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6-104『他者の力』

◇「南の上空」<イクス視点>◇


「余所見かい?僕もずいぶんと舐められたもんだねぇ……『爆裂光ばくれつこう』」


 ヒューーーーーーン……!!

 パパパパパパパパパァーーーーーーーーーーン!!


 膨れ上がった『光の領域』が波打つように変形し、いくつもの『光の玉』に次々と分裂していく。


「『雷陣羽織らいじんばおり』……」


 バリバリバリバリ……!!


 少々怒気をはらんだ『光の玉』が、イクスの正面で弾け飛んだ。


 再び起こる『雷』と『光』の衝突……!


 目の前の大気が激しくバチバチに揺れているというのに、イクスは瞬きすらすることなく、淡々とその様子を眺めている。


 幼い頃より慣れ親しんできたこの『雷』を初めて受ける決闘相手は、皆、驚きの目を見せてくる。


 今戦っている『光厳』もその例外ではなかった。


 ただし、その表情は他の有象無象の魔導師とは違い、驚きの直後、その顔は愉悦に変わった。


 そこは、本物の強者だけが足を踏み入れることのできる『領域』……


 自分と同じ者に出会えたという喜び……


 誰も彼もが到達できる場所ではない。


 「絶対強者」にしか踏み入ることができない、そこにいるだけで魔力と体力を奪われるような『領域』……


 そう……


 かつて、「英雄」と呼ばれた父の瞳が……


 「輝き」に満ちたものから「驚き」に……

 そして、最後には「恐怖」へと変わってしまったあの「ダンジョン」のように未踏の域……


 自分は「冒険者」として、必ずあの場所を恐れなき眼で踏破してみせる。


 そう、決意してから、その瞳は大きく揺れることはほとんどなくなった……


「しかし、いいのかい、イクス?有望な1年生をあんな方法で、しかも3人掛かりで倒したところで、決して誇れるものではないだろう?」


 やや意地の悪い顔をした金髪の優男は、上空を右に左に飛び交いながらイクスに問いかける。


 イクスが『雷の針』を放った先は、すでに新たな『雲』で覆われてしまっていたので結果がどうなったのかは分からない。


 誇り……?


 そんなものを持っていたとして、「ダンジョン攻略」になんの足しになるというのか……?


 それを積み重ねて「英雄」となったものの「心」を打ち砕き、途中で引き返させたのがあの「悪夢」のようなダンジョンだというのに……


「あれぐらいでやられる程度なら、元々、()()()()()()()()には来れないんじゃないかな、メーネス……『雷切らいきり』」


 ドゴォーーーーーーーーーン!!バリバリバリバリバリ……!!


 『雷の刃』が唸りながら一閃、放たれた。


「ははは……まあ、違いないね。『光剣こうけん』!」


 シュピィーーーーーーーーン!!


 対抗するのは『光の剣』。


 パパパパパパパパパァーーーーーーーーーーン!!

 ドゴォーーーーーーーーーーーーーーン!!


 上空で起こる幾度とない激しい衝突……


 その『領域』には、「絶対強者」以外、何人たりとも踏み入れることはできない……!


◇舞台中央<ノーウェ視点>◇


「ハッハァーーーー!黒コゲになりやがれぇ!!おっとぉ、簡単に倒れてくれるなよ?その前にこの俺様の魔法で甚振りつくしてやるからなぁっ!」


「ふん……腐れ悪趣味ライオンが」


 グレイ君まで思わず吐き捨てるように呟いている。

 

 ……なるほど。

 ようやく分かった……!


 俺が、初めて会ったときから、この黒ライオンが気に食わなかった理由が。


 ……こいつは、虎の威を借る臆病ライオンだ。


 自分より強いやつには虚勢を張るばかりで、勇気ある攻撃の1つもできないくせに、自分より弱い相手と見るや、威勢よく突っかかってくる。


 今も、虚勢を張ってはいるが、結局1人では立ち向かえずに、グレイ君の力を借りているだけじゃねえか……


「臭いなあ……」


「ハァーッ、ハッハ……はあっ!?」


 ところで、イクス先輩も、もっと遠慮しないで威力強めの『雷』を放ってくれればよかったのに……


 そしたら、もっと()()()()()楽しめるのになあ……


「ば、バカな……!?てめぇ、なんで?」


「……不死身か?」


 まあ、カラクリはあるんよ。


 以前に、水の中で強烈な『雷』を食らったことがありましてね。


 そのあと、そいつは天ぷらにして食らい返してやりましたけども……!


 『マイティハート』を掛けておけば、そこそこの『雷』くらいは耐えられるんです。


 そんなに連発できる魔法でもないですけどね……


「あんた、臭いよ」


「は……ハァ!?て、てんめぇ……」


「ちなみに、体臭でも、口臭でもないからね、念のため。あんたのその魔法が、はてしなく臭いんよ」


 マジで吐きそう……!

 変な方向に磨かれた醜悪な臭いだ。

 近寄りたくもないな……


「こ、このやろう……!」


 バリバリバリバリ……!

 こっちの方はなかなかの美味だ……

 ローブもたいそう喜んでいる。

 純粋に強さを求めて磨き続けられたことが分かる。


「「なっ!?」」


 『帯電たいでん』……


 「ギガエレイール」という「怪物(川のヌシ)」の魔法ね。

 身体に『雷』を蓄えて放出できるんだ。


 これが『青魔法』になると、「受けた『雷』を纏いながら自分の魔法を『雷』属性に変えることができる」という効果になる。


 持続時間は受けた『雷魔法』によるね。


 ハリーに手伝ってもらって実証した感じだと、あいつの『雷玉』で1分は持ったから、先輩の『雷の針』6本だったら、3分くらいは持つだろうと予測する。


 この魔法は、『風魔法』や『水魔法』と相性が良いけど、『火』や『土』とは相性が悪い。


 それよりも、もっと効果がばつぐんで、てきめんな魔法がある。

 ……言うまでもなく、「無属性魔法」ね。

 本来の効果に加えて『雷』属性を付与した上に、その速度を格段に上げてくれる。


「あんたみたいに『他者ひとの力』にばかり頼る魔導師には鉄槌をくだしてやるからな。まあ、見ていろ」


 バリッ、バリバリバリバリ……!


「て、てめえっ!!」


 ちょっと置いてけぼりにしてしまっているけど、君の相手はあとでするから待っていてね、グレイ君。

 先にこの黒クズライオンを懲らしめてやらないと……!


 なに?

 ……他人ひとのこと言えんのかって顔しているね、君。


 まあ、俺も大概、「他人様ひとさまの魔法」を使っているんだけどさ?

 悪いけど、自分のものにしてんのよ。


 『マジックパフ』1つとっても、そんじょそこらのゴブリンより上手く使える自信があるから!


「『ハイウインド-フロート』」


 ブワンッーーーーーー!!


「「なっ!?」」


 上空に向かう。


 『雷』は『雷』らしくしないとねっ!


 せっかくブルートが俺のためにわざわざ『雲』を作ってくれたので、ちゃんと使わせていただきますよ。


 バリバリバリバリ……


 『雲』の一部に『雷』を帯びさせて、『雷雲』っぽくさせてみましょう。


 ポンッ、ポンッ、ポンッ……バチッ、バチバチッ……!!


「あいてっ!静電気?……って、何やってんだ!?ノーウェ、コノヤロー!」


「おう、ポンコツ、お疲れー」


「『お疲れー』……じゃねえっ!?他人様ひとの『領域』に勝手に入り込んで何してんだよっ!?この、領域泥棒!ノーモア領域泥棒!!」


 器量が著しく狭いポンコツ……


「ちょっと『雲』を借りるくらいいいじゃないか?さては……いくら自分の『領域』内だからって……ふむ、臭うな」


「誰も、オナラなんてしてねえよ、このアホヤロー!!」


 真っ赤な顔のポンコツ……


「『炎海気威射えんかいげいしゃ』」


 ボボボボボボボボーーーーーーーーーーーン……!!


 ……おっ、さっきの物干し竿みたいな『炎の槍』がまた飛んできた。


 真っ赤なのは先輩の『炎』の明かりによるものだったか。


「ほらほら、狙われてるぞ?」


「うぉっ!『雲鮫うんこう』……!!」


 ブリュリュリュリュンッ……シャーーーーーーーーーー!!


 ボガーーーーーーーーン!!

 バリバリバリッ!!


 とぐろを巻いた『雲の鮫』が『雲の領域』から発動した。


 お前、その呼びネーミングと形状は……


 ……まあ、いいや。


 バチッ、バチバチッ……


「うぉっ、痛っ……これは『雷』?なんか面白いことになってんじゃねえかっ!?」


「あ、パージ先輩、こんちゃーす。お邪魔してまーす!」


「なんで、決闘中に敵に挨拶してんだよっ!ってか、邪魔なんだよ、アホノーウェ!」


「ハハッ、なんか面白いな、お前らの派閥は!こりゃ、ますます卒業すんのがもったいねえな」


「先輩なら、卒業後でも、いつでも歓迎しますよ。別に【紫雲】は学生だけの派閥って決めたわけじゃないし。力試しなら外部の方でも大歓迎です」


「「えっ、いいの?」」


 別にOBが来てもいいんじゃないか?


 以前に、変な筋肉軍人が出入りしてたわけだし。


 バリバリバリバリ……


「……って、敵と和んでる場合じゃねー。おいっ、ノーウェ!決闘の邪魔だ!!お前、あっち行け!」


「分かった、分かった!『ウインド-ステップ』」


 雲のちょっと下の層に移った。


 さて……始めるか。


「『サンダー-スプラッシュマジック』!!」


◇「中央『金の玉座』付近」<グレイ視点>◇


「ちっ、あの野郎、どこに行きやがった!?」


 『音爆』シンガ=ソングが、上空に覆われた厚い『黒雲』を睨んでいる。

 心なしかソワソワしている。


 バリバリッ、バリバリッ……

 ドォーーーーン、ドォーーーーーン……


 『黒雲』から雷鳴が時折轟く。


 まるで、【雷音】の長であり、「学園最強」といわれている魔導師のような力……


 『紫魔導師』は、こんなこともできるのか……


 『灰魔導師』グレイ=ゾーエンスもまた、相方と同様に、その口元をギュッと結び、奥歯をギリッと噛みしめ、上空をギッと睨んだ。


「おいっ、坊ちゃん。気を引き締めるぞ!」


「分かっているよ!」


 ―あんたみたいに『他人の力』にばかり頼る魔導師には鉄槌をくだしてやるからな。まあ、見ていろ―


 グレイは、敵が隣にいる獅子獣人に向かって言い放った言葉を思い返していた。


 迷いが生まれる……


 自分は少なくともこれまで「他者ひとの力」に頼らずにやって来た自負がある。


 シンプルに「糞」……とも言えるまでに腐りきった過酷な街を必死に独力で生き抜いてきた自分が、他人様ひとに非難されるいわれはない。


 それ以前に、あの『紫魔導師』の言葉は、その言葉遣いから察するに、隣にいる、グレイが自身よりも「強者」と見ていた上級生の獅子獣人に向けられた言葉だということが分かる。


 一体、この2人にどんな因縁があったのだろうか?


 少なくとも、シンガがノーウェ=ホームに負けたことがあることは間違いないようではあるが、彼の派閥メンバーも多くは語らないし、この男も核心部分については触れない。


 ただ、プライドの高い獅子獣人にとって、これ以上ないほどの恥ずかしい目に遭わされたことだけは推測できる。


「『サンダー-スプラッシュマジック』」


 ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……


「ハッ、なんだ、大したこと―――」


「馬鹿野郎!よく見ろ、『グレイ-グランストーン』」


 バリバリッ、バリバリッ、バリバリ……!


「ぐぉぉーーーーー」


 グレイの左耳に地鳴りのような咆哮が響いた。


 魔導師としては強くても、こいつ、やはり「オツム」はイマイチだ。


 なんとか、自分とシンガの真上に『石』を張ってみたものの、一部が獣人の足に触れたようだ。


 咆哮というよりも、喚声に近い。


「油断するなっ!腐れライオン!」


 ドドドドドドドドド……


 『黒雲』の中から不気味な音が聞こえてくる。


 なんとか、最善の防備を築かねばと思ってはいるが、状況の異様さに、否応なしに不安が募ってくる。


「ガッ、あの野郎!調子に乗りやがって」


 ……獅子獣人の魔力が練りこまれていく。

 よかった。

 どうやら、なんとか冷静さは保てているらしい。


 ザーーーーーーーーーーー……


 ところが……


「う、嘘だろ?」


 グレイの心臓はドクンッと跳ね上がった。


 魔法はイメージ……


 先ほどの『雷の散弾』を分析したグレイにとって、『黒雲』から降り注ぐその『雨』は、最悪のイメージとなった……!


「グガァッ!『爆音間風羅ばくおんまふら


 ボバンッ、ボバババババババババババババ……!!


「『グレイ-グランアース』」


 ドドドドドドドドドドドドドド……!!


 ……間に合うか!?


 上空に薄い『土膜』を張り『腐食』を付与する。


 ザーーーーーーーーーーー……バリバリバリバリ……!!


「「ぐぉぉぉぉぉぉ」」


 ……間に合わなかった。


 『雷』を帯びた『雨』が身体に触れる度に、全身を痺れが襲う。


 逃げようにも、身動きが取れない。


 ……なぜだ?


 普段ならば、もっと動けるはず……


 ……

 …………

 ………………


 ……ま、まさか!?


「あの、『水』に含ませた……や、『闇魔法』?」


 グレイは絶句した。


 ……すべて()()()()いる。


 自分たちのターンと思っていた時間が、相手にとっても「布石」の時間だった。


 あの男、いったいいつからこの展開をイメージしていたんだっ!?


「おいっ、腐れライオン!ここを離れるぞ!」


 グレイは焦りに焦った……!


 ここは、危険過ぎる場所だ。

 何よりも過酷な状況を乗り越えてきたグレイの直感がそう伝えている。


「グガァッ!!逃げるわけないだろうガァーーーーー!!」


 ……ダメだ。


 目がすでに「狂気」と「恐怖」でイッてやがる。


 なんとかして自分だけでも一時撤退を果たさなければ……


 ……共倒れになる。


「グガガガガァ!!『爆音暴奏網土ばくおんぼうそうもうど』」


 ドドドドドバババババ……ドンバッ、ドンバッ、ババババオンッ!!!

 ドドドドドバババババ……ドンバッ、ドンバッ、ババババオンッ!!! 

 ドドドドドバババババ……ドンバッ、ドンバッ、ババババオンッ!!!


「ちいぃっ、『ハイウインド』」


 グレイはその場を離れた。


 獅子獣人の3年生『音爆』シンガ=ソングは暴走して周囲に無差別な『爆音』攻撃を始めた。


「あーあ……臭いだけじゃなく、自分で制御もできない醜い魔法を放ちやがって。クズ魔導師がっ!」


 バリバリバリ……


 ……醜い?


 離れた場所にいるグレイが恐る恐る上空を見上げると……


 ヒューーーーーーーン……バリバリバリ……!!


 『雷』を纏った『紫魔導師』が『黒雲』から舞台に向かって急降下していた。


 ……なぜ?


 上空から攻撃していればより安全なのに……


 わざわざ近付いて危険を冒すんだ?


「『雷迅オニヒトデ』」


 バリバリバリバリバリ……

 ドォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!


「グギャァーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 『紫魔導師』から放たれた巨大な星型の『雷の手』が……


 『音爆』の放った無差別の『空気の爆発』を一蹴し……


 一瞬で、その身を打ち砕いた……!


「ヒッ……!」


 グレイは思わず悲鳴を漏らした。


「ガフッ……」


 舞台に打ち付けられた獅子獣人は、仰向けになったまま、白目を剥いている。


 自身が何度挑んでも勝てなかった最強の「一騎」があっさりと一撃で討ち取られてしまった……


 足がすくむ……


 一刻も早くこの場を離れなければならないのに……


「ちいっ、『グレイ-ダスト』」


 グレイは『灰色の粉雪』を自身の周囲に巻いた。


 『煙幕』……


 なんとしても、一時撤退し、体勢を整える。


 南東に行けば、他の「三騎」と合流できるはず……


 彼らと、本物の『迅雷』と手を組めばなんとか対抗できる……


 そう思い、背を向けた瞬間だった……


「『土針倒どはりたおし』」


 ドドドドドドドドドドド……ドォーーーーーーーーーーン!!


「がはっ……!」


 『灰の粉雪』に紛れて逃げ出そうとした『灰魔導師』の背後をどこからともなく現れた『紫の悪魔執事』リバー=ノセックによる『土の針』の無数の乱れ打ちが強襲し……


 もう1人の、最強の「一騎」グレイ=ゾーエンスは、前のめりに倒れ……『土』に埋もれた!


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


「二騎」陥落……!

均衡が崩れ始めました!


次回、「三勇士」たちの激闘!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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