白鳥への制裁
※注意書き※
この話と次話に暴力表現があります。苦手な方はご注意下さいm(_ _)m
そこからは、もうさくらの独壇場だった。
彼女は生き生きとした笑顔を白鳥に向けて、自らの激しいBL趣向をカミングアウトし、権田さ…権子ちゃんを男優としてスカウトし、リアルなAV動画を撮りたいと宣った。
『さっき、白鳥さんは、『望む事なら何でもして、あなたを幸せにしてみせます。』って言って下さいましたよね?
さあっ!今すぐその身を権子ちゃんに捧げ、その様子を私に撮影させて下さいっ。
私の幸せの為にっっ!!✧✧』
「き、君は頭がおかしいのかっ…!?そんな事できるわけがないだろうっ!!!」
目をキラキラさせ、歌い上げるようにソプラノボイスを響かせるさくらに、堪らず白鳥は怒鳴りつけた。
「さくら…。」
「「「っ…??っ…???」」」
その様子が映った画像を、お義父さんは頭を抱え、香織、雪森の山本さん、営業部長の小坂さんは、衝撃のあまり口をパカンと開けて見守るばかりだった。
『あらら?私を愛してると言ったのは嘘だったんですかぁ?』
『い、いくら、好きでもそんな事気色悪いできるわけないだろうっ!
清楚な天使だと思っていたのに、とんだド変態じゃないかっ。
僕を騙したのかっ!?』
白鳥の非難にも全く動じず、彼女は、不敵に笑った。
『ふっ。あなたが勝手に私の事を都合のいいように勘違いしていただけです。
やっぱりあなたの愛は薄っぺらいですね?
ちなみに、良二さんはそんな私の趣向も含め、愛してくれていますよ。
身も心も大満足させてくれるのは彼一人だけです。』
「「「「!!!!」」」」
その瞬間、他の4人に一斉に振り向かれ、特にケツの辺りに熱い視線を向けられ、俺は半泣きで弁解した。
「い、いや、彼女のBL趣向を認めているだけで、アブノーマルなプレイをしているわけじゃないですからぁっ!!」
さ、さくらぁっ…!誤解を与える発言やめてくれぇっ!!
俺とさくらの性癖を疑われるという大きな犠牲を払いつつ、シナリオは順調に進んでいた。
『それなのに、あなたごときが彼の代わりを狙うなどおこがましいにも程があります!』
『石藤なんか、人の妻と不倫するような奴じゃないか!』
『そっくりそのままあなたに返します。不倫とは、今まであなたが散々してきた事。そして、さっき私にしようとした事がそのカメラに映っています。』
『ここよ?ここ♡』
『んなっ…?』
さくらが指摘し、権子ちゃんが指を差したパーテーションの位置に3センチぐらいの小さなカメラがついているのが目に入って白鳥は愕然としていた。
そして、このタイミングで俺は万一にも逆ギレした白鳥がさくらに危害を与えないよう、隣の部屋に入る事になっていたので、他の人々に声をかけた。
「そろそろ俺は隣の部屋に移りますので、皆さんは、最後までその様子を見届けていて下さい。」
「ああ、石藤くん…。権田くんと共にさくらを守ってやってくれ。」
「はい。」
「い、石藤くん…。」
「「き、気をつけて…。」」
お義父さんに頼まれ、神妙な顔で頷き、香織、山本さん、小坂さんに心配そうな眼差しを受ける中、俺はその場を離れた。
急いで廊下を渡り、パーテーションに向こうから遮られて見えないうにようになっている後ろのドアから隣の部屋へ入ると…。
「くそっ!こんなのが何だっていうんだ!」
ガシャンッ!
部屋の中ではさくらと権田さんカメラを指摘された白鳥が力任せに、それを叩き落としていた。
俺が入って来た事に気付かれてなさそうなのは、よかったが、大分荒れている様子に最大限の警戒をしながら、奥へ進んで行った。
「ちっ。せっかく選ばれた人間であるこの僕が伴侶に選んでやろうとしたのに、
君のような性悪なド変態女は、こちらから願い下げだ!!
正しい王子である僕に相応しくないっ!!」
白鳥が宣言したが、さくらは更に言い返した。
「何が王子ですか?!あなたは、卑劣な計略を巡らし、人のものを奪い取ろうとする、薄汚いこそ泥じゃないですか!」
「なっ。こ、この光り輝く僕がこそ泥だとっ。」
白鳥の奴、大分頭に来てるな…。奴とパーテーションを一枚隔てたところまで来ていた俺は、そろそろ出ようかとタイミングを計っていた時、さくら渾身のパワーワードが飛び出した。
「そうです。そして、私にとってあなたは何の価値もない人。あなたが誰と絡もうが気色悪いだけで、一切萌えませんんっっ!!」
…!!
何にでもBL妄想を抱いてしまうさくらにとって「誰と絡もうが気色悪いだけで一切萌えない」とは、最大級の嫌悪を示す言葉だったが、白鳥が許せなかったのは発言の前半部分にあたる「あなたは何の価値もない人」だったらしい。
「う、ううっ。価値がないだとぉっ?王子のこの僕を罵倒しやがって!こ、この、天使のような外見の悪魔めっ!!」
「きゃっ。」
「さくらお嬢さ…!」
「っ…!白鳥ぃぃっっ!!」
ガターン!!
「?!うわぁっ!!」
「「!!」」
不穏な気配にパーテーションを蹴倒しながら、隣のスペースに乱入すると、権田さんとさくら、そしてさくらに向かって拳を繰り出そうとする白鳥の姿が見え、その瞬間俺の中に燃え上がるような怒りが沸き起こった。俺は倒れた勢いのままに振り上げた拳を…。
「俺の妻に何してんだぁっっ!!」
ボグウッ…!!ドゴオーン!!
「ぶげえっ…!!」
折れても構わないぐらいの気持ちで、奴の左頬に叩き込んでやると、白鳥は、部屋の隅までぶっ飛んで行き、ケツを突き出した不様な格好で呻き声をもらした。
「良二さんっ!!!!」
「石藤様っ!!!!」
「い、いでー!!いでーよぅっ…!!」
さくらと権田さんが声を上げる中、俺は腫らした頬を手で押さえて涙を流している白鳥の方へ駆け寄った。
「こ、この、ド変態性悪女に、暴力脳筋男のクソ夫婦がぁっ!!親にも殴られたことのないこの僕の顔を傷付けやがっ…」
ガッ!!
「ひいっ!!」
すごい勢いで悪態をついてくる白鳥の襟首を掴み上げた。
「っざっけんな!!さくらを傷付けようとするなら、お前のスカシ面なんか何度でも殴ってやるっ!!
人の妻を侮辱するな!殴ろうとするな!!
さくらは、お前のようなクズの価値観では推し量れない素晴らしい最高の女性なんだ!!
この位の痛みに耐えられねーぐらいなら、二度と彼女に近付くんじゃねぇっ!!分かったかっ!!」
「ふ、ふぎっ…。ふぐっ…。||||||||」
殴った右手のズキズキする痛みも麻痺する位の怒りに任せて凄んでやると、白鳥は恐怖に震え、返事も出来ないようだった。
「石藤様。相手は戦意を喪失しています。もうその位で…。」
「!」
バッ。べシャァッ!
権田さんに声をかけられ、腕を緩めると、白鳥は床に再び転がり、泣き出した。
「ううっ。うふぅっ…!」
「りょ、良二さん…!」
「…!」
震える声で名を呼ばれ、振り返るとさくらは慄いた顔で俺を見詰め、震えていた。
その顔を見て、俺は13年前の文化祭で、白鳥に詰め寄った時の、怖がって非難しているような香織の表情を思い出した。
ああ、また、俺は怒りに任せて同じ失敗をしてしまったのかと、後悔を噛み締めた時…。
「わ、わたしの旦那しゃま、超ウルトラスーパーカッコ良過ぎ…♡♡
こ、腰が抜けた…。」
「え?」
ぷるぷるしながら呂律の回らない口調でさくらにそう言われ、思わず俺は聞き返したのだった。
*あとがき*
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