桜色の初デート
「この格好でいいか…?」
休日のある日、さくらと約束をした俺は念入りにヒゲを剃った後、比較的綺麗めなシャツとパンツを身に着け、首を傾げた。
「ニャー!」
俺の出て行く気配を感じ取ったのか、トラ模様の三毛猫=あんずは、引き止めるように俺の足の辺りを前足でカリカリしてきた。
「少し出かけるけど、待っててな?あんず。さくらがまた猫缶持って来てくれるって言ってたから、お利口さんにしてたら、お土産あげるからな?」
「ニャ!ニャー♡」
あんずを宥めるように言うと、『猫缶』と口にした途端、奴は大人しくなった。
すげーな。さくらの猫缶の威力。
この間、さくらの家からいくつか高級猫缶を頂いたのだが、正にキャットまっしぐらの美味しさで、今や『猫缶』というだけで、聞き分けが良くなってしまうゲンキンな彼女なのであった。
ちなみに、動物病院に、色々診察してもらい、あんずは生後四ヶ月程のメスだという事が分かった。
「んじゃ、行って来るな…。」
「ニャ~♡」
あんずの頭を撫でて家を出たところで…。
「あっ!良二くん、はよーん!!」
「西城さん!おはようございます。」
道の途中で、今度は庭で水撒きをしていた隣人の西城亜梨花に呼び止められた。
「ケガの具合は大丈夫そ?」
「ああ。お蔭様でもうすっかり良くなりました。その説は駿也くんにお世話になりました。明日にでもお礼にお伺いしたいんですが、夕方頃とか、ご都合大丈夫ですか?」
「おうよ、大歓迎!明日は皆オフの日だから、いつでもオッケー!また、飲もう飲もう!!」
「いや、おれ、しばらく酒はちょっと…。||||」
ここ最近、酒で立て続けにやらかしてしまった俺はげんなりした顔で拒否ったのだが、西城亜梨花は、ニヤニヤした笑顔で、そんな俺を見遣った。
「ははーん?こりゃ、女ですな!彼女にあんまり飲み過ぎないでとか言われたんでしょう?」
「えっ!」
動揺する俺に、彼女は人差し指を突き出して言った。
「良二くんが事故にあった日、お見合いまでダメになったっていうし、心配で旦那ーズと家の前まで様子見に行ったんだよ。」
「えっ。そうだったんですか?」
「うん。そしたら、先客が居てさ。銀髪、青い目の天使みたいに綺麗なお嬢ちゃんが、良二くんの家の中に入ってくじゃない?
良二くんにもやっと春が来たのか〜。そっと見守ってあげようと三人で頷き合って、そのまま引き返して行ったの。
今日、お出かけの用事もその子とのデート!ビンゴでしょ?」
「えっ。いや、その…。//」
次々に言い当てられて、俺が目を白黒していると、亜梨花は興味津々の様子で俺に迫って来た。
「ねぇ!あんな美人どこで引っ掛けたの?親しき隣人の仲じゃないか。教えてよ〜。」
「う〜ん。端的に言えば、彼女は、あの時の俺の見合い相手で、10才年下の大会社の社長令嬢なんですけど、実は12年前彼女がまだ小学生の頃、元カノと一緒に、不審者から助けた事がありまして、その時からずっと俺に好意を寄せてくれていたらしいんです。」
「へっ?」
俺が一気に捲し立てるように説明すると、西城亜梨花は目をパチクリとさせた。
「い、いやいや〜、韓ドラやラノベじゃないんだから、いくら何でも現実にそんな事あるわけないでしょぅ〜。良二くんがそんな冗談言うなんてお姉さん、ビックリしちゃったぞ?」
「そうだよな…。人からそんな話聞いたら俺だってそう思うわ…。」
「おいおい」と突っ込んでくる彼女に、俺は顎に手をかけて考え込むようなポーズをとり、呟いた。
そして、ふと腕時計を見ると、結構時間が経ってしまっている事に気付き、慌ててその場を辞した。
「あっ。すいません。俺、行かなきゃ行けないんで、その話はまた明日にでも!」
「了解!明日は煙に巻かないで本当の事、教えてよ〜!私も旦那ーズも良二くんの幸せを応援しているからね〜っ?」
俺の背を彼女の明るい声が追い掛けてきた。
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一人目のお見合い相手は、父の知り合いのつてで紹介してもらった3歳年下の愛想のいい冴子さんという可愛らしい女性で、初めての見合いの場で緊張する俺に色々話かけてくれ、俺を「誠実な優しい人」と言ってくれた。
その後、冴子さんの両親のホームパーティーに両親と共に招かれる機会があり、向こうの両親にも気に入られ、もしかしたらこのまま上手くいくかもと期待したが、初めて二人で会う事になった折、待ち合わせ場所で待っていた冴子さんはひどく気まずそうな顔をしていた。
以前付き合っていた人と、よりを戻す事になった。もう同棲も始めていて、申し訳ないが、あなたと縁を結ぶ事は出来ないと伝えられ、何度も頭を下げられ、
俺はその場は慌ててそれなら仕方がない。この話はなかった事にしましょうと伝えた。
別れた後に、父経由で、彼女は一夫多妻制を利用する男性と結婚したと聞いた。
香織に引き続き、二股、三股かけるような男に、俺は負けたのかとショックだった…。
彼女の「誠実なやさしい人」という言葉が残酷に頭の中で響いていた。
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さくらとの待ち合わせは、デートの行き先である科学館の最寄り駅、F駅の前だった。
この間、見合いをすっぽかしてしまった反省から、約束の時間の少し早め、30分前に着いたのだが…。
駅前のベンチに、綺麗な銀髪にエンジェルリングの艶が浮かぶまさに天使そのものの美少女がフリルつきの紺のワンピースを身に纏い、楚々とした様子で座っていた。
不安気に周りを見回していたさくらは、俺の姿を捉えると、パッチリした青い目を嬉しそうに細めた。
「あっ。良二さん…!」
花が咲くような彼女の笑顔を見た瞬間ー。
俺は何故だかすごく救われたような気がしたんだ…。
*あとがき*
いつも読んで下さり、ブックマーク、リアクション、ご評価下さりありがとうございます。
3章もどうかよろしくお願いします。
※なお、今回のデート中のさくらちゃんをイメージしたAIイラストとさくらちゃん&あんずちゃんをイメージしたAIイラストを近況ノートで公開しますので、ご興味あればご覧下さると嬉しいです。
https://42432.mitemin.net/i947711/
https://42432.mitemin.net/i947710/




