虚飾の結婚生活
「あの娘達、考え方がまるで子供じゃない!
子供が出来てから、子育てを言い訳に、家事だってさぼってばかりだし…。
子供達のおもちゃで、いつも部屋は散らかっているし、いつも誰かが騒いでいるし、家にいてもちっともリラックスできないわ!
私はあの娘と子供達の家政婦をやる為にあなたと結婚したんじゃない!」
「ま、まぁまぁ、香織落ち着けよ。綺羅莉も舞花も、まだ若いからさ。
至らないところはあるだろうけど、確かにまだ、子供小さくて大変だろうし、少し大目に見てやってくれよ。」
綺羅莉と舞花達のご飯を買い与えた後、私の部屋にやって来た慶一に私は溜まった鬱憤を一気に晴らすようにぶちまけると、彼はたじろぎながらも、宥めるように言った。
「綺羅莉ちゃんの時も、舞花ちゃんの時も、あなた約束してくれたわよね?
他の奥さんを迎え入れても、私と私が生む子供を第一に優先してくれるって。
あの娘達や、子供達の面倒は私は見ないって。」
将来有望な慶一と幸せな結婚をした筈が、結婚から一年で他の女の子を妊娠させて、一夫多妻制の手続きを取ると言った時のショックは、今でも記憶に新しい。
離婚届けを突き付けた私に、慶一は、私の要望を全て飲むから離婚だけはしないでくれと頭を下げたのだった。
「わ、分かってるよ。もちろん、俺にとっての一番の妻は、香織に決まってるだろ?
今日の同窓会もそうだし、社交的な場では香織をパートナーに連れて行ってるじゃないか。
綺羅莉と舞花達の面倒は見なくても、いい。
けどさ、香織にも子供が出来たら、桃姫、万里生、瑠衣二達と兄弟仲良く暮らせた方がいいだろう?
ギスギスしてたら、子供にも悪影響だろうし、少しは彼女達にも歩み寄ってやってくれよ。なっ。」
「……。」
私が座っているベッドの隣に座って来て、私の肩を抱き、まだ生まれてもいない子供の事まで持ち出して丸め込もうとする慶一を睨みながらも、結局はここで生活をしている限り、彼の言う通りにしなければならない事も分かっていた。
「子供が出来れば、今の生活を楽に感じるところも出て来ると思うよ?
今日、医者から言われている日なんだろ? 協力するからさ…。」
ドサッ!
「…!慶一くん…。」
そう言って慶一は、私を押し倒し覆い被さって来た。
「香織…。君を一番に愛しているよ…。」
*
*
結婚して3年目ー。
未だに子供が出来ない事を病院で相談し、指定された日に夫に子作りをせがむ日々ー。
既に他の妻達は妊娠、出産、子育てと順調に進んでいる中、私だけがいつまでも前へ進めないまま、この地獄のような毎日を生きている。
私を抱く慶一は愛を囁きながらも、その冷えた目とから感じられるのは、ただ義務感のみ。
本当は分かっている。
私達の間には愛なんかとうになくなっている事を…。
慶一は、私をもう女として見ていない。
ただ、社交場に連れ歩くのに都合がよいのと、体裁の為、私を繋ぎ止めておきたいだけ…。
生殖に関しては他の二人妻が既に役割を果たしている。
不妊治療に協力はしてくれるとは言ってくれたものの、慶一は何が何でも私との間に子供を作りたいとは思っていない。
他の妻に子供が出来ている事からも、不妊に多分私の方に原因があるのかもしれないけれど、その温度差が私は辛かった。
もし、元カレと結婚していたらどうだったんだろう…?
私は今日、同窓会で再会した元カレ、良二くんの姿を思い浮かべた。
同窓会で、猿田くんに絡まれていた時、慶一は私を助けようともしなかった。
けど、猿田くんを止めようとした良二くんは私を助けようとしてくれていたのかな…。
猿田くんとグルになったと勘違いした私が「あなたと添い遂げなくてよかった」とひどい言葉を投げ付けた時、彼はとても傷付いた瞳をしていた。
それを見て、彼は私に未練を残している事を感じ、自分でもひどいと思うけど、心の奥深いところで安堵していた。
きっと、彼なら、私に不妊の原因があったとしても寄り添ってくれ、「協力してあげる」ではなく、「一緒に頑張ろう」っていってくれたかな…。
なんて、彼を裏切っておいて、傷付けておいて、そんな想像で自分を慰めるなんて、今更虫が良すぎるよね…。
そうは思いながらも、私は高校時代彼と過ごした日々を次々に思い出していくのを止められなかった…。
✽あとがき✽
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今後ともどうかよろしくお願いしますm(_ _)m