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蟹を捕まえたら蟹味噌に期待しちゃうじゃない

──温水の噴き出る大湿地 ヘレナの回想


 焚き火の上に置かれた鉄器の中で蒸し焼きにされた泥蟹は、こんがりとした香ばしい香りを漂わせ、全身の隙間から黄金色の味噌をジワリと滲ませていた。


「おぉ……!」

「なんかめちゃくちゃうまそうな匂いしてきたぞ!」


 ラティオが鼻をくんくんさせながらジッと泥蟹を見詰める。


 これってなんだっけ……蟹だから味噌って言っちゃいがちなんだけど味噌じゃないんだっけ……。


 中華料理で似たのがあった気がするんだよなぁ……。


 あ~、前世の記憶が曖昧で思い出せない……。


「すごくいい匂い……」


 ルミナも小さく呟く。


 あっ、思い出したかも。


 イエローバタークラブだ、たぶん。


「そろそろ食べ頃ですね」


 ルクテイアが静かに言い、手際よく甲羅を開いた。


 その瞬間、湯気とともに濃厚な香りが広がる。


「わぁ……!」


 シルヴィアが目を輝かせる。


 甲羅の中にはトロリとした黄金色の味噌がたっぷりと詰まっていた。


 それが足の隙間にも満ちていて熱でゆっくりと流れ出す。


 そのどれもが色鮮やかな輝きを放っていた。


「ゴクリ……」

「こ、これは……間違いなく美味しいわね」


 私はさっそく蟹味噌をすくい、小さな器に移す。


 そして、そっと口に運んだ。


 ──濃厚な旨みが一瞬で舌の上に広がる。


 コクがありながらもクド過ぎず、香ばしさと甘みが見事に絡み合っている。


「……やっぱり、蟹味噌は最高ね」


 前世が日本人だからかしら……。


 蟹ってだけでテンションが上がっちゃう。


 動いてるときは触りたくなかったけど……。 


「ヘレナ様、そんなにお好きだったのですね」


 ルクテイアが珍しいものを見たかのように言葉を漏らした。


 あ、やば……。


「え、えぇ」

「宮廷料理で、たまーに食べたような~……」


 秘密にする必要もないのに、なんとなく隠してしまった。


「うまっ……!」


 ラティオが蟹の脚を豪快に折り、中の身を引き出していた。


「身もすっげ~甘い!」


「うん、すごく美味しい……」


 ルミナも小さく呟きながら蟹味噌をスプーンで掬い、ゆっくりと口に運んでいた。


「あなたも食べなさい」


 私は御者のレイフラントにも声をかけた。


「は、はい、ありがたき幸せ」


 レイフラントは期待で目を輝かせながら蟹に手を付けた。


「わ、私、蟹って初めて食べたかも……!」


 シルヴィアは目を見開きながらパクついている。


「初めての蟹は美味しい?」


「お、美味しい!」

「ヘレナ様、大好き!」


「ふふっ、獲ったのはラティオよ」


「みんな大好き~!」


「そうね、私もみんな大好き……」


 私とシルヴィアの言葉を聞いて、ルミナとラティオは恥ずかしそうな顔になっている。


 私たちは、それぞれ蟹の旨みを堪能しながら焚き火のそばで穏やかな時間を過ごした。

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