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私が龍神の盟約者なわけないじゃない

──境界の山脈


 私が子供たちとフィールカリオンのやり取りを微笑ましく見守っていたら、いつの間にか周囲には龍教団の魔族たちが跪いていた。


「ん?」


 黒の中に白い模様が刻まれたローブに身を包む信者たちは儀式めいた言葉を口ずさんでいる。


「白銀の御瞳(みひとみ)は星となり、天を覆う御翼(みつばさ)は世界となる」

「我らはただ、その御許(みもと)に集うのみ──」


 シルヴィ、ルミナ、ラティの3人は、その異様な光景に息を呑んだ。


「な、なにこれ……」


 シルヴィは私の袖をぎゅっと握りしめた。


「……こわい」


 ルミナも震える声で呟きながら私の背中に隠れる。


「なんか……やべーやつらっぽいな……」


 ラティは拳を握りしめ、シルヴィの前に立っていた。


 信者たちは頭を地面につけるほど深く下げ、篤くフィールカリオンのことを讃えている。


「ちょっと」

「子供たちが怖がるから、やめなさいよ」


 私の言葉が山間に響き、祈りの言葉を捧げていた信者たちは一瞬にして沈黙する。


 あれ、本当に黙っちゃった……。


「……ヘレナ様、すごい」


 ルミナが私の背中の後ろで呟いた。


 すごいというか……私も全員ピタッと止まるとは思ってなかったわ……。


「わしを崇めるのは当然のことじゃ」

「だとしても千年経って熱心な信徒がこれほどいたとはのう」


 静まり返った空気の中、フィールカリオンがゆっくりと歩み出る。


「うーむ、何人じゃあ?」

「ひとり、ふたり……」

「8人もおるではないか!」

「後でうぬらには再誕の八人としてアルシーネの恩寵を授けてやろう」


 喜びに染まった白銀の瞳が信者たちを見渡す。


「わしは嬉しい」

「良くぞ!」

「この時代まで信仰を継いでくれた」


 信者たちは、それぞれ息を呑んだり震えた吐息を漏らしたり……。


 とにかく感極まってるみたいね……。


「この隣におるヘレナは盟約の者じゃ」

「わしが目覚めてしまっては、うぬらもやることが減ってしまうじゃろう」


 また盟約とか言っているけど私には見当も付かないわね。


「うぬらは、この者の言葉に従うが良い」


 信者たちは顔を上げ、私に視線を移した。


 えぇ~……なんで私に……。


 あ、でも元々は乗っ取り予定のダンジョンで働いてもらおうと思ってたんだった。


「えーっと、じゃあとりあえず」

「普通に立ち上がって話してもらえるかしら?」


 信者たちは一斉に立ち上がる。


 その一方で傭兵たちは、この場の空気に完全に飲み込まれていた。


 ん……一番強そうだった団長がいなくなってる。


 逃げ足が速い……いや、そんなふうには見なかった。


「……マジかよ」


「龍が、本当に……?」


「冗談だろ……?」


 信者たちの異様な雰囲気と圧倒的な魔法を見せ付けた龍神。


「やってられっか!」

「に、逃げるぞ!」


 突然、誰かが叫び、それを皮切りに傭兵たちは一斉に走り出した。


「こ、こんなの相手にできるか!」


「化け物じゃねえか!」


「うわあぁぁ!!!」


 バラバラと蜘蛛の子を散らすように逃げ出す傭兵たち。


 フィールカリオンは、そんな彼らを見ながら楽しそうに微笑んだ。


「うーむ……わしは何もせんから、ゆっくり帰ると良い!」


 彼女のその寛大な態度に、さらに恐怖を覚えたのか、傭兵たちは全力で駆けていった。


「まったく……気絶した傭兵も運んであげなさいよ……」

「ルクテイア、失神してる人たちを運んであげて」


「承知しました」


「それでしたらこちらに……」


 信者たちが寺院の中への案内を買って出た。


「もう大丈夫よ」


 私は子供たちを安心させるために再び強く抱きしめた。


「ほんとに……?」


 ルミナが、おずおずと尋ねた。


「ええ、何も心配いらないわ」


 遺跡の周囲に静謐な空気が戻りつつあった──

 かに思えた。




「話は終わったかぁー?」




 フィールカリオンの頭上はるか遠くから少しだけ聞き覚えのある声がした。


 その瞬間、フィールカリオンが立っていた場所が土埃で何も見えなくなる。


「龍神様ぁー!!!」


 信者たちの焦燥に駆られた声が聞こえた。


「もう、危ないじゃない!」


 空高くから降下する女を目にしていた私は子供たちを庇いながら文句を垂れる。


「ほーう、この時代にも少しは骨のありそうな戦士がおるんじゃのう」


 土埃の中から鈴を鳴らすような高い声が響く。


 漂っていた土埃が収まると、そこには半身だけ引いて両刃斧の一撃を躱したフィールカリオンが悠然と立っていた。

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