、傷付いた表情で、もう一人の底辺男子と一緒に、酔っ払いを会場の外へと連れて行ったのだった。
ハハッ!石藤め、酔っ払いの底辺男子を使って、香織との復縁を企てたんだか何だか知らないが、残念だったな!
策略を立てるなら、僕のようにスマートにかつ慎重にやるべきなんだ。
「やぁ、香織、大丈夫だったかい?一体、彼はどうしたんだ?」
いい気持ちになって、香織の元へ駆け付けると、彼女はすぐに助けに入らなかった事を恨みに思って、睨みつけられたが、得意の話術で宥めすかした。
だが、その後の状況は振るわなかった。
幹事の佐倉穂乃香は、僕達夫婦を睨み付け、騒動を起こした底辺男子三人の会場費を半額返すという訳の分からない理由で高い会場費をふんだくって来た。
彼女は、高校時代に俺が石藤から不当に香織を奪ったと誤解して、香織の友達だったにも関わらず絶縁を申し渡し、俺を目の敵にしていた女子だ。
石藤に横恋慕していたのかもしれないが、実らない恋に対する苛立ちを僕達に八つ当たりするのはいい迷惑だ。
会場では、幹事の佐倉穂乃香に配慮してか、僕に対して腫れ物に触るような扱いになっており、興ざめのまま、同窓会終了早々に香織と帰る事にした。
光り輝く僕が、凡人の集まりに参加すると、嫉妬を受けて碌な事にならないという事を遣る瀬ない気持ちで学んだのだった…。
*あとがき*
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