お互いの趣向
「ニャ、ニャー??」
あれから、わんわん泣きじゃくるさくらとず〜んと落ち込んでいる権田さんを家に連れ、いつもの様子と違う俺達に、あんずが引いて遠巻きに見守る中、リビングで二人の話を聞くに…。
「え?最近お気に入りのBL同人誌の設定が、金髪イケメンと黒髪イケメンの隣人同士のイチャラブ♡だったから、駿也くんと俺に重ね合わせてしまって、つい妄想して萌えてしまったって事?」
「はいぃ…。うっく…ひっく。そうですぅ〜…!////」
俺が驚いて聞き返すと、さくらは泣きながら肯定した。
「そ、そう…だったんだ…?」
駿也くんを見て、さくらが赤くなっていたのは、俺と駿也くんをカップリングにして妄想してしまったという事だったのか…。
さくらが、女の子として駿也くんに惹かれていたわけじゃなかった事に、ホッとするやら、妄想されて何だかショックやらで俺は複雑な気持ちだった。
「た、確かに、私、BLの創作物が好きで、時々、周りの男性同士のやり取りに勝手に良からぬ妄想をしてしまう事もありますがっ。
あくまで妄想で、リアルに起こるのは嫌なんですっ。
私が好きなのは、良二さんだけですからっ。
男性にもNTRはされたくありませんっ!
それに、良二さんとやっと両想いになれた今、その趣味ももう終りにしようと思っていたんです。
数百冊の同人誌や、BL漫画、小説も全部捨てますっ!!
ですから、嫌わないで下さあぃっっ!!
わあぁんっっ…!!」
「いや、ちょっと、さくらっ。泣かないで?」
床に膝をつき、わんわん泣きなが俺に頼み込んでくるさくらを宥めようとすると…。
「石藤様!!どうか、さくらお嬢様を受け入れて差し上げて下さいっ!!」
「ええっ?ちょっ…。権田さん??」
「権田さんっ…。」
更に権田さんも俺に向かって土下座をして来た。
「さくらお嬢様は、高校から、BLに目覚められ、それから毎年欠かさずに某イベント会場に聖地巡礼する程のBL愛好家でいらっしゃいますがっっ。」
「いやあぁっ。バラさないで!権田さんっ!!」
さくらの目からブワッと涙が吹き出した。
「小学2年生の出会いから今まで、さくらお嬢様が、ずっと石藤様を想い続けていらしたのは、確かでございます。
どうかその趣味ごと、広い御心でもって、受け止めて頂けないでしょうか…?」
「「権田さん…。」」
汗をかいて、頭を下げる権田さんと、泣いているさくらに向かって俺は呼びかけた。
「あ、あの、権田さん頭上げて下さい…。さくらももう泣かないで…。俺、別にその事で、さくらを嫌いになったりしませんから…。」
「「ほ、本当ですか…?」」
「は、はい。そういうリアルじゃない、個人の趣向みたいなもの、誰しも一つぐらい持っていると思うし…。」
言いながら、俺は、マイ動画コレクション、の一つ『女教師ビンビン物語』を頭に思い浮かべていた。
「さくらが、他の男性に心を傾けているのよりは、そっちの方がずっといいです。
別に、俺の為にその趣味を諦めることはないよ。そのままのさくらを俺は好きになっていきたいから。」
「あうぅっ…!良二さんっっ!!」
ギュムッ!!フニュフニュン♡!!
「わぁっ、さくらっ!!///当たってるって!!」
感極まったさくらに抱きつかれ、大きな双丘を押し当てられ、俺は大声を上げた。
「サービスですぅっ!!今日は私、チェリーちゃんになりますっっ!!///」
「いやいや、権田さんの前でマズイだろ、それはぁっ!!」
頬を染めて、更に体を押し付けてくるさくらに反応しそうになり、俺が焦った時…。
カシャッ。
「石藤様、さくらお嬢様、今の尊いお二人の姿、しかと画像に収めました。」
権田さんは、スマホを片手に、俺達に爽やかな笑顔を向けた。
「いや、撮らないで下さいよ!権田さん!!//」
「や、やだっ。権田さん。恥ずかしいですぅ。//(でも、その画像後で送ってもらおう。)」
慌てて離れて、文句を言う俺とさくらに、権田さんはキリッと言い返して来た。
「いやぁ。これも仕事でございますよ?ご容赦下さいませ。
旦那様も、この事でさくらお嬢様が石藤様にフラレてしまうのではと心配されていましたので、この画像で安心して頂けるでしょう。」
「「…!」」
そうか。財前寺さんにも、心配をかけてしまっていたのか…。と説得されかかった時、
「あれ?さくらお嬢様、今の画像を待ち受け表示にするには、どうしたらいいんでしたっけ?」
「ああ、権田さん貸して下さい?ここをクリックして…表示を出して…。ホラ、出来ました!」
「ああ、ありがとうございます!さくらお嬢様!」
「いーえ?」
オイオイ。権田さん、それは絶対仕事じゃないよね?!
しかし、さくらがにこやかに許してしまっているので、文句を言っていいものか…。
俺が悩んでいるところへ、さくらが俺にこそっと話しかけてきた。
「良二さん。さっきの話なんですけど…。」
「ん?」
「『そういうリアルじゃない、個人の趣向みたいなもの、誰しも一つぐらい持っている』って、良二さんが言った時、何か深く考え込んでいる様子でしたが、良二さんも、そんな趣向があるんですか?」
「え?」
そう笑顔で聞いてくるさくらの目は笑っていなかった。
*あとがき*
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