銀髪美少女は見合い相手の本心を聞きたい
「え、えっと、じゃ、取り敢えず、適当にその辺へどうぞ?」
「は、はぁい♡」
戸惑った様子の石藤良二さんに部屋の中に通された私だったが、初めて入る異性の部屋に内心ドキドキだった。
帰らされそうになり、咄嗟にお店の娘だなんて言ってしまったが、もちろんそういうお店で働いた事もないし、それどころか男性経験も全くない。
どういう手筈でどんな事をするのか、全く知らない。
リビングのソファーに座り、両手の指をモジモジと組み合わせ、キョロキョロしていると、床の上に敷かれたタオルケットの上に、額に縞のある三毛の子猫が、すやすや幸せな寝息を立てているのに、気付いた。
「わあ。可愛い〜…♡」
私が、歓声を上げると、彼は何故か複雑そうな笑顔を浮かべた。
「ああ〜。そいつね?今日拾って来てしまったんだよ。飲み物、お茶でいい?」
「あ、ありがとうございます…。ふうっ…。」
フラフラしながらも、パックの緑茶をグラスについでくれた彼にお礼を言い、一口お茶を飲み、ふうっと息をついた。
猫ちゃんの寝顔とお茶に癒やされ、どういう対応をしようかと考えていると、彼にこちらをじーっと見られていることに気付いた。
「君…もしかして、こういう仕事した事ない?」
「えっ?!||||||||」
バレたかと焦っていると、彼はフニャッとした笑顔になった。
「いや、緊張してるみたいだし、今日が初めての新人さんなのかな〜と思ってさ。」
「…!そ、そうなんです〜。私、実は今日が初仕事のさくら…『チェリー』って言うんです♡色々行き届かないところがあるかと思いますが、よろしくお願いします!」
「『チェリー』ちゃんか。ハハッ。(童貞の俺にはピッタリの名前だな?)よろしく。」
「あ、あのっ。私もお客さんの事、良二さんって、呼んでいいですか?//」
「ああ、いいよ。」
やった!サービス嬢のフリをして、彼の名前呼びを許してもらえ、私は小さくガッツポーズを取った。
「チェリーちゃん。さっきも言ったかもしれないけど、俺は今懺悔中の身だから、そういう事はできないんだ。」
「…!」
「けど、仕事だというなら、俺の愚痴にちょっと付き合ってもらっていいかい?」
「は、はいっ✨✨」
サービス嬢の仕事を求められず、しかも良二さんの話を聞く事ができるという、おいしい展開になり、ホッとした私は、良二さんに向かって、優しく話しかけた。
「さっき、良二さん、大事な予定をワケあってドタキャンしてしまったと言ってましたよね。何があったか、私に全部話してスッキリして下さい。ねっ?ねっ?」
「お、おう…。」
前のめりになって、迫る私に目をパチパチさせると、良二さんは、静かに話し出した。
「うん…。そこで、寝ている猫、時々家に餌をねだりにくる野良だったんだけどさ。
今日、そいつを助けようとして車に跳ねられて、大事な予定をフイにしちまったんだよね。」
!!
私は、お見合いの場に来なかった理由が、彼の口から語られた事にドキッとした。
やっぱり、石藤良二さんは事故に遭っていたんだ!
「車に跳ねられたって、怪我は大丈夫なんですか?||||||||」
「ああ…。奇跡的に背中の打ち身ぐらいですんだんだよ…。」
「そうなんですね。よかった…。」
私はホッと胸を撫で下ろした。
「けど、ショックで気を失っていたみたいで、気付いたら数時間経っていて、見合いの予定をすっぽかしてしまったんだ。
相手方にも両親にも申し訳なくてさ…。
事情を伝えて謝罪を申し出たけど、顔も見たくないのか、その必要はないと言われてしまってさ…。
まぁ、当然だよな?事情はどうあれ、見合い相手とその親御さんには、最低な時間を過ごさせてしまったんだ。
縁談は、ほぼ、破談になってしまった…。」
「そ、それは、大変…でしたね……。」
私は苦々しく語る良二さんをチラチラ見て、恐る恐る、聞いてみた。
「りょ、良二さんはその縁談が破談になってしまった事を残念に思っているんですか?」
「えっ。う〜ん。まぁ、女の子に振られるのほ慣れてるし、最初から相手の方が格上の縁談だから、断られる覚悟はしてたんだけどね…。
こんな相手の顔に泥を塗るような形で破談するのは、本意じゃないし、
親から、見合い相手の子が、『天使みたいに綺麗な銀髪の娘さんだったよ。』って聞かされて、その娘と添いとげる未来もあり得たかもしれないのかと思って、確かに残念に思ったよ。」
「〰〰〰〰!!///」
良二さんが私について語っているのを、私は顔を真っ赤にしながら聞いていると、彼はふと、私に目を向けて首を傾げた。
「そう言えばチェリーちゃんも綺麗な銀髪だね。
俺が今まで見た事のある銀髪の人って、高校時代に見た小学生の女の子ぐらいで滅多にいないものと思っていたんだけど…。」
!!
「見合い相手も銀髪だったし、意外と多いものなのかな?ハッ!もしかして…!!」
!!!
何かに気付いたような彼にじっと見詰められ、私の胸は高鳴った。
良二さん、私の正体に気付いてくれたのかしら?
「もしかして、君は…」
「は、はい…。//実は私…」
「お店のオプションで、俺の見合い相手と同じ銀髪に染めてきてくれたとか?」
「そう。私はあなたの為に、銀髪に染め…って違います〜〜!!」
私は脱力してその場に四つん這いになった。
「ううっ。そこまで分かってて、どうして正解に辿り着いてくれないんですかぁっ!!」
えぐえぐ泣いている私に、良二さんは、陽気に笑いかけた。
「ハハハッ。ごめんごめん。そうだよね?わざわざ、客の為に髪染めたりしないよな?たまたま銀髪の子が来てくれたんだな。俺はラッキーだ。」
「もお〜ですからぁ!違うんですってぇっ!!」
「『チェリー』ちゃん…?」
私は拳を握り締めると、不思議そうな顔をする良二さんに、大声で叫んだ。
「私がその銀髪の見合い相手なんですっ!!!」
「???『チェリー』ちゃんが見合い相手?」
良二さんは、目をパチパチと瞬かせた。
「は、はいっ。さっきは、家に入れてもらう為、デリバリーの女性と嘘をつきました。ごめんなさい。」
「チェリーちゃん。そういう嘘はいけないなぁ…。」
良二さんに睨まれ、私は身を縮めて謝った。
「ご、ごめんなさい。お見合いに来なかった良二さんの本当の気持ちを知りたくて…。」
「いや、だからぁ!俺を慰める為に「お見合い相手のフリをする」なんてしなくていいんだって。」
「へっ?」
良二さんは、据わった目で私に人差し指を突き出して、お説教をし始めた。
「サービスが出来ないのを申し訳なく思って、出来る限りの事をしてくれようとする気持ちは、有難いけどそんな嘘ついて後でバレた時俺、余計がっかりするじゃん?
君、まだ若いからよかれと思って言ってくれたんだろうけど、もっとよく考えた方がいいよ?ね?」
「へぇっ?!いや、でも、私本当に見合い相手なんですって!!」
どうやら、良二さんは、デリバリーの女性がサービスの一貫で、見合い相手と嘘をついていると思い込んでいるらしい。
私は必死に見合い相手だと主張したが、全く信じた様子もなく、彼はふるふると首を振った。
「もう、チェリーちゃんは、全く強情だなぁ…!」
「〰〰〰。良二さんも、どうしてそんなに頑ななんですか。どうしたら信じてくれるんですかぁっ…?」
私は途方に暮れたように良二さんを見上げた。
家を訪問した時から良二さんは大分お酒に酔っていたようだったが、それから、私と話しながら、更に2杯ほどお酒を進んでいた彼は、顔が真っ赤になり、目も焦点が合わなくなってきており、まともにお話し合いをできそうになかった。
「う〜ん。そうだなぁ…。」
顎に手をかけて彼は考え込むポーズを取ると、やがて、何かを思いついたようにカッと目を見開いた。
「そうだ!おっぱいを見せてくれたら、信じてあげるよ!」
「ふええーーーっっ!!?////」
私は良二さんの衝撃発言に、大声で叫んでしまった…。