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龍神の背中に落ちたなら喋ってみればいいじゃない

「いや、そなたは……ヴォルドフレインの血を継ぐ者か?」


「なんの話?」


 一応は聞き返したけど、きっとヴォルドフレインは魔王の名前なんだろう。


 そして声の主は龍神。私は、なぜかそれが理解できた。


「グル・ダハール……盟約は──」


「えっ?」


「うむぅ……すまんな」

「長いこと寝てたからのう」

「喋るのは久しぶりじゃ」


 良く聞き取れなかった私の反応を受けて龍神は素直に謝った。


 随分と殊勝な神様ね……。


 それにしても聞き取れなかった単語はともかく……千年前の人語と今の人語は大差ない……のかしら?


「別に構わないわ」

「私の名前はヘレナ」

「あなたは?」


「フィールカリオン」


 龍神は私の名乗りに合わせたみたいで短く答えた。


「よろしく、フィールカリオン」


 なんだか聞いたことがある語感だわ……。


「顔ぐらい見せたらどう?」


「うーむ、わしが動くと山が崩れてしまうからのう」


 それを聞いて私は地面の妙な感触に察しがつく。


 周囲を見渡すと龍教団の魔族は、さっきからずっと跪いて祈りを唱えていた。


「勝手に上に乗って悪いことしたわね」


「構わん」


 頭上の大穴から差し込む光しかないせいで、すべてを見渡すことはできないけど地面……というかフィールカリオンの背中が、どこまでも続いているように感じられた。


「どうしてこんなところで寝ていたの?」


「ここは色々と丁度良い寝蔵なんじゃよ」

「わしが寝てるだけで周囲にアルシーネが満ちてゆく」


「アルシーネ?」


「人語でなんと言うのかのう……」

「まあ自然の源みたいなものじゃよ」


「このあたりの自然はあなたが寝てたから成り立っているってこと?」


「そういうことじゃな」

「千年前は世界中が荒廃していたのじゃが……」

「ふむ……この感じじゃと、もうわしが寝てる必要もなさそうじゃなぁ」


 ふと私は、ここまでの旅路で出会った豊かな動物や景色を思い出す。


 私が子供たちといっしょに自然を堪能できたのもフィールカリオンのおかげってことかしら。


「ヴォルドフレインの血を引く者よ……ヘレナ」

「そなたは、いかなる目的を持ってここに来たのじゃ?」


「別に目的はないわ」

「急に空いた穴に落ちただけ」


「グモラル、あっさりした娘じゃのう」

「目覚めは盟約が果たされる時じゃと思っとったが……」

「そなたは盟約にも興味がなさそうじゃな」


「興味というか知らないわよ」

「人間の国では千年前のことなんて伝わってないの」


 たぶんね。


 歴史家なら知ってるかもしれない。


「ところで、あなたは動けば山が崩れるほどの体で」

「どうやってこの中に入ったの?」


「こうやったのじゃよ」


 フィールカリオンが返事をした瞬間、私たちの足元に白銀の光が浮かび上がった。


「うわああぁぁ」


「今度はなんだよ!?」


 周囲では傭兵たちが悲鳴を上げている。


 気付けば足元の妙な感触はなくなり、私たちは光の上に立っていた。


「どうじゃ、わしの可憐なる姿……」

「これで動きやすかろう」


 いつの間にか私の前には長い白銀の髪の幼女が顕れている。


 瞳も白く銀のように輝いていた。


「可愛らしいわね」


 顔立ちも端正だ。


「ふん、当たり前じゃ」


「そういえば私たちが落ちても無事だったのは、あなたのおかげ?」


「そなたが山脈に入ってきたときから目が覚めかけていたからのう」

「それにしても"私たち"とはな……」

「そなたは山から落ちたくらいじゃ、なんともなかろうに」


 この子は何を言ってるのかしら……。


「ヘレナ様ーっ!」


 遥か上のほうからシルヴィたちの呼び声が微かに聞こえた。


 早く戻って、あの子たちを安心させてあげないと。


「ここから出る方法はないの?」


「そのまま立っとれい」

「この光は、わしの意のままに動く」


 私は足元の綺麗な光に目を遣った。


「ひいいぃぃ!」


「う、浮き上がったぁ!」


「くっそ、今日はなんなんだよ!」


 相変わらず周囲では傭兵たちが喧しい。


 そんな人間のことなどお構いなしに白銀の光がゆっくり私たちを山間に運ぶ。


「な、なんだそりゃ、すげー!」


「本当に良かった……」


「……ヘレナ様ぁ」


 光から山道に足を踏み出すとシルヴィア、ルミナ、ラティオの3人が一斉に駆け寄ってきた。


 シルヴィとルミナは涙目になっている。


「心配かけてごめんね」


 私は3人を抱きしめながら答えた。


 その一方で近くにいたルクテイアを見ると、どうにも反応が薄い感じだった。


「ご無事で何よりです」


 あの過保護なルクテイアが揉め事に駆け付けないなんて……穴に落ちているときにも私はぼんやりと違和感を覚えていた。


「ほれ、さっさと降りんかい!」


 後ろでは腰が抜けた傭兵たちをフィールカリオンが軽々と持ち上げて白銀の光から降ろしていた。


「なんだ~、あの子供?」


 そんな様子を見ながらラティは疑問を口にした。


「あなたも子供でしょ」


「へへっ」


 私が戻ってきたせいか、ラティも良い笑顔を浮かべていた。


「この子はフィールカリオン」

「龍神なんですって、ね?」


「リィンラグ……ヘレナの子供たちか」

「わしはフィールカリオン」

「昔は龍神なんぞと呼ばれておった」


「りゅうじんってなんだ~?」


「かわい~!」


「き、綺麗……」


 3人はフィールカリオンに近付いて物珍しげな顔で眺めていた。


「くふふ、もっとわしの可憐な姿を見るがよい」


 こう見るとフィールカリオンも同い歳ぐらいの子供にしかみえない。


 ちょっと雰囲気が神々しすぎることを除けばね……。

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