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子供たちに流血沙汰なんて見せられるわけないじゃない

──境界の山脈


「随分と盛り上がってんなぁ」


 傭兵団長らしき隻眼の女が声を上げた。


 身鍛え抜かれた筋骨隆々の体躯、片目を覆う黒い眼帯、肩には自分の背丈ほどもある両刃斧を担いでいる。


「魔王の血脈ってなんだよ?」


 彼女は鋭い眼光をこちらに向けた。


「私も良く分からないわ」


「くっく、くく……とぼけんなって」


 とぼけてないのだけれど。


「魔族を従える貴族女か……」

「魔王だなんだっていう与太話はともかく」

「こいつを首都に連れていけば魔族絶滅主義の貴族が金を出しそうだ」


 彼女がそう言うと他の団員たちも次々と剣を抜いた。


「首都の貴族どもに引き渡せば魔王の再来を防いだ英雄ってことになるぞ!」


 本人も信じてなさそうな煽り文句を叫ぶと傭兵たちが一斉に私に襲いかかる。


 無造作に剣を構える彼らの目には明確な敵意と金への執着が映っていた。


「魔王の末子を傷付けさせるわけにはいかぬ!」


 龍教団の魔族たちは即座に動き、剣と一体の杖を掲げて呪文を唱えた。


 空気が震え、周囲の魔力が高まって……いるんだろうなぁ、たぶん。


 彼らが魔法を放とうとした瞬間──

 耳をつんざくような音が鳴り響いた。


「ナメるなよ!」

「魔力を霧散させる装備は整えてるんだ!」


 傭兵のひとりが笛のような奇妙な形の道具を吹いている。


 あーもう、面倒くさくなってきたわね。


 魔族たちと傭兵がもみ合う中で私の馬に剣の切っ先が少し触れて僅かに血が出ていた。


「あ、ちょっと!」


 私はシルヴィ、ルミナ、ラティの3人、つまり子供たちが遠くから見ていることを思い出す。


 そんな場所で流血沙汰なんて起こすわけにはいかないと改めて感じ、そして同時に聞き分けがない連中に無性に腹が立ってきていた。


「いい加減にしなさいよ!」


 私は馬から飛び降りて地面を強く踏み、二人でやり合っていた両陣営のリーダー格に詰め寄ろうとした。


 すると私の足が途中で空をきる。


「あれ?」


「うわあぁぁぁ!」


「お、落ちるっ」


「す、素晴らしい、これが魔王の血脈……!」


「なんだこれ!」


「何が起こってやがる!?」


「か、神様……」


 気付けば周囲一帯の石畳が崩れ、遺跡に大穴が空いていた。


 というか私が落っこちていた。


 もみ合っていたほとんどの魔族と傭兵も落ちている。


「なにこれ?」


 私たちは、しばらくしてから妙な感触の地面に叩きつけられた……はずだったのに不思議と誰も怪我をしていない。


「こ、これは……まさか……!」


「なんだっていうんだ、一体よぉ!」


「うぅぅ……」


「あばばばばば……」


 周囲を見渡すと落下の恐怖で気を失った傭兵もいた。


 上を向くとだいぶ遠いところに光が見える。


 随分と下まで落ちてしまったみたい……。


「ヒヒン」


 さっきまで乗っていた馬も平気そうだ。


「よしよし……剣の傷は後で回復魔法で魔族にでも治してもらいましょうね」


 この馬は本当に落ち着いてるわね……。


 それにしても、まるで山頂から麓まで落ちたような感じだった。




「うーむ……千年ぐらいか……」

「久しいのう、ヴォルドフレイン……」




 突如として空間全体に広がるような声が真下から地響きのように鳴った。


「いや、そなたは……ヴォルドフレインの血を継ぐ者か?」


 今度は何?

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