二人のリベンジ
母のツテで紹介してもらった二人目の見合い相手は、俺より一つ年上の女性で、見合い写真を見るとキリッとした美人さんのようだった。
(確か、美也子さんだか、美奈子さんだったかという名前だったと思うが、よく覚えていない。)
一人目の3才年下の見合い相手、冴子さんが
ああいう結果になってしまったので、
母は、年は上でもしっかりした人をと探してくれたらしいが…。
見合い当日、食事処の場所に、見合い相手はおろか、その家族すら姿を見せず、首を傾げていた母に一本の電話が…。
最初は、相手を気遣いつつ事情を聞いていた母が、みるみる顔色を変えていくのが分かった。
「ええ。それでは、もとから御縁がなかったという事でございますわね。いえ、こちらの事は全くお気になさらず。では、失礼しますっ!!」
人当たりの悪くない母が怒り心頭の様子で、電話を切ったところからも、俺は最悪の事態を予想したが…。
「良二…。気を確かにして聞いて頂戴ね。
お見合い相手の人、既に妊娠しているらしくて…。それも、ついさっき分かったんですって。
一夫多妻制を利用している男性が相手らしくて、今、その人と連絡を取るのに家中てんやわんやしているから、申し訳ないけど、見合いの話はなかった事にして下さいですって。」
「「……!??||||」」
俺の最悪の予想を更に越えてくる状況に、俺も父も青褪め、言葉が出なかった。
店側には事情を伝えたものの、俺達までキャンセルにするのは申し訳なく、その後食べた極上の懐石料理のなんと味気なかった事か…。
自分のツテで、紹介してもらっただけに、責任を感じた母はずっと俺に謝っていた。
香織や、冴子さんに引き続き、またしても、一夫多妻制を利用するリア充に、相手を取られるとか…。
もう、俺は、相手に巡り会えない運命なんだろうなと諦めの境地に至ったのはこの頃…。
それが、今…。
両家が和室のそれぞれの座卓の席につき、厳かな雰囲気の中、さくらとの結納が取り交わされていた。
母は結納品と家族構成を記した書類を乗せた台を持ち、さくらの前に運び、二人は軽く礼をした。
「わわ、私ども、石藤家からの結納の品でござ、ございますっ。どうぞ、いいっ、幾久しく、お、お納めくださいっ。」
親父が、噛み噛みで口上を述べると、両家一同礼をした。
さくらは目録をあらため、確認後受書(結納の受領書)を母に渡し…。
「ありがとうございます。ご結納の品、幾久しくお受けいたします。」
財前寺さんが笑顔で受け取りの口上を述べると、父はやっとホッとしたように胸を撫で下ろすと、最後の挨拶では落ち着いていた。
「ゆ、結納式は滞りなくあいすみました。 今後ともよろしくお願い致します。」
「「「「今後ともよろしくお願い致します。」」」」
両家一同深く礼をし、顔を上げた時、さくらと目が合った。
「「…!」」
「(良二さん…♡)」
「(さくら…♡)」
さくらは、輝かんばかりの笑顔を俺に向けてくれ、俺もそんな彼女を笑顔で見返した。
二度目のお見合いで、見合いをドタキャンされることがどんなに精神的に惨めで辛い境遇になるか知っていたのに、事故が理由とはいえ、さくらには同じ思いをさせてしまった。
それなのに、結納の場所は見合いと同じ場所でいいのか?辛い気持ちがよみがえってしまわないか?
結納の準備をしている中、俺はさくらに申し訳ない気持ちで、そう聞いたのだが、彼女はこう言ったのだ。
「確かに見合いの席では、良二さんがいらっしゃらなくて、とても不安で悲しかったです。
けれど、ご両親から良二さんの事を色々お聞きして、やはり素敵な方だなぁとも思っていたのです。
来られなかった事情が、私を嫌っているとかでないのなら、どうにかお会いする事が叶わないかしら?
今回の為に仕立てた着物も彼に見て欲しかったですし、財前寺家がよく利用するこのお店のお料理も味わって頂きたかった…。
と、心残りでしたので、今回はリベンジを兼ねて、同じお店にお願いしてしまいました。
いけませんでしたでしょうか…?」
上目遣いで彼女にそう問われた俺に、異論などあろうはずがなかった。
今までの恋人や見合い相手との嫌な思い出すら、さくらの全てに癒され、浄化されていく。
今回の結納は、俺とさくらにとって、嫌な思い出を共に乗り越え、幸せに向かっていく為のリベンジでもあった。
「良二さん?お刺身のお味、いかがですかぁ?」
和服姿のさくらは、髪飾りを揺らして、結納の後に運ばれて来た料理の味を聞いてきた。
「あ、ああ…。甘みがあってトロトロですごく美味しいよ。」
「ふふ。よかった。ここのお店、市場で魚を買い付けに行っているので、とても新鮮なんですよ。
この後の海鮮鍋もとても美味しいので、期待してて下さいね。
お酒にもよく合うんですが、ビールか何か頼みますか?」
「ああ、じゃあ、ノンアルでも頂こうかな?」
「はぁい♡お父様、お母様も何か飲まれますか?」
「「さくらさん。ありがとう。」」
さくらが飲み物の表を両親に渡して、注文を聞いてくれているのを見遣りながら、俺は今の幸せを噛みしめるのだった…。
*
「さくらは人見知りの強い引っ込み思案の子でしたが、小2で石藤くんに会ってからは、あんな素敵な人のお嫁さんになりたいと色んな事に積極的になって、私達家族にも色んな事を話してくれるようになりました…。
石藤くんの事も毎日話していました。」
「お、お父様、やめて下さい…。恥ずかしいです…。//」
「まぁ…。さくらさん、そんな頃から良二の事を思ってくれていたんですね。」
「有り難い事だな…?良二?」
「あ、ああ…。//」
財前寺さんと両親の会話が和やかな雰囲気で進められているのはよいのだが、俺もさくらも赤面させられること頻りだった。
「使用人も含めて私達家族は皆、以前から石藤くんに好感を持っていましたので、家では今回の婚約について祝福ムードなんですよ。ただ、一人気を付けて頂きたいのが…。」
財前寺さんがそう言いかけた時…。
ガラッ!!
「俺が海外出張をしている間、何、勝手に結納なんてしているんだっ!!
さくらは誰にも渡さないぞっ!!」
「「「「「!??」」」」」
突然、和室の戸が開けられ、キャリーケースを引いたスーツ姿の長身の男性が部屋に乱入してきた。
イケメンが意味ありげなセリフと共に登場したにも関わらず、痴情の縺れかと全く思わなかった理由は、さくらの誠実さの他に、乱入してきた彼が財前寺さんとさくらと同じ、銀髪に青い目を持ち、顔立ちもひどく似通っている事にあった。
「あちゃ〜。面倒臭いのが来ちゃったな…。」
「お、お兄様…。」
財前寺さんは、額に手をやり、さくらは引き攣った笑いを浮かべる中、
(おそらく)財前寺家の長男、龍真さんは、俺を真っ直ぐに睨み付けていた。
*あとがき*
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