王子のキスは三段階
「うわぁん!!いきなり過ぎます!こんなのキスのオフサイドだぁ!!」
え?さくらちゃんに頼まれ、勇気を出してキスをしたというのに、さくらに泣かれ、朝ドラの展開に対する芸人さんのコメントのような文句を言われ、俺は驚くばかりだった。
「ご、ごめん。さくらがしてっていうから、いいのかと…。嫌だった?」
「嫌なわけないじゃないですかっ!!//」
さくらの逆切れに2度びっくりして、俺は声を上げた。
「ええっ!?」
もう何がなんだか…。
さくらは唇に指を当てて真っ赤な顔で呟いた。
「良二さんとの初めてのキス…、一瞬ふわっと唇が柔らかく重なって、とっても素敵でした…♡」
「さくら…!」
取り敢えず、嫌がられてはいなかった事にホッとしたが…。
「でも、いきなり口に来ると思っていなかったから、心臓麻痺になるかと思うぐらい、びっくりしました。
とんかつの作り方でいうと、小麦も卵もつけない内に、パン粉つけちゃったみたいな感じです…!」
「お、おぅ…。そ、それは確かにいきなり感あるな。ごめん。俺、間違ってたよ。」
とにかく、怒る彼女を宥めようと、話を合わせて謝る俺に、さくらはウンウンと頷いた。
「ええ。良二さんは、私の王子様なんですから、キスもゆっくり大事に進めていかないとですよ…?」
「そうだよな。本当にごめん。ちなみに、さくら。こういう場合、どうすれば正解だったんだ?」
「う〜ん。そうですね。」
恐る恐る問いかける俺に、さくらはにっこり笑いかけた。
「じゃあ、実際にやってみますね?良二さん、手を出して下さい。」
「お、おう…。」
俺が手を差し出すと、さくらはその手をとり、口元に近づけ…。
チュッ!
「わっ。//」
さくらは唇を尖らせて、俺の手に軽く口づけをした。
「こ、これが、キスの第一段階です。//」
「そ、そうなんだ…。」
さくらの唇が触れたところが火のように熱く、俺は動揺を隠すようにモジョモジョと手を動かした。
「ね、ねっ?第一段階で、十分ドキドキするでしょう?//」
「あ、ああ。//」
俺はさくらの照れながらの説明に納得して頷いた。そうか。さっきのさくらの頼みは、口ではなく、手にキスしてって事だったのか。
そう言えば、あの時、さくらは手を差し出していたような気がする。
手へのキスでも充分恥ずかしくて、ドキドキして目を閉じていたのに、なんといきなり口にされてしまったから、驚いてしまったという訳か…。
そうだよな…。さくらは、深窓の令嬢で、男子に免疫のない子なんだもんな…。
もっと俺が気をつけてあげなきゃいけなかった。
「さくら、俺が悪かっ…」
「では、次に第二段階の説明をします。」
「え。」
俺の発言に被せるように、さくらは興が乗って来た様子で、続きを説明し始めた。
「さ、さく…ら…?//」
不意に目の前に、伸びをしたさくらが迫っていた。
チュッ!
「わっ!///」
額に、唇を押し当てられて、思わず声を上げた俺に、さくらは声を上擦らせながら説明した、
「だだ…第二段階はお、おでこです。お、王子様といったら、やはり、おでこチューは外せないかと…。///」
「そそ、そうなんだ…。///」
「そそそ、そして第三段階に…。」
「…!」
さくらが俺の首に手を回し、抱き着いて来たかと思うと、唇と唇が近付き…。
チュウゥ…。
「んっ。んんっ…。///」
「んっ。んむっ…。///」
さっきよりも、唇が深く長く合わさり、俺達は熱い吐息を漏らした。
「ぷはっ。はぁっ。はぁっ。わ、分かりましたかっ?第三段階で…、や、やっと、唇ですっ。」
「ぷはっ。はぁっ。はぁっ。わ、分かったよ。さくら、今度から気をつけるよ。」
長いキスのあと、人差し指を立てて言い聞かせるさくらに、俺は素直に頷いたが、一つ疑問に思う事があった。
「はぁっ。だけど、さくらさ…。」
「はぁっ。なんですか?良二さん…?」
「さっきより今の方がよっぽどすごい事してない?」
「へっ。」
さくらは、俺の指摘に今の言動を思い返すように視線を巡らせると…。
「……!!!!」
何かに気付いたように、ハッと口に両手を当て、立ち上がった。
「あ…。私は今、一体、な、何をっっ!!?////」
さくらはぐるぐるの目になり、顔から湯気が出る程赤くなった。
「ああっ。もう、良二さんを襲ってチュウ×3するなんて、私は変態ですっっ!!
オフサイドは私でした!!うわあぁん!!良二さん、ごめんなさぁいーっっ!!!!」
レッドカードもらった選手よろしく、その場を駆け足で退場しようとするさくらを俺は必死に呼び止めた。
「さくら待って!!俺は嫌じゃなかったから、大丈夫だって!!」
「…!!ほ、本当…ですか?」
「ああ。」
涙目で聞いてくる彼女に俺は頷いた。
「どんな変態でも私の事、嫌いにならないでくれますか?」
「ああ。もちろんだよ。それを言ったら俺だって、結構変態だし!どんな変態でも、俺はさくらが好きだよ!!」
「っ!!|||| (さくらお嬢様…!石藤様…!)」
俺が言い切ったところへ、息を飲む音が聞こえ、振り向くと、葉っぱを頭につけた権田さんが呆然とそこに立っていた…。
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運転手の権田さんに、衝撃的な場面を見られてしまったものの、あの後、キスの事はぼかして状況を説明し、お互いなんとか変態の汚名は晴らす事ができた。
「またデートに誘って下さいね?良二さん?」と頬を染めてお願いしてくる彼女に、「必ずまた連絡する」と伝え、権田さんにも軽く会釈され、彼女を乗せた車が立ち去るのを見送ったのだった。
「さくら、可愛かったな…。」
笑顔。泣き顔。怒り顔。今日のさくらの色んな表情、寄り添った時に感じた彼女の甘い匂い、柔らかい温もり。
そして、帰り際にした(された)さくらとのキスを思い返してはポーッとしていた俺は、夢心地で家に帰った。
「ニャ!ニャニャン♡ニャニャン♡」
「ん?どうした、あんず。そんなに主人の帰りが嬉しかったか?」
家に入った途端、いつも以上にあんずから帰りを喜ばれ、頭を撫でてやろうとしたが、あんずはそれを振り払って、俺のカバンをしきりに前足でカリカリ引っかき始めた。
「コラコラ、あんず、そんなにしたら、傷になっちゃうだろう?何でそんなにカバンを…。」
と、叱ってカバンをあんずから引き離した俺だが…。
「あ。」
ある事に思い当たり、愕然とした。
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《おまけ話 デートの帰り道さくらサイド❀》
一方、桜も、帰りの車の中で良二とのキスを思い出し、ポーッとしていた。
「エヘヘ…。初めてのチュウ…。良二さんの唇、とっても温かくて柔らかかった…。
このまま、ヘリウム風船になってしまいそう…。エヘヘへ…。///でも、そしたら、飛んで行って、またすぐに良二さんに会えるかなぁ…。んふっ♡」
「…様。さくらお嬢様?」
「エヘヘ。なんれすかぁ?ごんらさん…。」
権田の通算50回目の呼び掛けに、呂律が回らないながらも、やっと返事をした桜。
「デート(&チュー)の余韻に浸っておられるところ恐縮ですが、座席にある袋は、石藤様にお渡ししなくてよかったのですか?」
「へっ? 」
権田に言われ、隣の座席においてある袋を見て、桜は目を剥いた。
「ああっ!!あんずちゃんの猫缶差し上げるの忘れてましたぁっ!!||||||||」
*あとがき*
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次話から、7話分、元カノ視点のお話になります。大分重い話になりますが、見届けて下さると有難いです。
よろしくお願いしますm(__)m




