さくら女教師になる?!
和哉からの久々の連絡(といっても、2週間ちょっとぶりなのだが)に、まださくらの事を伝えていなかった俺は、LI◯E電話で今までの顛末をすっかり話したのだが…。
『マジか!運命の相手に再会して、即日婚約、結納来月で、結婚式1年後とか俺よりハイスピードなスケジュールじゃねーか。ちょっと連絡しない内にそんな事になっていたとは…。』
和哉は予想通り驚きの声を上げていた。
「あ、ああ…。何だか俺も信じられないぐらいだ…。」
正直にそう言う俺に和哉は軽やかに笑った。
『ははっ。でも、人生って結構一気に動く事があるからな。よかったな?良二!!
相手の子いい子なんだろう?』
「ああ。俺には勿体ないぐらいの相手だよ。(ちょっと腐ってるけど……)」
『彼女とは、頻繁に会ったりしてんのか?』
「ああ。休日の度に会っているよ。ちょうど今も、家に来てて…。」
『えっ!そうだったのか?そんな時にかけて悪かったな?』
「ああ、いや、ちょっとぐらいなら構わないんだが…。」
『いやいや、婚約したばかりだろ?彼女を優先してやれよ。また、今度、俺の彼女も含めて飲みにでも行こうぜ?』
「あ。彼女、まだ19だから、飲みには…。」
『あ、そ、そうか。10歳下だもんな…!
いや、ホントすげーな。良二。じゃ、じゃあ、一緒に食事にでも行こう!うん!』
「ああ。彼女に伝えておくよ。」
『あっ。良二。相手の子、そんなに若いなら特に気を付けてやれよ。』
「何を?」
『避妊だよ。』
「はぁっ?!//」
和哉のまさかの忠告に俺は目を剥いた。
『彼女、まだ学校とかあるんだろ?将来やりたい事もあるだろうし、子作り計画はよく話し合った方がいいぞ?』
「こ、こづっ…??」
『じゃあな、良二、また電話すんな?』
「あ、ああ…。また。」
ブツッ。
「………。///」
和哉との電話を終えると、俺は和哉に言われた事を反芻して赤面した。
畜生。和哉の奴、びっくりするような事言いやがって…。
意識しちゃうじゃねーか。
ただでさえ、家にさくらと二人きりで、ちょっと緊張しているというのに…。
いやいや、再会してからまだ2週間しか経ってないし?
婚約しているとはいえ、10才も年下の女の子に、そんなすぐ手を出すとか、ないない…!
そう自分に言い聞かせて、さくらの待っている自室へ向かうと…。
「さくら、電話終わったよ。ごめんな?」
「…!お…お、おかえりなさい!良二さん!///」
ノックをしてドアを開けた瞬間、さくらは、何やら慌てていて、自分のバックの後ろに何かを隠した。
「??」
好きなBL本でも読んでいたのだろうか?
さくらの顔は真っ赤になっていた。
「おお、お友達からの電話…ですか?」
「あ、ああ。中学からの友達なんだけど、さくらの話をしたら、今度ぜひ自分の婚約者と一緒に会いたいってさ。」
「…!は、はい。それは、ぜひに!…!!」
「ニャーン…。」
さくらが返事をした時、あんずが、さくらののカバンの方へ興味深げに視線を向けて来てた。
「あんず、どうした?」
「あ、あんずちゃんの為に今日、おやつ持ってきたから、それじゃないかなぁ?ホ、ホラ!おさかなジャーキー!!」
「ニャ!♡」
何やら慌てているさくらが、カバンから取り出した猫用のおやつに、あんずの視線は釘付けになった。
「良二さん、これ、あんずちゃんにあげていいですか?」
「ああ。あんずの為にいつもすまないな。さくら。」
あんずの為に、猫用グッズやら、キャットフードやら、さくらからもらいっぱなしで、俺が申し訳なく思っていると、さくらは笑顔で首を振った。
「いーえ?私もあんずちゃんに何かしてあげられるの嬉しいですから。
ハイッ。あんずちゃん、どうぞ?
(コレあげるから、さっきおもちゃにしていたものはお姉さんにちょうだいね?)」
「ニャ〜♡(コクコク…。)ハグハグ…♡♡」
さくらに優しく声をかけられ、差し出されたおやつのジャーキーに夢中でかぶり付いていたあんずだったが、
何だか、あんずとさくらは頷き合っていて、意味ありげな視線のやり取りがあったような…??
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「では、私達のごはんを作り始めますね?キッチンお借りしていいですか?」
「ああ。もちろん。」
「ありがとうございます。では、よいしょっ!」
「…!//」
その場で素早くリボンで髪を結い、エプロンを身に着けたさくらの姿に一瞬見惚れてしまった。
ポニーテール&エプロン姿の銀髪美少女、すげーいいかも…。///
何を作ってくれるんだろうか…?
期待に胸を膨らませていると、さくらは満面の笑みを浮かべた。
「これから、ハンバーグとサーモンスープを作ろうと思いますが…。」
おおっ。何やら、美味そう…!
途中まで料理のメニューをにこやかに聞いていた俺だったが…。
「もし、お腹が空いていたら、先に往復ビンタを食べてくれていてもいいですよ?」
「え…?|||| 往復ビンタ?!」
ご飯が待ちきれない奴には往復ビンタ食らわすって事…?!
最後の不穏な単語に思わず身構えると、さくらは慌てて訂正した。
「あっ。違うんです。往復ビンタというのは、F国の言葉で、シナモンロールのことなんです!」
「えっ。そうなんだ!」
さくらの説明に、どうやら往復ビンタを食らう事態にはならなそうだと分かり俺はホッと胸を撫で下ろした。
「はい。今日の朝作って来たんですよ?」
キッチンへ向かうと、さくらは、自宅から持って来た食材の中から、可愛いシナモンロールがたくさん入った袋を取り出して、俺に見せてくれた。
「オーブンで焼くときに、ぐるぐる巻かれたパン生地が膨らんでいく様子が、往復ビンタで腫れた耳のように見える事からその名がついたと言われているんですって。」
「へー。そうなんだ。美味しそうだなぁ…!」
パンの袋から漂ってくるシナモンの香りに俺が鼻を鳴らすと、さくらは嬉しそうに目を細めた。
「ふふっ。ちょっと時間かかりますので、それを食べててくれてもいいですよ?」
「うーん、美味しそうだけど、料理が出来た頃に一緒に食べるよ。
さくらが頑張って料理してくれるんだから、俺も何か手伝わせてくれ。」
「えっ。い、いいんですか?せっかくの休日なんですから、ゆっくりされていてもいいんですよ?」
「いや、大丈夫。俺もいざという時に最低限の料理をできるようになっておきたいからさ。手伝わせてもらいながら、俺に教えてくれると有り難い。」
再会した時、色々な事が上手くいかなかった俺にさくらが作ってくれた、野菜スープの優しい味を思い出し、俺もさくらに何かあった時、少しは役に立ちたいと思い、そう頼み込むと…。
「う、う〜ん。そんなに言われるなら、分かりました。じゃあ、お手伝い、お願いしま…ハッ!(教える?!女教師!?)」
「??さくら…?」
戸惑いながらも頷きかけたさくらだが、何かに気付いたように小さく息を飲み…。
「分かりましたっ。私、良二さんの教師になりますっっ!!
ビンビン…、ビシビシしごきますので、ついてきて下さいねっ!?」
「お、おうっ…。お願いします。」
突然気合を入れて教師宣言し始めたさくら先生に、ちょっと面食らいながら俺は頭を下げたのだった。




