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話し相手がいないなら奴隷と喋ればいいじゃない

──馬車の中


 歓楽街を抜け、緊張していた幼女たちも馬車の揺れと共に少しずつ表情を和らげていた。


「改めて、これからよろしくね」


 私がそう声をかけると綺麗な金髪のシルヴィアが微笑んだ。


「えへへ……」

「よろしくお願いします!」


 黒髪のルミナも、さっきまでの不安げな態度を少し和らげながら、そっと私の顔を見た。


「……はい」


「まだ不安なことでもあるの?」


 私が優しく促すとルミナは少しだけ頷いた。


「ほんとに、もう……」

「奴隷じゃない……?」


 私はその問いに強く頷いた。


「ええ、もう奴隷じゃないわ」

「あなたたちは私の家族よ」


「家族ってなんだよ」


 ラティオが少し不満げな声で聞いてきた。


「家族は家族よ」

「私と同じ家で暮らすの」


「やっぱ変態じゃん」


 確かに字面だけ見れば変態っぽいかも……。


「変なことはしないわよ!」

「ただひとつだけお願いがあって……」


 私の言葉を聞いたシルヴィアが首を傾げる。


「お願い……?」


「そう、あなたたちには家族として」

「私の話し相手になってほしいの!」


 3人は少し考え込んでいたが、やがてラティオが口を開いた。


「なんだそりゃ……」

「でも悪くはねーか」

「あんなとこよりは良いだろうし」


「わ、私はなんでも聞く!」


 シルヴィアが嬉しそうに笑うとルミナも小さく「うん……」と頷いた。


 ほっ……受け入れてもらえて良かった……。


「そういえばさ、私たちって魔法の才能があるんだよな?」


 ラティオが思い出したように話を振る。


「え?」


「さっきあんたが私たちを買うときに言われてたじゃね~か」


「そういえば言ってたわね」


 娼館の女は言ってたけど私にはさっぱり分からなかった。


「魔法ってさ、どうやったら出んの?」


 ラティオが身を乗り出してきた。


「まずは正しい知識と訓練が必要ね」


 たぶん。


 私は話しながらルクテイアをチラ見して間違っていないか確かめる。


 ルクテイアはひっそりと頷いた。


 よし!


「きちんと学べば」

「あなたたちの才能はきっと開花するわ」


 シルヴィアは目を輝かせた。


「ほんと!?」

「わたし、すごい魔法が使えるようになるかな?」


「もちろんよ」

「ただ、どこまで伸びるかは努力次第ね」


 これもたぶん。


 『聖女と十二人の皇子たち』は恋愛一辺倒の作品だったから魔法の描写はかなーり薄かった。


 3人は顔を見合わせ、そわそわしている。


 奴隷の身分から一転して希望が見えたせいで落ち着かないようだ。


 私は馬車の中の雰囲気が和んできたことを感じたので少しだけ真剣な表情を作った。


「ところで……私の最終的な目標について話しておくべきね」


 3人がジッとこちらを見詰める。


「これから魔王が目覚める前のダンジョンを乗っ取るわ」

「そして乗っ取ったダンジョンを私たちの拠点にする!」


 急に静まりかえる馬車の中。


 ルミナが小さく「……え?」と呟いた。


「魔王の……ダンジョン……?」


 シルヴィアが信じられないといった表情で瞬きをする。


 ラティオは大きく口を開けて絶句していたが、次の瞬間には吹き出すように笑った。


「んっ、くく……」

「な、何いってんだよ」


「魔王って……あの魔王ですか?」


 ルミナが恐る恐る問いかける。


「ええ、私はついさっき国を追放されたばかりなの」

「だから追手や刺客が現れるかもしれない」

「身を守るためには魔王のダンジョンに籠もるのが手っ取り早いのよ」


 3人は、しばらくのあいだ唖然としていたが、やがてルミナが静かに疑問を口にした。


「な、なんで魔王のダンジョンなんですか……?」

「追手よりも危ない気が……」


「今は事情を話せないけど私は危なくないのよ」


「ええっ……?」

「わ、私たちは?」


「あなたたちも大丈夫よ!」


 自信満々に言いきったけど……。


 うーん、駄目だったらどうしよう。


 もしも魔物がこの子たちを襲うようだったらプランを変更するしかないわね。


「面白いじゃん」

「あんた、本当に変わってんね」


 ラティオが呆れたようにため息をついた後、ニヤリと笑って言った。

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