最悪の同窓会《白鳥香織視点》
「それじゃ、香織は香織で、友達と話したいだろ?また後でな。」
「ええ…。」
夫の慶一は私に背を向けると、自分を熱っぽい目を向けてくる女達に囲まれ、盛り上がっていた。
どこまでも勝手な男…!
自分に予定あるからと、同窓会のハガキを私の分まで勝手に欠席で出した上、予定が変わったからと、急に私にも出席するようにと言い出し、会場に着いてみれば自分は奥さんそっちのけで、独身女性に囲まれ盛り上がっているなんて…。
まぁ、他の女に囲まれ盛り上がっているのは、家でも同じだけど…。
「白鳥くん、気遣ってくれて優しいね?香織、幸せ者だね?」
「今日のドレスも素敵ね。高収入の旦那様がいて、いいなぁ…!」
高校時代に私の取り巻きだった女の子達からは、羨望の眼差しを受け、私は曖昧に笑うしかなかった。
「エヘヘ。まぁね…。」
いいなぁと思うなら一日でも、私の立場になってみればいいと、私はげんなりした気持ちで思ったが、こういう子たちが、私のいないところでは何て噂しているか知っている。
出来るだけ弱味は見せないようにしなくっちゃ。
私は成功者の妻として、輝かんばかりの笑顔を顔に貼り付け、女の子達と楽しく語らっているフリをした。
同窓会の幹事は、確か穂乃香だった筈…。
高校時代は、元カレの事があってから、彼女とは疎遠になってしまったけど、最近偶然会う機会があって、以前のようにとはいかないものの、近況を報告し合えるぐらいの仲になれた。
歯に衣着せぬ物言いながら、私を親身になって心配してくれる彼女は、この中で、唯一信頼出来る友達だった。
穂乃香と早く話したいなぁ…。
そう思い、会場をぐるりと見回したとき…。
…!!!
心臓が止まるかと思った。
会場の端の方のテーブルに、高校時代の元カレ、石藤良二くんが友達と一緒に話しているのを見つけたのだ。
な、なんで!?
高校時代、私との事であれだけひどい事があった彼が同窓会になど、当然来るわけがないと思っていた。
知らん振りをしていればいい。どうせ、向こうも私になんか関わりたくない筈…。
彼に背を向けて、私は震える手に力を込めて、カクテルを一口煽った時…。
「瀬川香織ーーっっ!!お前の元カレ石藤良二がここに来てんぞーっっ!!」
!??
突然誰かが私に向かって、声を張り上げた。
振り向くと、顔は朧気に覚えているが、名前が思い出せない男性が、大分酔っ払った様子でこちらを睨んで来た。
「「(げっ。猿田…!)」」
取り巻きの女の子達が、苦々しく呟き、やっと名前を思い出した。
ああ、そうだ。この人、猿田くんだ。
昔から、余計なことばかり言うお調子者で、女子からは毛嫌いされていた。
「猿田っ?」
「お、お前何を言っ…?うわっ!」
!!
そこへ、二人の男子が駆け寄って来た。
良二くんとその友達だった。
止めようとしたらしいけど、二人は振り払われ、猿田くんは私の方にツカツカと歩み寄った。
「猿田くん、りょ…、石藤くん?」
私は何が起こるのだろうと恐ろしい思いで、猿田くんと良二くんの姿を前に、目を見張っていた。
「さ、猿田、このバカ野郎…。||||」
近くにいる良二くんの友達も青褪めて固まっている。
猿田くんは、更に大声を張り上げた。
「お前、瀬川香織!!誠実な陰キャの石藤裏切って、リア充イケメンの白鳥の妻になって、いい気になってるかもしんねーけどな!
三股されて、他の二人の妻と一緒に住むって、実際のところどうなんだ?
暮らしぶりは豪華かもしれねーけど、他の女とイチャイチャする旦那を見せられるって虚しくねーのかよっ?
本当のところは、石藤と結婚してたら、一途に愛してもらえたんじゃないかって、後悔してんじゃねーのかぁっ?
どうなんだぁっ??」
「…!! |||||||||||」
私は、口に両手を当て、蒼白になった。
それは、私が心の奥底でずっと感じていた事だった。
こうして、猿田くんの口を通して、現実に言語化され突き付けられたショックに私は倒れそうだった。
「何言ってんの?コイツ!」
「頭おかしいんじゃないの?」
「やめろ!!猿田!」
「お前飲み過ぎだぞ。」
「うわっ。何だよ!」
体がふらつきそうになる中、取り巻きの女子達から猿田くんに対する非難が相次ぎ、良二くんと友達は、二人がかりで猿田くんを捕まえた。
「離せ〜!俺は、女の幸せについて、もう一度考え直すように諭してやってるだけだ〜!!」
良二くんは友達と一緒になおも叫ぶ猿田くんを引きずりながら、私から顔を背けてこう言った。
「彼女は、白鳥と一緒になって、子供も生まれて充分幸せそうじゃねーか。今更昔の事を持ち出すなよっ。」
「っ…!!!||||||||||| 」
それは、彼にだけは絶対に言われたくない言葉だった。私に一番残酷な言葉を投げつけた彼に心の底から怒りが湧き上がって来た。
「石藤くん…!!」
「?!!」
私は怒りにブルブル震えながら、良二くんを睨み、大声で喚いた。
「確かに昔、あなたに不義理な事をしたかもしれないけど、こんな場所で、子供がいない事を当てこすらなくても、いいじゃない!
もしかして、猿田くんとグルになって、私に復讐しに来たんじゃないの?本当にひどい人ね!!」
「へっ?」
目をパチクリさせて惚けた様子の彼に、益々腹が立ち、私は涙目になり、更に決定的にひどい言葉を放ってしまった。
「あなたと添い遂げなくて本当によかったわ!!」
「石藤最低!」
「本当に無神経ね!」
「っ…!!! |||||||||||」
彼は私に残酷な言葉を投げ付けられ、取り巻きの女子達から白い目で見られ、傷付いた表情で、友達と一緒に、酔っ払って泣き上戸になっている猿田くんを会場の外へと連れて行ったのだった。
「やぁ、香織、大丈夫だったかい?一体、彼はどうしたんだ?」
全てが終わった後にやっと駆け付けて来た夫、慶一を私は睨みつけた。
✽あとがき✽
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