追放されたなら魔王のダンジョンを乗っ取ればいいじゃない
「ヘレナ・フォン・シュテルツェン!」
「君の悪行は、もはや看過できない!」
王城の大広間に響き渡る怒声。
私の視線の先には冷酷な表情を浮かべる皇子アルベリヒの姿があった。
ここは首都社交界の頂点、皇子主催の舞踏会。
煌びやかな貴族たちが見守る中、私は婚約破棄を告げられていた。
周囲の貴族たちの視線は冷たい。
彼らにとって私は"悪役令嬢"。
そしてこの場は私を断罪する舞台。
皇子の隣には私の親友だった"聖女"リリア・エルダーグリーンが立っている。
「君はリリアを虐げ、悪辣な手段で彼女を陥れようとした」
「そればかりか貴族としての品位を貶める行為を繰り返してきた」
「何か申し開きはあるか!」
「……何ひとつありません」
この展開は私が前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖女と十二人の皇子たち』のクライマックス。
この世界は元々ゲームの世界であり、私は"悪役令嬢"ヘレナ。
主人公であるリリアが皇子の愛を勝ち取り、悪役の私が追放される。
ゲームの"悪役令嬢"ヘレナは、この後実家を追放され、辺境へ送られたのち悲惨な最期を迎える。
アルベリヒの怒声が鳴り響いたとき、ついさっき私は前世の記憶を思い出した。
「本日をもって君との婚約を破棄する」
「シュテルツェン家は君を勘当し、今後一切の支援を行わいないことを表明済みだ」
「もちろん君のような人間は首都に置いてはおけない」
「よって辺境へと追放する!」
「……かしこまりました」
ざわめく会場。
ここで取り乱すのが"悪役令嬢"のお決まりの反応なのだろう。
だけど私は冷静に受け入れた。
「……何か言うことはないのか?」
アルベリヒが苛立ちを滲ませる。
「すでに決まっていることなのでしょう?」
「であれば私が言うことなど何もありませんわ」
私は優雅に微笑んでみせた。
それが彼の逆鱗に触れたのか、皇子は顔を紅潮させた。
だけど既に私はその様子にすら興味を失っていた。
私が気がかりだったことは、ただひとつ。
親友だと思っていたリリアに裏切られたことだけだった。
……でも仕方ない。私は"悪役令嬢"でリリアは"聖女"の主人公だったのだから。
さて、これからどうしようかしら……?
ゲームだとヘレナは辺境に追放されて野垂れ死ぬ。
どうにかしてそれだけは回避しないと。
こんなゲームの世界だとしても流石に死にたくはない。
その瞬間、辺境に封印された魔王の存在が私の脳裏をよぎった。
そうだ!
まだ魔王は覚醒してないから先に私がダンジョンに乗り込んで占領してしまえばいいんだ!
うーん、もしかして私って天才なのかしら!
冴えてるわね……!
魔王のダンジョンなら追手に怯えることも多分ないのだから!
私ことヘレナ・フォン・シュテルツェンには魔王の血脈とかいう謎の裏設定(たぶんゲームとして悪役度を高めるための適当な設定だろう)があって魔物やら魔族やらを使役できる。
でも、その前にまずは仲間探しをしないと……。
流石に少しは人間がいないと心細い。というか会話相手がほしい……。
そもそも私の人格としては魔王の血脈なんて微塵も感じないのだから人間と過ごせるなら本当はそれが一番望ましい……。
だけどリリアに裏切られた今、私は今までの人生で関わってきた種類の人間を信用できなくなっていた……。
だからもう聖女とか貴族とか宮廷が一切関係ない相手を探すしかない。
それなら冒険者……は……。
うーん……なんだかパーティから追放されたりしそうで嫌だなぁ……。
やっぱり自我がある人間は駄目だ。大人は駄目。
私の言うことをなんでも聞いてくれて私好みの人間になってくれる……そんな人形みたいな相手じゃないと……!
それなら……奴隷だ!
奴隷の幼女を買いに行こう!