新たな命
石藤家の居間にてー。
「ふんふふ〜ん♪赤ちゃん、今日も元気かな〜っと。あっ。今、お腹をちょんちょんってつつかれました!赤ちゃんが動いたみたいです!」
「えっ。本当かっ?さくら!」
「ニャニャッ?」
ソファに座って、生まれてくる子供の為に鍵編みでくつ下を編んでいたさくらは、少し目立つようになって来たお腹に手を当てて叫び、隣にいた俺とあんずは興奮して声を上げた。
「おーい。赤ちゃん。返事してくれ〜。」
「ニャー!ニャニャニャ〜!!」
俺とあんずはそのお腹に顔を寄せ、呼び掛けてみたが、何も聞こえなかった。
「ふふっ。胎動も小さいから、まだ外までは聞こえないと思いますけど、もう少ししたら赤ちゃんの耳も聞こえるようになるそうなので、いっぱい話しかけてあげて下さいね?」
「お、おう。分かった!(赤ちゃん、日に日に成長していってすごいんだなぁ…!)」
「ニャ!」
さくらに言われ、俺は生命の神秘に感動しながら、俺とあんずはコクコクと頷いた。
「それにしても、あれからあっという間でしたね…。」
「ああ…。本当にそうだな…。」
さくらの言葉に俺は感慨深く目を閉じた。
あの日、今までしつこくさくらに絡んで来た白鳥慶一をRJ本社で撃退した。
→白鳥の被害①
さくら&権田さんのBLのAVアタック!
俺に殴られる。
北欧のイベント企画から降ろされる。
香織に男性不妊&子供の実の父でない事を知らされる。
同日に白鳥の会社スワンの社員、青田という男が、白鳥に指示された、脱税とお金の使い込みの誤魔化し、それから俺へのひき逃げ事件を警察に自首して来た。
→白鳥の被害②
脱税、横領罪の嫌疑で即日逮捕される。
そして、同時に宮並という女子社員は白鳥の女性関係について会社システムを使って、ネットで派手に公表したらしい。
→白鳥の被害③
白鳥個人への社会的な信用が地に落ちる。
白鳥の撃退計画を立ててくれていた権田さんも、宮並という女子社員の行動は予想出来ず、連続多発ざまぁの憂き目を見た白鳥に対して、
「因果応報とはこのような事を言うのでございますね…!」
と慄いていた。
白鳥と青田という社員は、裁判の末実刑判決を受け、社長個人の、会社としての信用を失墜した㈱スワンは、あえなく倒産する事になった。
複数の不倫相手の配偶者から訴えらてもいる白鳥のその素行の悪さについて、連日テレビや雑誌で報道され、隣人の西条亜梨花やさくらの友人の宝条秋桜さんがインタビューされている場面を見かける事もあった。
また、青田という社員は俺に対するひき逃げの罪を自首していたが、そちらについては、権田さんの言う通り白鳥の罪を暴露する交渉の為、示談のみで実刑は求刑しない方針にした。
服役後は、権田さんが財前寺龍人の力を借りて、青田という社員の就職先を紹介する約束までしたとの事だが、詳しく聞こうとすると、「妻をひき逃げした犯人も働いているところに紹介しようと思います。二度と外…石藤様の前に現れる事はありませんので、ご心配なさらないで下さいね。」と凄味のある笑顔で言われ、それ以上何も聞けなかった。
あんな怖い権田さん、初めて見た。
そしてそれらの騒動の後、程なくしてさくらの妊娠が分かった。
白鳥を撃退する日の前日と当日、気分が昂って、さくらとかなり盛り上がってしまったのだが、どうやらあの時にできた子らしい。
既に新しい命を宿していたさくらを危険な目に遭わせてしまったのかもしれないと、今更ながらに俺は青くなったが、さくらは気丈に笑って言うのだった。
「この子が大きくなったら、悪い人からお父さんに守ってもらった事を教えてあげましょうね。」
そして、さくらは逆に俺を心配して聞いてきた。
「今回の事で、白鳥に対峙したり、香織さんとも連絡を取ったりすることで、昔のトラウマが掘り起こされたり、新たに傷付けてしまう事がなかったですか。」
と…。
俺もさくらに笑って言うのだった。
「そんな事は全くない。寧ろ、さくらのおかげで、昔のトラウマが払拭されたよ…。」
白鳥を殴りつけた俺を、さくらが涙を浮かべて労ってくれた時、13年前の文化祭での出来事が時を越えてようやく報われた気がする。
俺は一生をかけてさくらにこの恩を返し、また愛おしみ大事にしていきたいと改めて思ったのだった。
「つわりは、収まったって事だけど、イベント参加は無理しなくていいんじゃないか?」
「いえ、私、一応料理部門の責任者の一人なので、全く参加しないわけにも…。
短時間のトークショーに参加して、時々売り場を回るだけですし、先生や秋桜ちゃんにフォローもお願いしていますから、そんなに、心配しないで下さい。」
再来週に開催される北欧イベントについて、大事な時期のさくらが参加する事に俺は心配でたまらなかったが、そんな俺に彼女は苦笑いででもとても嬉しそうにそう言った。
「何かあったら、すぐに今田先生や、宝条さんに任せるんだぞ?いざとなったら俺も売り場に立つから!」
イベントに参加予定の俺がそう言うと、さくらは満開の桜の花のように微笑んだ。
「ふふふっ。はい。分かりました。いざとなったら、良二さんにはスタッフ用のピンクの可愛いエプロン、着てもらいますね?」
✻あとがき✻
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
次話で本編一区切りさせて頂きたいと思います。