白鳥への制裁《青田雅彦視点》
「ふうっ…。これで終わりか…。(白鳥社長もこの会社も…。)」
白鳥社長がRJ本社の打ち合わせに出かけると、僕は隠し持っていた裏帳簿や、白鳥社長が今まで会社の金を使い込んでいた記録データを鞄に入れ、社外へ出ようとすると…。
「ちょっと待ちなさい!青田くん!」
「っ…!||||」
突然呼び止められ、僕はギクリとして後ろを振り向くと、㈱スワンの経理補助の宮並幸子が厳しい表情でそこに立っていた。
「その書類、どこへ持ち出すつもりなの!?
最近青田くんの様子がおかしいから社長に、何かあったら知らせるように言われてたんだけど、まさか、会社を裏切るような事しないわよね?」
糾弾する宮並さんに僕はへらっと笑顔を浮かべた。
「ああ…。社長、僕の事疑って、見張りを付けていたんですね。
申し訳ないんですが、僕も状況が切羽詰まっていましてね、こうするしかないんですよ。」
数日前に、権田と名乗る黒のスーツ姿のいかつい男が現れ、彼は一年前に起こしたひき逃げ事件の被害者の代理人であり、犯人が僕である事は分かっている、これから自分が逮捕される事になると告げられた。
青褪める僕に、だが、その前に事件の全容を知りたい。この事件に白鳥が関わっているなら、洗いざらい話してくれと言われた。
どうやら、その被害者と白鳥は知り合いで、その日、ちょうど社長の狙っていた女性と被害者のお見合いの日だったらしい。
部下の僕を使って、故意に被害者を狙ったものかと勘ぐっているようだった。
慌てて否定したが、このまま逮捕されれば、白鳥社長に見捨てられて、脱税用の書類作りや横領など色んな罪を押し付けられる想像がついた。
権田という男は、白鳥社長が色々後ろ暗い事をやっているのは知っている。
後顧の憂いを絶つ為に、それを全てを明らかにしてくれるなら、ひき逃げの損害賠償請求、処罰示談を求めず示談で済ます事も考えている。
場合によっては刑を終えた後の職まで紹介してもよいとまで言ってきたのだ。
ひき逃げと社内の不正の罪がいつ暴かれるか、社会的に死ぬかと怯えていた僕にとっては、ひき逃げの罪が軽減され、後の生計まで立てられるとは、願ってもない事だった。
だから、権田に指定されたこの日この時間に、全ての罪を自首し、白鳥社長の罪を告発する事にしたのだが…。
「させないわ!この会社は私が守ってみせるわ…!」
立ちはだかる宮並さんに、僕は大きくため息をついた。
「宮並さん、もうやめませんか?
そんな事しても、白鳥社長はあなたのものにはなりませんよ?」
「な、何を言ってるの?私は別に…。」
動揺する宮並さんに、僕は薄ら笑いを浮かべてブンブンと手を振った。
「いやいや、宮並さんが、社長とそういう関係だってみんな知ってますよ?
社長がインターンの子と不倫してた時なんか、宮並さん機嫌悪くて、社内の空気マジ最悪でしたから!」
「…!!」
怒りに顔を紅潮させて、睨みつけてくる宮並さんに僕は更に続けてやった。
「けど、社長は、そんなにまで想って尽くしてくれる宮並さんとは結婚してくれず、三人の美しい妻と三人の子供が…。」
「か、彼は、最終的には奥さん達と別れて私と添い遂げると言ってくれたわ!」
「ははっ。それは嘘ですね。社長の本命は、今日打ち合わせにいくRJの社長令嬢で料理研究家の財前寺桜(既婚者)です。」
「う、嘘よっ!!」
「それが本当で、彼女と再婚する為に、第一夫人までその夫と不倫するようにけしかけてるんですよ?ひどいっすよね?
僕、写真撮らされたんですけど、見ます?」
「〰〰〰〰!」
「ましてや宮並さんの事なんか本当に使い捨ての駒の更にそのまた使い捨て位にしか思ってないですよ。
本当は分かってるんじゃないですか?」
「ううっ。うふぅっ…。慶一さんっ…。愛情もお金も全て注ぎ込んだのに、どうして私を選んでくれないのぉっ。」
その場に崩れ落ち、泣きじゃくり始めた宮並さんに、僕は同情を込めた視線を向けた。
「社長の周りに宮並さんみたいな女の人、多分いっぱいいると思いますよ?目を覚ました方がいいですよ。」
あ〜あ。人の為にこんなに尽くしたところで、報われないんだよな?僕はちゃんと自分の事を大事にして上手く世の中を渡っていこう。
そう思っていると、泣いている彼女の目にだんだん憎悪の光が灯っていった。
「ううっ。許せない……!!」
そして、立ち上がると、彼女は俺に宣言した。
「私も彼の女性関係について、知る限り全て暴露してやるわ…!
慶一さんに目にもの見せてやる!!」
「…!!」
般若のような表情の宮並さんに、女の情念を感じ、僕は慄いたのだった。