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6-58『悪魔小僧とその執事』

◇「戦略会議翌日~紫雲城~」◇


「『炎格』と1番相性が良いのは何だ?」


「やっぱ『風』は強力だったよな……」


「『水』や『氷』とは相性が悪そうですしね……でも、『水』を『蒸気』にしたり、『氷』を『水』にしたりはできるか……」


 ハリー、カーティス、クレハ先輩が色の付いた拳大の「玉」を撫でたり、テーブルの上で転がしたりしながらなにやら思索に耽っている。


 「玉」をそれぞれの属性魔法に見立てて組み合わせを考えているようだ。


 今は「赤い玉」の回りに「青の玉」と「水色の玉」を置いている。


 うむ、研究は進んでいるようだ。


 何より……!


 俺は今見ている方向と反対側を向いた。


「敵の戦術の中でも1番警戒すべきなのは『魔法隠密部隊』ですね。互いに魔法を使って存在を上手く隠したり、認識を逸らすような動きをしてくるのですよ」


「ふうむ、原理が今一つよく分からないのが厄介ですなあ……」


「錯覚のようなものですかね……魔法を発動させるタイミングで高速で動くことで相手の意識の外に動くのでは……?」


「の、ノーウェ君が、目で追わずに『魔力』を『風魔法』や『光魔法』で追えばすぐに分かると前に言っていましたよ」


「「「……なんと!?」」」


 ……うむ。


 シーア先輩のところの「隠密部隊」のことね。


 コト先輩の見立てがほとんど正解で、彼らは小さな魔法を発動させ、人の意識がそこに向いた瞬間にスッと外れるんだ。


 ちょっとした手品の要領だな。


 ここで重要なのは、猛スピードでありつつも、静かに動くということだ。

 それが人の目と意識の間に錯覚を引き起こさせる。


 例えば、シーア先輩は『雪』を降らせ、人の意識が雪に向いた瞬間に超高速で相手の後ろに回る。視界から外れれば、文字通り見失い、そこからさらに見つけ出すまでに時間が掛かるものだからね。


 このトリックを破る手っ取り早い方法は、魔法を発動させた魔力の残滓を追うことだ。


 手から発動させれば、手に残滓が残る。

 まるで残り香のようにね。


 魔法を放った瞬間から、彼女たちは移動を始めているので、注意してその魔力の残滓を辿れば、動いた先が分かる。

 ただし、前々から皆には言っていて、この休養期間中にも訓練をしてもらっているけど、そういった魔力に対する感度を高めるためには、自分が微細な魔力調整をできるようになる必要がある。


 強い魔法を放つばかりが「強さ」への道じゃないんだ。


 あと、彼女たちの技をもう少し改善するとしたら、俺ならダミーの魔法を放ったりするけどね。


 ……まあ、俺には『ハイエロファント』や『ボイスバッグ』があるから必要ないんだけど。


 このように、「戦略会議」から1日経ち、成果も少しずつ出てきているようだ。


 参謀や指揮官たちの姿勢を見ていれば、安心して本番に臨めるというものだ。


 もう、大船に乗った気でいるよ。


「ノーウェの番ですよ?」


「あ、はい」


 俺は……というとなぜかリバーと向かい合って、よく分からないボードゲームに興じている。


 ボードの上にいくつかの種類の違う駒が置かれている。

 数字の書かれたカードを手札に7枚持ち、自分の番になったら1枚カードを盤に出して、その数字分だけ自分の駒を選んでカードに書かれた数字分マスを進める。

 カードを1枚消費したら、場に積まれているカードを1枚引いて補充する。


 自分の駒と、相手の駒がマスとマスで接したら戦闘が起こり、サイコロを使って勝敗を決めるんだ。


 最終的に駒の数が多い方が勝ちというゲーム……


 これを昨日から2人でずっとやっているんだ……


 ……なんか、俺たちだけ遊んでいるような気になってくるんですけどっ!?


 それでも、まあ、一応は次戦に向けた「戦略」の話はしている。


 ひたすらゲームに興じてはいるが、1戦ごとにトークテーマを1つ設けては話しているんだ。


「ブルートとバランはどうします?」


 リバーは「3」と書かれたカードを場に出し、こちらから見て1番左の駒を進めた。


 こちらが「2」以上のカードを出せば戦闘になる。


 ちなみに、相手の陣地で戦闘をした場合、敵にサイコロの目にプラス「1」されるルールとなっている。


 地の利というやつだね。


 そうなると自陣で戦う方が有利であり、消極的な戦術の方が良いんじゃないかと思いがちなんだけど、案外そうでもない。


 駒には斜めや横に動けるものもあり、その駒を自由に動かすために他の駒を積極的に動かして道を開ける積極策の方が有利な場合もあるんだよね。


「そのまま訓練させておいた方が良いだろう。ひょっとしたら当日までに何かすごい戦法を編み出しているかもしれないし」


 俺は右から2つ目の列の駒を「7」進めた。


 リバーの駒と接したのでサイコロを振った。


 ……出た目は「6」!


 しめしめ。


「なるほど。『瓢箪から駒』作戦ですか」


 実際に「駒」が出てきてくれるかは分からないけどな。


 リバーがサイコロを振る。


 ……「5」だと!?


 リバーの陣地のためプラス「1」されて合計点は「6」……つまりはイーブン。


 サイコロ勝負が引き分けになった場合、駒同士は据え置きとなり、次回以降にカードを捨てて動かした場合に再び勝負となる。


 リバーの陣地に食い込んだことで戦略的に有利になったともいえるし、勝っていたら相手の駒を奪えていた分、損したともいえる。

 サイコロ勝負に負けなかっただけましかな。


「決闘当日まであの訓練を続けてくれていた方が相手もより迷うだろう」


「それはたしかに……」


 ブルートとバランの2人は敵に「仲良く肩組んで特攻大作戦」を漏らすというポカをした。


 でも、その作戦自体は俺が適当に思いついた「ダミー」だったので、漏れたこと自体はそこまで問題ではなく、今ではむしろそれを積極的に見せることで「災い転じて福となす作戦」に以降している。


 相手が信じようが信じまいが、ここに「駆け引き」が生まれ、1つのカードになった。それだけで十分なのだが、ここはあの2人のアホパワーにさらに期待しよう。


「ところで、敵はノーウェの懐に入り込んでくる可能性も考えられますよ?」


 リバーがスッと駒を動かした。


 俺がさっき開けた2番目の列に、敵駒が一気に入り込んできた。


 ……斜め、だと!?


 し、知っていたさ……

 見落としてなんていないもんね。


「そのときは『目には目を、歯には歯を』だな!」


 俺はカードを切って斜めに進む駒を、侵入してきた駒に設置させ、サイコロを振った。


 ……「6」!


 勝利確定だ!


「ふむ、それは心強い」


 もう何回勝負しているか覚えていないほどだが、感覚的には3回に1回勝っていればいい方……


 非常にソツのない攻めをしてくるリバーがだいたい勝つけど、こっちもたまにその澱みない手が止まるほどの一手がなんかの拍子に出たり、サイコロ勝負に連勝したりして、局面をひっくり返して勝っている感じだ。


「……やはり、攻めていた方が勝機は引き寄せられそうですね」


 リバーがボソリと、何事かを呟いた……


 そして……


 ……いつの間にか、このゲームを落としていた!


 ……なんでっ!?


◇「マジックスクエア2階【泥魔沼】研究室」◇


 参謀たちや指揮官たち、裏切者2人以外のメンバーたちには、現在各々グループを作って訓練をしてもらっている。

 だいたい4~5人のメンバーで固まってもらい、対戦役、審判役、観戦役を各々ローテーションしている。


 休養前に教えておいた「繊細な魔法の常時発動のコツ」は、だいたい全員基礎的な部分は習得できたようで、今はその応用を行なっている。


「『ハイウインド』、『ハイアース』……デス」


「『ハイライト』、『プロテクト』~!」


 今、訓練の一環で模擬決闘をしているのは、双子たちのグループと「アンバスターズ」。


 うん、格段に発動がスムーズになっているし、速くなっているね。


「仕上がりは上々のようですね」


 隣に立つリバーが答えた。


「ああ、順調過ぎて、当日誰をスタメンにするか迷うくらいだな」


 決闘のメンバー数は15人。

 俺、リバー、クレハ先輩、コト先輩、アホ2人、ハリー、カーティスは確定として、残り7人をどの組み合わせでいくかというのが悩みどころだ。


 順当に参謀を加えるなら、レヴェック、コナース君、モモエが入り、残りは4人となる。

 その場合は1グループ追加。


 でも、彼らに外での司令塔役を担ってもらうとしたら、そこにもう1グループ、あるいは特別編成の部隊が加わることになる。

 その組み合わせの塩梅や、敵の戦術、あるいはこちらの交代策との兼ね合いが重要だ。


 なんにせよ、順調すぎて却って悩ましい状況だな。

 それでも、カードは多い方がいいからね。


「行くデス。僕たちの新たな必殺技デス」


 アルトとシャウが手を繋いだ。

 そんな2人がコークンとホウジュンが肩車する。


 双子たちの手つなぎ肩車の完成だ。


「いつでも来なさーい。私たちも新しい『防御結界』があるんだから~」


 レミたち「アンバスターズ」も負けてはいない。


「アンバスターズ」(4人グループ)は、4人がそれぞれ手を繋ぎ合っている。


 ……なるほどね。


「これは当日もかなり期待できそうですね」


「そうだな……まあ、次が『本気』か『全力』かはそのとき次第だけど!」


「ふふっ、そうですね。この新技は『伝家の宝刀』として懐に忍ばせておきましょうか」


 皆、この大会中もどんどん成長してきている。


 飽くなき探求心、尽きることない魔法に対する渇望が俺たちの派閥……そして<連合>の動力源だ。


 ジャネット先輩が戦略を練り、今の俺たちをぎゃふんと言わせるための策を考えているのであれば、俺たちはそれをさらに超える魔導師になってやる。


 当日まで……

 いや、その瞬間までな……!


 俺とリバーは、ひとしきり訓練を見届けたあと、皆の邪魔にならないように、扉を静かに閉めて次の場所に向かった。


 向かう先は、馴染みのある俺たちの寮の近く。


「マゼンタ寮」裏庭の芝生には、新たな「闘技台」が設置されている。


 作ったのはジャネット先輩たちだけど、「マゼンタ寮」の入居者であれば、申請をすれば使うことができる。


 ジャネット先輩たち【魔花】は専用の闘技場があるので、ここを大会中に使うことは少ないから、今は例の2人がほぼ独占状態で使用している。


「くぉらっ、アホバラン!同時発動だと俺の『水』の邪魔だろうが!」


「それはこっちの台詞だ、アホブルートぉ~!お前の『水』のせいで我の『火』が弱まるだろうが」


 肩を組んで、仲良く息を合わせて人型の的に向かって魔法を放っていたブルートとバランであったが、途中で互いの魔法がぶつかり合い、威力が半減してしまったようだ。


 肩を組んだままの状態で言い争いを始め、しまいには組んでない側の腕で互いをボカスカ殴り始めた。


 仲が良いんだか、悪いんだか……

 それにしても、先行き不安過ぎるな……


「飯でも食いに行くか……」


「そうですね……」


 俺とリバーは、そのまま玄関の方に引き返して、食堂へと向かった……

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


順調な仕上がり具合ですね……(2名を除く)


次回、いよいよ開幕直前!

あの人たちも観戦しているようです……!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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