銀髪美少女からの求婚
「父が言うには、私は幼き日にお守りをくれたその男性に恋をしていて、それ以外の男性に拒否反応を示しているのではないかと言うんです。
思わぬ事を言われ、私は驚きました。
あの時の事は大切な思い出となっていて、良二さんの事を何度も思い返していましたが、自分が恋をしているとまでは思っていなかったのです。
だって、良二さんは香織さんと既に結ばれているものと思っていましたから。
良二さんの身元を調べて、見合いを打診してみると言う父に、私はやめてもらうよう涙ながらに訴えました。
今は、一夫多妻制が許されているとはいえ、全ての人が納得して利用している制度ではなく、自分の存在が良二さんと香織さんの絆を裂くような事になれば、恩を仇で返してしまう事になる。そんな事になれば、私は自分を許せません。
父は私の訴えに、困ったような顔をすると、では、良二さんと香織さんが既に結ばれていたのなら、もう一度二人にお会いしてあの時のお礼を言い、気持ちに区切りをつけるように言い聞かせたのです。
そして、その後しばらくして香織さんは、他の男性と結婚され、良二さんは独身である事を知りました…。」
そこで、さくらちゃんは、俺の顔色を窺うようにチラリとこちらを見た。
「私もショックでしたし、良二さんの気持ちを思うと胸が痛みましたが、そうなると、私の取るべき道は一つでした…。」
「ふっ。そんな申し訳なさそうな顔しなくていいよ。切羽詰まった状況でさくらちゃん、俺を気遣ってくれてありがとうね。
それで、今は体調の方は大丈夫そうなの?」
「は、はい…。それが、その…。」
さくらちゃんは、真っ赤になりながら、両手の指を組み合わせてモジモジしていた。
「ゲンキンなもので、良二さんとの見合いが決まってからというもの、体調を崩すどころか、どんどん元気になってしまって…。
お見合いの日が近付くにつれ、お見合いで着ていく晴れ着を精力的に選んだり、美容院へ行ったり、友達にも「最近楽しそうだね?何かいい事あったの?」なんて言われるぐらい浮かれている自分に気付いたんです…。」
「そ、そうなんだ…。//」
「父の指摘は正しかったみたいで、小2のあの時から私は良二さんにずっと恋をしていて、心の底では、いつか結ばれたいと思ってしまっていたのです…。
気付かないままに、12年間も初恋を拗らせていた私は面倒臭い女だと思いますか…?
」
「い、いや、その…。///」
頬を赤らめ、可愛らしく上目遣いでこちらを窺うさくらちゃんに、ドギマギして俺は何と言えばいいか分からなかった。
「石藤良二さん、小2で出会ったあの時からずっとあなたの事が大好きです。私と結婚してもらえませんか…?」
「さ、さくらちゃん…!」
真摯な瞳を向け、プロポーズの言葉囁く彼女は、とても綺麗で、俺は目を見開いた。
彼女の気持ちははすごく嬉しかった。
小2の時のあの愛らしかった少女が、美しく成長して、ずっと俺を想い続けてくれていたと聞いて、感慨深いものがあった。
ただ、一方で、俺なんかがそんな尊い彼女の手を取っていいのかという迷いがあった。
「俺…なんかでいいんだろうか…。」
思わず口をついて出てしまった言葉に、さくらちゃんは力強く頷く。
「はい。私はあなたじゃなければダメなんです。」
「でも、さくらちゃん。
俺が君を助けたのは、香織が先に君の様子に気付いて俺に教えられたからで、加えて、彼女の手前、少しいいカッコをしたいという気持ちもあって気張っているところもあったんだよ。
彼女がいなかったら、俺は君が困っている事に気付く事も助ける事も出来なかったと思う。
本当の俺は、君みたいな素敵な子が12年も想って伴侶に望んでくれるのに相応しい奴じゃない。彼女にも、見合い相手にも見限られて、飲んだくれて女の子に愚痴るようなただのオヤジだよ。
それでも、君は本当に俺でいいのか?」
仏に懺悔をするように、純真なさくらちゃんを前に、洗いざらい自分の気持ちを喋ってしまった俺だったが…。
「ふふっ…。良二さんは、おかしな事をいいますね。」
さくらちゃんは、口に手を当てて笑い出した。
「良二さんが、昔も今も素敵な人だという事は、私とこの猫ちゃんが無事だという事が証明しているではないですか。」
「ニャー♡」
「…!」
いつの間にか、ご飯を食べ終わってた野良が、さくらちゃんの足元にすり寄って来ていた。
彼女は、野良の背中を撫でながら俺にいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「まぁ、感動の再会シーンを忘れてしまったのは悲しいので、お酒はほどほどにして頂きたいですけどね?
懐かせてしまったこの猫ちゃんをお家で飼うことにしたんでしょう?
私も一緒にもらって欲しいな…。」
「さくらちゃん…。」
「香織さんが私の様子に気付いてくれて、良二さんは、それを知ってすぐ行動してくれた。
今の香織さんの事は分かりませんが、昔の香織さんと、良二さんはよく似た素敵なカップルでした。
12年想っていた人をすぐに忘れる事はできないかもしれません。けれど、良二さんが振り向いてくれるまで私いつまででも待ちます。
私と一緒に人生を歩いて行ってくれませんか…?」
そう言ってさくらちゃんが差し出して来た白い手は少し震えていた。
一瞬の躊躇いの後…。
俺は覚悟を決めた。
「あっ…。///」
両手で彼女の手を握ると、彼女の手は柔らかく、緊張のためか少しひんやりしていた。
「さくらちゃん。こちらからもお願いします。俺と一緒に人生を歩いて行ってください。」
「は、はいっ。う、ううっ…。良二さんっ!嬉しいですぅっ!うわあぁ〜んっっ!!」
「さ、さくらちゃん…。///」
号泣して、俺の胸に飛び込んで来る彼女の背中や、髪をぎこちない手つきで撫でながら、俺は冷たく空っぽだった胸が優しく温かい想いで満たされていくるのを感じていた…。
*あとがき*
読んで下さりありがとうございます!
いよいよ二人で人生を歩んでいく事になった良二くんとさくらちゃんを見守って下さると嬉しいです。
今後ともどうかよろしくお願いしますm(_ _)m




