龍神と剣神が戦ってるなら止めればいいだけじゃない
──境界の山脈
「ほーう、この時代にも少しは骨のありそうな戦士がおるんじゃのう」
地面に深く突き刺さった両刃斧を境目にしてフィールカリオンと傭兵団長が悠然と対峙している。
「戦士だあ?」
「確かに戦士ではあるけどな」
「私の獲物はもっぱら"これ"だよ」
団長は両刃斧の柄に手を掛けて一気に引き抜いた。
しかし斧が地面から抜けることはなく、白刃の煌めきだけがフィールカリオンの前で揺れる。
「しかも巷じゃ私は神って呼ばれてるらしい」
「剣士の神で"剣神"なんだとさ……」
「くふふふ……"龍神"のわしと神揃いじゃな」
やたらと長い斧は剣の鞘でしかなかったみたいね。
なんであんな大仰な仕掛けにしてるのかしら……。
別々に持てばいいのに。
「おかげでビビって誰も私と戦ってくれなくなっちまった」
「私が行くだけで戦争も止まっちまう」
「だから中堅どころの傭兵団の団長として身分と顔を偽ってようやく仕事にありつける」
「みじめな人生だよなぁ?」
「わしみたいに崇拝者に貢いでもらえばええじゃろが」
「そんな生き方──」
団長の姿が僅かにブレて見えた。
「できるわけねぇだろうが!」
フィールカリオンも全身の輪郭が歪んでいる。
「うわ、すっご……」
ラティは少しだけ見えているみたいで絶句していた。
「……?」
シルヴィとルミナは、ふたりが立って喋っているだけに見えるようだ。
「なんでも良い!」
「剣を投げて寄越せ!」
「し、承知しました!」
近くにいた信者が杖剣を投げ渡した。
うーん、また服が汚れるような戦いだったら止めようと思ってたけど、あんな感じなら別にほっといてもいいかな……。
「ああいうのをまさに神業っていうのかしら」
あの人、脳筋に見えたけど実は技巧派だったのね……。
私がのんびりと見ていたら信者たちは色めき立っていた。
「龍神様!」
「よい!」
「わしにひとりでやらせよ」
フィールカリオンの一声で信者たちは、その場に跪いた。
「な、なんという御業……」
近くにいた若そうな女性の信者が感嘆の声を漏らしている。
ふたりの剣を構える姿は変わっていくものの、刃は見えない。
それなのに金属の打ち合う鋭い音だけが響いていく。
お互い構えを変えてるだけに見えるけど何百もの攻防が交わされているようだった。
「くっくく、くく、あーっはっはっはははは!」
「久しぶりに面白れぇな、おい!」
その場で揺れていた団長の輪郭が初めて一気に動く。
それに合わせてフィールカリオンもその場を小さく飛び跳ねた。
「やるのう!」
空中のフィールカリオンが顔の近くで剣を構えた瞬間、艷やかな金属の響きとともに刃が真っ二つに割れた。
そこから遅れて団長の剣先が地面に突き刺さる。
「そういう意識の誘導みたいなのは、わしの時代にはなかったぞ」
フィールカリオンは地面に突き刺さった団長の剣先へと着地した。
「はぁ?」
「お前が知らなかっただけだろ」
ほとんど魔法の域ね……。
先に足を狙う一振りの斬撃が、なぜか顔に飛んだ直後、もう一度だけ下に収束した。
一度の攻撃で相手にニ度の防御を強制している。
どうやってるのかしら。
「そうじゃのう」
「考えてみれば、うぬと変わらんな」
「わしも昔は対等な相手をしてくれる者がおらんかった」
「魔王を除いて」
フィールカリオンは、その言葉とともに足裏の剣先を踏み砕いた。
ふーん、魔王との関係はそういう感じなのね……。
「剣が悪いのう」
「腕は良いのにもったいない」
「……お前もな」
パンパン──
その場に軽い手拍子が鳴り響く。
「そのくらいでいいでしょ」
「もう日も暮れそうだし、ご飯にでもしましょうよ」
私は割って入って、ふたりのじゃれ合いを止めることにした。




