9-101『弱肉強食』
◇「南東の玉座<五騎当千>連合本陣」<或る『色付き』視点◇
<五騎当千連合>出場メンバー:
【雷音】
『迅雷』イクス=トスト
『音爆』シンガ=ソング
『涙雨』レオナ=イース
『火吹』リオン=シュミット
【灰塵】
『灰魔導師』グレイ=ゾーエンス
『赤魔導師』ネイト=ウメオカ(元【暗野云】)
『黒魔導師』ヤシク=ナフサズ(元【暗野云】)
『白魔導師』キビャック(元【暗野云】)
【火廊縁】
『火楽』チャコイ=フリー
『帝牙』ティガ=レクス(元【土灸雲】)
『炎琉』イグニス=フェンニル(元【土灸雲】)
『沫凛』ミク=ハート(元【土灸雲】)
『琉耀』クリス=オーウェン(元【土灸雲】)
今回の冬の総魔戦では学内に留まらず、帝国中でちょっとした社会現象になっていることがある。
それは『色付き』と呼ばれる魔導師の勃興。
それが語られる場合、大半は、1つの新興派閥の躍進がセットになっているが、稀にさらなる添え物程度にもう1つの派閥が語られることがある。
その名前だけが……
【灰塵】……
男が所属するその派閥は、新入生が長を務める新興派閥としては学年2位の成績を納めている。
……だというのに、この派閥は、ほとんど人々の話題に挙がらない。
派閥の長を務める魔導師は、ある種の注目を集めている。
彼もまた『色付き』であり、個人レベルの話ではしばしば世間の話題になり、「最強」論争の新入生部門において対抗馬に挙げられるほどだ。
しかし、その派閥の長の名声は、その所属派閥とはほとんど連動していない。
それもそのはず、「春の選抜決闘」においても、この「冬の総魔戦」においても、派閥内で活躍しているのは『灰魔導師』グレイ=ゾーエンスただ1人なのだ……
この歪な状況に不満が出ないわけではなかった。
【灰塵】のメンバーは、全員、総長であるグレイとの決闘に負けた者たちではある。
ただ、その陣容には若干の性質が異なる負け方をしてきた面子で構成されている。
・入学時の組閣メンバー
・「叩き上げ」という派閥間決闘のルールで敗北し、派閥入りしたメンバー
・志願者
……このように分かれており、ある意味、派閥の中にさらに派閥ができてしまっている状況だ。
その中での権力争い、派閥内決闘は頻繁に起こり、グレイ=ゾーエンスが怪我で入院していた際には、派閥の中から「長」の実権すら奪おうとする者も出てきた。
しかし、そんな動きもすべて水泡に帰した。
言うまでもなく、派閥の長であるグレイがさらなる実力を付けて帰還し、そればかりか、【雷音】という彼らにとっては雲の上の存在である派閥と<連合>を組んだからなのであった。
しかも、「シンフォ商会」の御曹司が運営する派閥【火廊縁】という極太のスポンサー付きで……
元々、【雷音】のバックアップをしている関係とはいえ、【灰塵】ともいくつかのスポンサー契約をしてくれることになり、派閥内は一気に盛り上がった。
反乱を起こそうなどという輩は一気に減った。
『赤魔導師』ネイト=ウメオカが【灰塵】に加入したのは、ちょうどその頃である。
この『色付き』の2年生は、それまで【暗野云】という零細派閥を率いていた。
「うだつが上がらない」といった表現がこれほど的確なことはないような派閥であり、学園最大派閥である【蘭光】の孫請けであった彼らは、借金(マイナス派閥ポイント)が貯まりに貯まっていよいよ首が回らない状態となっていた。
そんなときに、【火廊縁】の御曹司より引き立てがあり、マイナスポイントを立て替えてもらう代わりに、【灰塵】の追加メンバーとして加入することになった。
捨てる神あれば拾う神あり……
【蘭光】の孫請けという過酷な派閥運営を強いられ、かつて厚かましくも自分たちを救ってくれと土下座までした【紫雲】からは袖にされ、いよいよ首が回らなくなったところで、このような幸運が巡ってきた。
あくまでも人数補完の目的……
【雷音】が4人しかいないために、<連合>を形成する人数に満たなかった3派閥が急遽追加補充が必要となったところ、たまたま自分たちがその幸運に預かることができた。
実力を見込んでというわけではないことは、分かっている。
しかし、派閥のトップに立つ男もまた自分たちと同じ『色付き』。
<連合>内では、<同格連合>であるはずなのに、ほぼ傘下のような扱いを受けてはいるが、派閥内の未来は明るい……
……「冬の総魔戦」の「第2ラウンド」が始まる前は、そんな希望も抱いていたものだ。
だが、現実はより厳しかった……
「じゃあ、俺たちは行くからよ」
「ふん……」
南東の本陣を守る部隊の中で、獅子獣人に続いて不機嫌そうに歩き出す自派閥の長の背中を見る『色付き』は、『赤魔導師』ネイト=ウメオカ。
加入時と同じ、ただの人数合わせだ。
何の発言権もなければ、声を発することも一切許されない。
「ちょ、ちょっとー待ってくれよぉ。この本陣はどうするんだ~?」
【火廊縁】の長、『火楽』のチャコイが、歩き出した「五騎」に向かって尋ねた。
同格連合で同じ派閥の長であり、スポンサーである大商会の御曹司であるというのに、彼はこの<連合>においては、かなりぞんざいに扱われている。
……まるで、商会なら他にもいくらでもある、と言わんばかりに。
「お前らで勝手にやれよ」
「え?」
「別に、俺たちが本陣を守る義務も義理もねえってこった」
とりつくしまもない様子の「五騎」。
黒髪を方々になびかせた、獅子獣人の『音爆』が彼らを代表して質問に答えている。
「で、ですが……この決闘は『玉座』を――」
強者のひと睨みを受けて縮こまっている御曹司の代わりに彼らの派閥に吸収された元強豪派閥【土灸雲】の長、『帝牙』ティガ=レクスが恐る恐る尋ねた。
「あーーーん!?」
「ひ、ひぃっ!!」
『音爆』の語気の強さと威圧感、そして周囲に伝わる振動によって、「五騎」を除いた8人が全員震えあがった。
ネイトの膝はガクガクと揺れ、思わず尻もちを着きそうになる。
彼にとっては、強豪派閥の長であった『帝牙』も強者中の強者であり、<連合>内の模擬決闘において、何度も一方的に甚振られたくらいの男であるというのに、『音爆』シンガ=ソングの一喝によって口をきくこともできなくなっている。
自分はなぜこのような舞台に立っているのだろうか……?
急に大量の汗が吹き出し、何もかもが分からなくなって頭が真っ白になってしまう。
【蘭光】の「孫請け派閥」であった頃もたしかに苦しかった。
積み重なるマイナスポイントに頭を悩まされ、やりたくもない際どい仕事を「子請け派閥」より強制され精神を蝕まれる日々は、抜け出せない暗闇の中にいるようであった。
それに比べたら、眩いばかりの煌びやかな光の魔道具の下で照らされている今は幸せかと周囲に思われるかもしれない……
「自分の身ぐらい自分で守れや!仮にもこの舞台に立っているならよぉっ!」
「うひっ……」
だが、それは違う。
何もかも、以前とまったく変わらない。
「孫請け派閥」であった頃と同じ……いや、それ以上に悪い。
仲間に凄みを利かせた黒髪の獅子獣人の隣にいる、ネイトとは同じ『色付き』である派閥の長は、そんな『色付き』たちの境遇なんておかまいなし、といった具合にこちらを冷淡な目で一瞥しただけで去っていく。
「と、とにかく。このボクを守るように布陣を敷くんだ」
「わ、わかったぜ。おいっ、『色付き』!」
「は、はいっ!!」
ようやく、声を出すことを許された。
絶対強者5人が去った本陣をし切るのはその次の層にいる強者……
間違ってもネイトたち『色付き』ではない。
「お前らが最前線だ」
「え?」
「さっさと行けや、コラッ!!」
「ひっ、ひぃー……!」
足がすくむ……
この舞台上には「強者」しかいない。
『色付き』である自分がこの場に出ている理由……
「シンフォ商会」の御曹司のイメージ戦略により、帝都の最近の風潮に迎合しただけの人選。
抜擢されたときはそれでも、一世一代の高揚感も僅かにあったのだが、今では場違い感しかない。
『色付き』なりに努力はしている。
ようやく魔法の形状変化をいくつかこなせるようになってきた。
2年生後半のこの時期であれば、それでも『色付き』にしては早い方であったはずなのに、誰も褒めてはくれないし、それどころか、今では気にも留めてくれない。
土下座じゃ足りなかったのかな……
かつて、同じ『色付き』でありながらも、春先から旋風を起こし始めていた『紫魔導師』に救いを求めたことがある。
どうか、日陰に追いやられた自分たちを救ってくれと……
【紫雲】に入れてくれとは言わないが、傘下にでもしてもらえれば御の字とそのときは思っていた。
誠意を見せたつもりであったのに、相手はひどく冷淡で薄情であった。
今の「上司」たちのように、声を荒げたり、威圧をすることはなかったが、ネイトたち底辺で苦しむ人間を理解できないとでも言いたげなあの目……
正直、腹が立った。
自分たち(新入生の『色付き』たち)だけよければそれでいいのか?
俺たちがこの1年間(当時)受けてきた苦しみも知らないで……
同じ『色付き』ならば、助け合うのが筋じゃねえのかよ……
前だけ向いていればいいってもんじゃねえだろ?
そんな反発心から、再度頼み込むこともせず、「シンフォ商会」の紹介もあって、別の『色付き』の派閥に加入することになった。
きっと、ここならば立て直せる……
そう期待していたのだが……
それは淡すぎる期待だった。
派閥の長である『色付き』は、派閥のことをまったく気にかけない男であった。
そこにあるのは、派閥とは名ばかりの「檻」……
放り込まれたのは「弱肉強食の檻の中」で、最下層の自分たちは差別をされ、今回の急な抜擢では、仲間であるはずの派閥メンバーたちからも冷たい視線を向けられた。
それでも、ここでなんとか生き残ることができれば、自分たちも陽の目を見ることができる。
そんな、ほんのわずかな厚かましい願望を胸に抱きながら、「本陣」を守る最前線に立つネイトと、【暗野云】からの仲間であるヤシク、キビャックであったが……
「う、嘘だろ!?」
「な、なんで、ここに……」
「『炎網快海』」
ドォーーーン!!
ボボボボボボボボボボボボボボボボアーーーーーー!!
ゴオォーーー……!
<五騎当千連合>の本陣を炎が囲む……
「お、おいっ!お前たちっ、なんとかしろっ!」
「む、無理っすよ!あの『焔海』の相手なんて」
後列にいる御曹司がわめいており、それを『帝牙』がなんとかなだめている。
今となっては前列も後列もあまり関係ない……
周囲を『炎』によって囲まれてしまったからだ。
「『光千美夢』」
ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ……
眩い細い光の束がまるで雨のように大量に降り注ぐ……
かつて、ネイトにとっては雲の上の存在であった、親派閥の親派閥【蘭光】の長による華麗かつ荘厳な魔法技……
「「「「「う、うわぁーーーーーーー」」」」」
いくら集団戦とはいえ、そんな学園トップたちの戦いに「弱者」が参加していること自体がおこがましい……
そう訴えているかのような『光の雨』は、その場にいた8人全員を容赦なく貫いていった……!
<五騎当千連合>……「五騎」以外全滅!
◇舞台中央<ノーウェ視点>◇
「見せてやるべヨ。俺たちの究極の『合体魔法』!」
「……どうぞ」
もったいぶられている……
ようやく思い出した。
カエルスーツとがちょうスーツの2人……
映像でなら、見覚えがある。
たしか、昨年の春に行なった最初の派閥間決闘でディリカとカーティスが戦った相手だ。
俺はその決闘に遅刻してきたために、彼らとは実際の面識がなかったわけで、実際に会うのは今日が初めてなので、彼らが言う「ここであったが100年目」は明確な誤りである。
屈辱というのは、どうやらカーティスたちに敗北したことを差しているので、まあ派閥の長としての連帯責任というやつでいいだろう。
……だから、待っているんだが。
「うおおおおお……」
「むひょおおお……」
溜めが長え……!
もう30秒以上唸っているので、本当に放つ気あるのか?というレベル。
まあ、どんな技なのか気になるんで発動まで見るけども。
「「行くぞおーーーーーーー『蛙引合蝶』」
ドババババババババババ……ボボボボボボボボ!!
『粘性の水』が床を覆い、その上を無数の『火の蝶』がひらひらと舞って、1つ1つがくっつき合い、大きなひとかたまりの『大火蝶』となっている。
……
…………
………………
……で?
得意技2つを合わせただけじゃねえか……!
ボフンッ、ボフンッ、ボフンッ、ボフンッ、ボフンッ……!!
前もって用意していた『透明化』させた『ジェリーマジック』が『大火蝶』を飲み込む。
ボバババババババババババババババババンッ!!!!
一気に燃え広がり、中央の玉座の前で大きな炎が上がった。
「な、なんだとーーー?」
「きゅ、究極の奥義が……!?」
……いや、そりゃ防げるでしょ。
そんなに溜めていたら。
それと、合わせ技の意味あんのか?
「ならば、行くぞ、タニク」
「おう」
カエルスーツの背にガチョウスーツが乗っかり、2人はスケートでもするかのように、スイスイッとぬめった『水』の上を動き始めた。
どうやら「玉座」の反対側に回り込むつもりらしい
南西から北の方に向かって移動している。
……なんの意味があるのかわからんけど。
……
…………
………………
「はっ……!余裕ぶっこきやがって!喰らえ「『爆音間風羅』」
シューーーーー……ボンッ、ボンッ、ボンッ、ドガガガガガガ-----ン!!
ふいに、今度は、別方向からふいの攻撃がやって来た。
『風魔法』の爆発だな……
せっかく拵えた『ジェリーマジック』の装飾を次々と破壊してこちらに迫ってくる。
「『グレイ-グランファイア』」
シューーーーーーーーーー……ボボボボボボボボボアーーーーー!!
かと思ったら、別の巨大な『火の塊』が急に「玉座」の周辺に現れ、俺を取り囲んだと思ったら一気に向かってきた……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
『色付き』もいろいろいますしね……
そして、ノーウェVS最狂コンビ戦……勃発!
次回、舞台上の棋戦……!!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




