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馬車で通れないなら捨てていけばいいじゃない

──境界の山脈


 ここまでの旅路を振り返り終えた私は山道からの景色に目を向ける。


 山脈は横に長いものの、そこまで高くはないようで既に私たちの馬車は山頂近くまで登ってきていた。


「……空気が気持ちいい」


 ルミナが窓から手を出して風を浴びている。


 山頂に到達すると視界が開け、さらに澄み切った空気が肌を撫でる。


 眼下には青々とした草原が広がり、風が大地の上を優しく吹き抜けた。


 遠くでは河川が陽光を受けて輝き、森林が悠然と佇んでいる。


「すっごい……!」


 シルヴィが興奮気味に声を上げる。


「こんなに広い景色、初めて見た……!」


 ルミナもラティも景色に見入っていた。


 ふと私の目が遥か遠い首都に向く。


 つい最近まで私はあそこにいた。


 親友のリリアに裏切られ、皇子に婚約を破棄され、そして追放された。


 だけど、こうして山頂から見下ろすと、そんな場所も限りない世界にあるひとつの街に過ぎなかった。


「もう、あそこに用はないわね」


 私は目を輝かせる子供たちを見ながら今の想いを口にした。


 だけど、その時——

 金属がぶつかり合う音が風に乗って聞こえてきた。


「ルクテイア」


 私は窓から身を乗り出して声をかける。


「この先で戦いが起きているようです」


「迂回できないの?」


「残念ですが馬車では近くを通るしかありません」


「仕方ないわね」

「私だけ行って見てくるわ」

「通れなければ馬車を捨てましょう」


「へ、ヘレナ様……」


 シルヴィアが怯えた様子で私の袖を掴んだ。


「偵察なら私が」


 ルクテイアが声を上げた。


「ダメよ、むしろあなたにこそ」

「この子たちを守ってもらわないといけないの」

「視界も開けてるし、私が先に行ったほうがいいわ」


「承服しかねます」


「はぁ……とりあえず馬車を止めなさい」


 戦の音にも動じず馬たちはゆっくりと足を止めた。


 大したものね……。


 山越え用の馬だから野盗とかには慣れているのかしら。


「なぁなぁ、馬車は置いて全員で行っちゃダメなのか?」


 ラティが冴えたことを言う。


「なかなか良い案ね」

「ふたりは大丈夫?」


「……大丈夫です」


「私もヘレナ様がいれば大丈夫!」


「だ、そうよ」


 私はルクテイアに話を振る。


「……承知しました」

「では荷物を移しましょう」


 それにしてもこんな人里離れた場所でどんな連中が戦っているのかしらね。

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