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6-86『追う者』

◇「舞台中央(やや東側)」(開始3分頃)<ハリー視点>◇


「『光羅星きらぼし』」


 キラキラキラキラ……ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……パリィーーーン!


 空から星の形をした光の束が降り注ぐ。


「『石網』、『れんぞくま』」


 ボーーーーーン、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ……!


 網目の入った石の板が、なん本もの『光の束』を防ぐ盾となる。


「あら、意外とやるわね。さすがは、あのクレハと楽しそうに()()()()()()()()()だけのことはあるわ」


「そりゃ、どうも……」


 上空を右に、左に、光が移動する。


 魔法の発動速度や素早い動きに自信があるハリーであっても、その姿をとらえるのが精一杯な速さだ。


「じゃあ、これはどうかしら?『光霞殻こうかがく』」


 キラキラキラキラ……パリィィーーーーーーーーン……!!


「『砂風』、『れんぞくま』」


 ブロロロロロロ……ゴォォーーーーーーーー!!


 『光の結晶』が空中で砕かれて幾千もの『光の破片』となってハリーを狙う。


 相手はまだまだ余裕の表情。


 対するハリーは、細心の注意を払い、なんとか技を返している状況。


 しかし、その顔はあくまで淡々と、落ち着き払っているように、ポーカーフェイスを貫いている。


 初手は成功した。


 相手の『殿上人』に対し、「格下発言」をすることで相手の自尊心を刺激し、こちらと2対2、あるいは1対1の戦いとなるように持ち込む。


 これにまんまとハマってくれた『光霞』と『宵闇』は、ハリーとカーティスとの対決に乗ってくれ、魔法の撃ち合いと相成る。


 無論ながら、威力勝負ではハリーたちにとって極めて分が悪い。


 そこで布石を打った。


「なんで格下なのか教えて差し上げましょうか?貴方たち『殿上人』の()()()()()()は皆、魔法の威力任せの大味な攻撃しかできないからですよ。上位の人と比べてゴリ押ししかできないから細やかな魔法で差がついてしまうのですよ、僭越ながら、見ていてそう思いましたね」


 膝を着いて、片手を胸の前に置き、仰々しく貴族の礼をとりながらハリーは相手の侯爵令嬢に直言した。

 とても慇懃無礼な態度で……


「あなた、私を挑発しているのかしら。いいでしょう。なんの企みかは知らないけど乗ってあげるわ」


 相手は、まんまとハリーの策に乗ってくれた。


 ……というよりも、乗らざるを得なかったと言っていいかもしれない。


 <2年生『殿上人』連合>などという大仰な名前を付けている彼女たちは、プライドの塊のような連中である。


 <連合>内でも張り合い、自分たちより少し上のクレハ=エジウスやジャネット=リファにも噛みついている以上、「格下」と思われるハリー相手に、提案された決闘方法を避けることは「殿上人」としての沽券に関わる……


 読みは当たり、中距離での魔法の撃ち合いに持ち込むことができた。


「もっと近くで撃ち込んでくれてもいいんですけどね」


 ハリーは、トレードマークの帽子を目深に被り、再びマライヤを挑発した。


 これについては、()だ。


 相手はスピードが信条の魔導師。


 決闘はしばしばスピードの差がそのまま勝敗につながることが多いが、それは、スピードが速い方が、相手より戦術面で大きく上回れることが大きい。


 加えて、それが近距離になればなるほど、スピード差がもたらす影響力は大きくなり、僅差であればまだ、劣勢な方も一矢報いるチャンスができるものの、そうでなければ一方的な展開になる。


 『光霞』マライヤ=ミラーは、スピードにおいては、『殿上人』でも上位の存在である。


 いくらハリーといえども、スピード勝負でははっきり言って分が悪い。


 バチッ、バチバチッ……


 バリバリッ……


「あら、その手には乗らないわよ」


 ハリーが帽子のつば越しに離れた上空を見つめると、自信に満ち溢れた侯爵令嬢は、腕を組みながらも、次々と周囲に光の結晶を作り出している。


「あなたは、私が迫ってきたところで何か秘策を考えている。いえ、奇策というべきかしら?」


「へえ、それは、初耳ですね」


「とぼけないで。この『雨』を利用して、『雷』の魔法を撃ち込もうとしているのでしょう?イクス先輩のものとは比べものにならないといっても、そこは『雷』よね。その手には乗らないわ」


「……」


 ハリーは、マライヤの問いには無言で息をフーッと吐いた。


 より神経を研ぎ澄ませ、発動の準備を再開する。


「ふふっ、どうやら図星のようね。あなたが私の魔法の多彩さを見たいと言ったのよ。これからじっくりと存分に見せてあげるわ。『綺羅伽羅きらきゃら』」


 パリィィーーーーーーーーン……

 シューーーシューーーシューーーシューーー……


 先ほどよりも細かい『光の結晶』が縦横無尽にコントロールされて襲い掛かる。

 まるで、集団で襲ってくる蜂の大群のように……


「『石盾』、『プロテクト』」


 ハリーは、『石の盾』を作り出した。

 器用にも腕輪付きのもので、できあがったものを腕にはめる。


「『石弾』、『れんぞくま』」


 ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……


 ドガガガガガガガガガガガガ……!


 最初の群れが『石の散弾』とぶつかり合い相殺される。


 シューーーシューーーシューーーシューーー……


 ガンッ、ガガガガガガガガ……ガンッ、ガンッ!!


 隙を突いて側面から狙いに来た別の『光の結晶群』は腕に添えた『石盾』で防ぐ。


 これが、ハリーの真骨頂。

 類まれなる騎士として、そして、魔導師としてのセンスと努力の『融合』だ。


「『氷網』、『れんぞくま』」


 シュンッ、シュンッ、シュンッ、シュンッ……ピキピキピキピキ……!!


 ガンッ、グワッシャーーーーーーーーーン!!


 加えて、相手の戦法の先を読む洞察力。

 

 ―ここを「魔境」だと思え―


 そうであるならば、さほど、難しいことではない。


 『皇帝蜂』の大群が、襲い掛かってきているだけだ。


「……なかなかやるじゃない」


「そりゃ、どうも……」


 中間距離での撃ち合いであれば、十分、対応ができている。


 『雨』が終わり、『雪』に変わった……


 最初のノルマは果たした。


 今回の「三勇士作戦」。


 ハリーとカーティスに与えられた任務はとにかく『光霞』マライヤ=ミラーと『宵闇』フォルクス=ガントをできるだけ足止めすること。


 それが第一義。


 次に、相手にできるかぎり多く強力な魔法技を発動してもらう。

 細かく、より神経を使う魔法であればさらによい。


 タスクとして、これらが優先度として上回り、敵を倒すための自分の魔法を試すのは二の次だ。


 ……それでも、どこかのタイミングで、試したいことがある。


 ハリーは、深々と舞い落ちる雪をその身に受けながら、その火照る衝動を必死に抑えていた。


「まだ、何かを隠しているような余裕を感じるわね。あなた、気を付けた方がいいわよ。女の勘は鋭いのよ」


「……参考にしておきます」


「いい子ね。それならば、この魔法も受けて参考にしなさい『光伸軌貫こうしんきかん』」


 シューーーシューーーシューーーシューーー……


 マライヤの正面に光の束が集まる。


 『盾』1つじゃとても足りない……


「『石盾』、『プロテクト』』


「『プロテクト』、『れんぞくま』」


 ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ!!


 段階的に飛んで来る『光線』……


 ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ……


 ハリーは、両手の甲を敵の方に向け、『石の盾』で順番に受ける。


 ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ!!


「『プロテクト』、『れんぞくま』」


 ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ……


 ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ!!


「『プロテクト』、『れんぞくま』」


 ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ……


 なんてことはない。


 光属性の魔蛇、「イエローサージェント」の放つ『光の熱線』だと思えば問題ない。

 ちょっと威力が強いから、その分固めるだけだ……!

 あらゆる方向から飛んでくるとしても、予測したものを筋肉に伝えれば、反応してくれる。


 ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ!!


「『プロテクト』、『れんぞくま』」


 ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ……


 ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ!!


「『プロテクト』、『れんぞくま』」


 ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ……


 相手の苛立ちが手に通るように、分かる。


「魔法が荒くなってきていますね。そのあたりがやはり、先輩と『上』との明確な『差』みたいですね」


「ほざきなさいっ!『光牙射こうがしゃ』」


 ブーーン、ブーーン、ブーーン、ブーーン、ブーーン、ブーーン、……!!


「『氷刃』、『れんぞくま』」

「『氷刃』、『れんぞくま』」

「『氷刃』、『れんぞくま』」


 ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッ……ピキピキピキピキ!!


「な、なんですって……はあっ、はあっ……」


 たしかに、鋭利な高速の『刃』だが、それ以上のものは目にしてきている。


 「デスサイスマンティス」による『風の鎌』の魔法……『エアサイス』だと思えば問題ない。

 ……というより、その魔物よりもはるかに強い攻撃を普段、身近な人間との訓練で受けてきているんだ。


 これまで実家で、学園で、「魔境」で、培ってきたすべてが、血となり、肉となる……!


 『赤魔導師』ハリー=ウェルズはたしかな手ごたえを感じながら、『殿上人』相手との中距離戦において、互角に渡り合っていた。


 ……問題は、いつまで持つか。

 それが、次のタスクとなる……


◇「舞台中央(やや北西側)」(開始3分頃)<カーティス視点>◇


「ちぇっ、君が相手かよ。なんか気に食わないなあ……」


「まあ、そう言わずに……俺で我慢しておいてください」


 黒のローブを羽織り、黒いバンダナを頭に巻いたカーティス=ダウナーは、1つ年上の『殿上人』、学生ランク10位の『闇』の魔導師と対峙していた。


 着ているローブの色といい、黒い長髪といい、わりと親近感を抱いていたのだが、相手にとっては違うようだ。


「だって、君、陽キャだろう?人前で女のイチャイチャしやがって。そういうの見せつけられるとむかつくんだよなぁ」


「俺は自分自身を根暗だと思っていますよ。それに、先輩の方こそ、公衆の面前で『告白』していたじゃないですか。それってなかなかの陽キャだと思いますけど」


「……フラれたんだよ、クソ野郎!『闇那鞭やみなべ』」


 ゾゾゾゾゾゾ……シュパーーーーン、シュパーーーーン、シュパーーーーン!!


 闇を纏った3本の鞭が、カーティスに襲い掛かる。


 上方、左右の3点からの攻撃だ。


「『ハイウインド』……『グランストーン』」


 ブオンッ、ブワーーーーーー……ヒューーーーーン……ドーーーーーーン!!


 浮かび上がって『小隕石』で対抗。


 シュワシュワシュワシュワ……


 ボロッ……ボロボロボロ……


 『闇魔法』の恐ろしさ……

 それは不活性化。


 『石』だろうが『土の塊』だろうが触れて侵食すれば内部からボロボロにしていく。


「空中に逃げるとはよく気づいたな」


「『雨』を利用されそうだったので……」


「ケッ、これだからリア充は……」


「そんなことより、1回や2回で諦めたら駄目でしょう?『夫婦隕石めおといんせき』」


 ヒューーーン、ヒューーーン……!


「僕を馬鹿にしているのか?もう100回も告っているんだよ!ボロクズにしてやる。『闇那八手やなやつ』」


 ゾゾゾゾゾゾ……グゴゴゴゴゴ……


 ジュワワワーー……


 今度は、巨大な黒い手が2つの隕石を飲み込み、砂のようにさらさらにしてしまった。


 どうやら、ノーウェの言うとおりのようだ。


 『闇の魔法』使いは、負の感情を募らせ、昂ぶらせることで、その魔法の威力を高めている……と。


 たまに、こういうタイプの魔導師を見かけることがある。


 開始直後のブルートも似たようなものだったのかもしれないが、感情の昂ぶりによって、それまで理性的に抑えていた栓が抜けたような状態なのかもしれない。


 感情によって開放された魔力が属性魔法に転換され、暴走に近い状態になる。


 予測を上回ってくるので、気を抜いていると、あっという間に侵食が始まってしまう危険な魔法だ。


「100回だめなら101回目があるでしょう?何を引きずっているのか理解できないな」


「調子に乗るなよ、後輩のくせに知った風なことを言いやがって!『闇雨牙利やみあがり』」


 『宵闇』フォルクスは、落ちてきた雨を黒く染め上げて牙にして放った。


 洞窟からいきなり飛び出した蝙蝠の群れのように、三日月型の『闇の牙』が大量に羽ばたいてカーティスに向かって来る。


 すでに発動している。


「『グランウォーター(水波)』」


 ザッバーーーーーー!!


 上空から『波』が『闇の牙』の大群を迎え撃つ。


「はっ、『水』など僕の『闇』が染め上げて―――」


「知っていますよ」


「あ?」


 1、2、3……


「『グランアイス(氷河)』」


 パッキーーーーーーーーーーン……ピキピキピキピキピキピキ……!!


「なっ!?」


 闇に染まった『水』ごと凍らせる。


「そっち方面では、あんたよりずっと先輩なんもんで……」


「お、お前ぇーーーーーー!!」


 ……あんまり、慣れないことはしたくないな。


 カーティスは心からそう思った……


 もしかしたら、すでに『闇』に染まり始めているんじゃないか、なんて思ったりもする……


 すべては「作戦」の内。


 相手を「煽れるだけ煽る」のが総大将からの至上命令。


「くっ……くけけけけけ!」


 『雨』が『雪』に変わる。


 『闇』に染まった『氷』の上に『雪』が落ちた。


 『雪』は、白から黒に変色していく。


 あの周辺に近付いては危険だ。


 『光魔法』を持たないカーティスにとって、近距離でフォルクスと戦うことは危険極まりない行為だ。


 地上も、どんどん浸食されているため、敵の『領域支配』外である上空で距離をとるしかない。


「今に見ていろ。僕の『闇』の真価は敵を追い詰めることにある。逃げられない場所まで追いかけてやるから、せいぜい高みに上った気でいるんだな。いつまで飛んでいられるんだ?『闇蜘蛛やみくも』」


 地上に、蜘蛛の巣のように黒い網目状の雪が積もり、広い範囲でどんどん『闇の支配』が増していく。


 直径10、20、30メートルもの範囲で……


「くけけけけけ」


 笑った途端に、冷静になる……

 本当によく分からない性格をしている人だ。


 そして、言っていることは的を射ていた。


 カーティスもずっと飛んでいることはできない。

 どこかで、休みに降りなければならなくなる。


 相手は、それをチャンスだと思っているが、それはカーティスも分かっていた。


 ……だからこそ、ギリギリの戦いなんだ。


「あんま、楽しそうじゃないですね……」


「はあっ?」


「あ、いえ。こっちの話です……」


 追いかけているのに、なんであそこまで卑屈にしているのだろうか。


 いや、以前のカーティスもそうだった。


 そんなこともずっと昔のように思えるのは、あまりにも集中して追いかけている時間が長かったから。


 この1年……ずっと追いかけ続けたが、いつの間にか卑屈になっている暇すらも自分にはなくなっていた。


 それは、きっと、ずっと追いかけ続けている相手がいると同時に、一緒に追いかけていた仲間がいたからだろう。


 抜きつ抜かれつ、追いかけ、追いつき、追いつかれを繰り返していれば、1年なんてあっという間だ。


 その楽しさを知ってしまっては、後ろを向いている時間などもったいないとしか思えない……!


 ……さて、この人には追いつけるだろうか?


 カーティスは、ギリッと拳を握った。


◇「舞台北側本陣付近」(開始8分頃)<3人称視点>◇


「くっ、あそこか……!『灼熱情波しゃくねつじょうは』」


 ボボボボボボボボアーーーーーー!!


「はいっ、はずれ!!」


「まだまだ『雪まつり』は続きますよ~」


「おいで、おいで、おいで~」


 『雪像』や『雪だるま』が何十体もいっぺんに動き回っている。


 【針木】幹部、『灼情しゃくじょう』ジェニファー=アルバを中心に、<2年生『殿上人』連合>幹部7人は、必死に攻勢に出ているが、積もる雪から次々と生まれてくる雪像と敵の「アンバスターズ」の見分けがつかず……


 ……

 …………

 ………………


 ……ずっと、追いかけ回していた!

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


1年なんてあっという間ですよね……


皆、成長しました(^^)


次回、悪魔の交代策……!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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