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3-66『ナメる者』

 ピリピリと張り詰めた空気。


 先ほどの四方体の巨大なブロックが瞬時に生成され、コイン先輩の周囲を浮遊している。


 なんというか……無尽蔵な印象だな。


 ただの石の塊ならともかく、普通、あれだけの大きさのものを綺麗な形の石を成形するのは、多少なりとも魔力も集中力を消費すると思うのだが、まるで息を吸うように、まったく同じサイズと形の石を生み出している。


「『武石ブロック』」


 先ほど、先輩が『ヴァインバブル』に試したのと同じ、四方体の石が飛んでくる。


 かなりの速さ。


 こんなのが頭に直撃しただけでノックアウトだ。

 いや、当たりどころが悪ければ普通に死ぬ。


 だから、キャリーさんが立会人をしているんだろうな、この大会は。


 いくら2文字の称号持ちだからといって、スピード、質量共にこれだけのものを発動するのに、どれだけ修練を重ねてきたのだろうか。


 頭が下がる。


「『ハイウインドーシェル』」


 ガンッ……ガガガガガガ……


 削り取ったが、『ハイウインド』と合わせた『シェル』でようやく防ぎ切れる程度。


 なかなか割に合わない。


 「シェル」は咄嗟の対応なんかでは重宝するし、色々と使い勝手の良い魔法ではあるのだけれど、こういう物量や火力で攻めてこられる場合にはあまり適していない。

 あと、張り方の工夫もしなければいけないから、決して万能ではないんだよね。


「『武石ブロック』」


 2発目。


「『マジックボム』」


 ヒュー……ボガーーーン……


 無事、破壊。


 うん。

 こっちの方が良さげだ。

 『マジックボム』は、相手の魔法の腕が熟達していればいるほど、その効力を発揮する。


 コイン先輩の生成する「石」は中身がギュッと詰まった、密度の濃いものなんだろう。


 こんだけ、きれいに爆散してくれるとなると……


 先輩は、全開と言いつつ、その攻撃は、かなり手堅い。


 やはり、あの程度の挑発には乗ってこないか……


 全力と全開は違うからね。


 手抜かりのない攻撃をしつつ、確実にこちらを値踏みしている。


 さらに厄介なのは、1つの石ブロックをこちらに放つ間に、別のブロックを造り上げ、先輩自身の近くの地面に積み上げていることだ。


 発動、魔力量、生成に至るまでの熟練度が飛び抜けていればこその芸当で、戦術としても攻守に渡って手堅く、抜け目ない。


 土(石)魔法って本当に厄介だ。


 物資としての質量や硬さもさることながら、何より、火や水と違ってそこに残り続ける。


 コイン先輩が積み上げた硬い石の生成物は、そのまま先輩の身を守る城にもなるし、こちらが近づいてきた場合の武器にもなる。


 1つ言えることは、この先輩の戦術に付き合えば付き合うほど、対戦相手にとっては不利になるということだ。


 でも、行かないよ?


 先輩が我慢強いタイプであり、その戦術が待ちの姿勢であるならば、こちらも我慢比べに付き合う必要があるからね。


「『武石ブロック』」


「『マジックボム』」


「『武石ブロック』」


「『マジックボム』、『ハイウインド(風矢)』」


「……『嶺護(れご)』」


 ヒュー……ボガーーーン……


 ヒュー……ボガーーーン……


 ヒュンッ……パァーーン……


 コイン先輩に向けて風の矢を放つも、平べったい石のカーテンが阻む。


 ならば……


「『武石ブロック』」


「『マジックボム』」


「『ハイウインド(3連矢)』、『れんぞくま(6連矢)』」


 ヒュー……ボガーーーン……


 ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……シュシュシュシュシュシュ……


「……『嶺護れご』」


 最初に強めの3本の風の矢。

 次に6本に分散させた矢を『れんぞくま』として放つことで、計9本の魔法の矢を先輩の元に分散して打ち込んでみた。


 しかし、コイン先輩は、顔色ひとつ変えずに、1番最初に放った矢のときと同じように、石のカーテンを生み出し、今度は自身の周囲全面に張って、複数の矢の攻撃を事もなげに処理する。


 ……それにしても、こちらは火力不足。


「風」だから風力不足か、この場合……


 なんてことを考えている内にも、着々と対岸の工事は進んでいる。


 今では、先輩の横、片側だけでなく、両側に四方体の石のブロックが、4、5メートルの高さまで積み上がっている。


 今から、先輩が一切手を出さなかったとしても、あのブロック群を破壊するのに結構な時間がかかることだろう。


 それが、こちらに向かって来るのだとしたら……


 まあ、ゾッとするよね……


「『貨幣投コイントス』」


 今度は、丸い球形の石が飛んできた。


 人の頭くらいのサイズ。


 ……ただの球だったら、このタイミングで放つわけないよね。


「『ハイウインド-スプラッシュマジック』」


 パンッ……ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……


 案の定、途中で、球が分裂し、硬貨のような形になって、分散してこちらを攻撃してくる。


 たとえ、小さな石の塊であろうとも、勢いが付いているから、危険な凶器となる。


 パンッ、シュパパパパパパパパパパパ……


 ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ……


 こちらの対抗策も魔法による散弾。


 相殺され、こちらもなんとか粉々になる。


「これも対応してくるか。やるな……だが、こっちに積み上がっているものが分かっているのに、なぜ手を打とうとしないんだ?『武石ブロック』」


「だから、最初に言ったじゃないですか?様子見させてもらうと……『マジックボム』」


 ヒュー……ボガーーーン……


「お前ほどの男なら、それがどんどん自分の状況を不利にすることを分かっていないわけじゃないよな?『貨幣投コイントス』」


「ええ、まあ。それでも様子見をさせてもらいますよ。せっかく、『殿上人』と初めて『戦闘方式』で戦う機会なんで、先輩の魔法を骨の髄まで()()()()()もらわないとね……『ハイウインド-スプラッシュマジック』」


「……?」


 パンッ……ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……


 パンッ、シュパパパパパパパパパパパ……


 ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ……


「……要するに、俺はナメられているということでいいか?ガチでやろうぜと言っておいたはずなんだがな……『武石降離ブロックコーリ』」


 ナメる?

 はて……?

 しゃぶるとナメるは似たような言葉だな、たしかに。


「こっちも結構ギリギリなんですけどね。でも、もっとヒリヒリさせてくださいよ……うおっ、『ハイウインドーコルナード』」


 これまでどおりの巨石のブロック攻撃かと思ったら、途中でバラバラに分解し、煉瓦ぐらいの大きさになって向かってきた。


 俺は咄嗟に竜巻を発動させ、ブロックの推進力を奪い、地面に落とす。


 ガランッ……ガラガラガラガラ……


「ふむ……」


「意外と心理戦もするんですね……」


「まっすぐなだけじゃ、『殿上人』にはなれねえよ。お前みたいにひねくれ過ぎているのもどうかと思うけどな。それよりも……『武石降離ブロックコーリ』」


 ……ちっ、言葉に誤魔化されてはくれなかったか。


「『ハイウインドーコルナード』」


「……」


 これは、気づかれてしまったかな……


 デカい岩なら『マジックボム』が有効。

 硬貨ぐらいの大きさも、『スプラッシュマジック』でなんとかなる。


 でも、その中間が……しかも、複数だと即座に破壊するのはちょっと難しい。


「……そろそろ頃合いか」


 ブーーーン……ズッ……ズッ……ズッ……


 マジかよ……


 俺とコイン先輩は、ここまで、決闘の開始線から一歩も動かずに互いの魔法を打ち合っていた。


 ズッ……ズッ……ズッ……


 そこから先に動いたのは先輩。

 ならば、我慢比べを制したのは俺であり、先輩の当初の計画を崩せたことになる……普通なら。


 しかし、先輩はやはり、普通ではなく規格外だった。


 ズッ……ズッ……ズッ… …


 闘技舞台の反対側に積み上げていた、左右後ろのブロック壁ごと自身の歩幅に合わせてゆっくりと動かしながら、その要塞さながらの陣地を舞台中央に移してしまった。


 動きはしたが、基本的な防御戦術は一切変えずに積み上げたブロック壁とともにどっしりと構えるコイン先輩。


「さあ、本格的な打ち合いをしようぜ!」


……うーん、手強い!

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


堅実な手段で、着実に相手を追い詰める……

強敵ですね……


次回、接近した2人の主導権争い!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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