動物園はどちらですか?
とある春の日、今日は晴天で気持ちがいい
陽射しが優しく微笑んでいるように感じる
こんな最高の日は今までの人生で何回経験したことがあるだろうか?
桜の季節は先日終わってしまって、道路のピンクの絨毯もすでに無くなっている
今日みたいな日がくると、まだ少し肌寒かったあの季節は随分前だったような気がする
それぐらい手放しで開放的になれる今日なのだ
こんな日は家でじっとしているのはもったいないし、太陽の下で過ごしたいな
ドライヴして温泉にでも行くか?
いやいや思い切り外の方がいいんじゃないかな?
そうだ久しぶりに動物園でも行ってみようか?
そんな軽い気持ちで一番近い古くからあるごく普通のとある動物園に向かった
玄関を出ると想像通りの快適な空気感がした
車に乗るのももったいないな
自転車で行くことにするか・・・
堤防の上の道を自転車でゆっくり走る
両サイドは青々とした名も知らない草(失礼ながら人間は彼らを雑草と呼ぶ)達が機嫌よく背を伸ばしていた
陽射しを受けてさらに輝きを増し、あの青臭い匂いを周りに漂わせていた
モンシロチョウ2匹が戯れながら舞っている
これまた名も知らない雀よりちょっと大きめの鳥が木の上で鳴いている
そんな堤防を走り川を逆上って行った
まさに春爛漫を全身で楽しんでいた
ほどなく目的地の動物園に到着した
自転車置き場を見つけて駐輪した、すぐ横が駐車場だったが、空いていた
午前10時か・・・思ったより人はいないんだなぁ・・・
よしよし!確かに動物の一種だが人間を見に来たわけじゃないからな・・・
確かここはこの間までリニューアルとかで閉園されていたけどこの間再開したんだな
どういう風に変わったのだろう?
入り口らしきところから中を伺うと、見渡す限り空が見えた
あれ?建物は無くなったのかな?
そう、建物らしきものは全く見えず、園内の通路らしき両側には5センチほどの間隔で細い鉄の棒がそびえ立って並び上部は網で覆われていた・・・この中を通って行くということか・・・
リニューアルしてこういう風になったんだなぁ・・・
入場券を買おうと券売機を探したが見つからなかった
では、窓口は?と・・・無かった・・・あれ?
ゲートにいたスタッフに聞いたら「入場は無料です」
「えっ?リニューアルキャンペーンでもしているのですか?」
「いえ、リニューアルして無料になったのです。このゲートを入ると通路に沿って右にお進みくださいそこに窓口があってそこで餌をもらえます。では、どうぞお楽しみください」
「餌?動物に餌でもあげられるのだろうか?ふ~ん、どの動物用だろうね?」
言われたとおりゲートを入って右側に進むと、確かに窓口があった
「あのすみません。餌をいただけると聞いたのですが・・・」
「いらっしゃいませ。はい!こちらが一人分の餌になりますのでどうぞ」
と紙袋を渡された
「あのぉ・・・これは・・・一人分の餌ってどういうことですか?」
「詳細はこのパンフレットをお読みいただき、注意事項はくれぐれもお守りくださいね」
私は鳩が豆鉄砲でもくらったような顔をしていただろう・・・そしてパンフレットに目をやったところで
「では、どうぞお楽しみいただけますように。行ってらっしゃいませ」
窓口のスタッフは笑顔でそう言った後、ちょうどかかってきた電話応対を始めた
何か訳が解らないがとにかく先に行ってみよう
そう思いながら例の通路を進んでいった
しかしよくよく見るとまったく建物が見えない
一体どれくらいの広さなんだろう?
遥か彼方は小高い丘や雑林に囲まれてこの敷地の外はまったく見えないようになっている
これはまさにサファリだな
さて、ここで一つ異様な事に気付いた、このずっと続く通路以外に仕切りがないのである
つまり動物たちは区分されずにこの広大なサファリに共生しているということか?
猛獣もいれば草食動物もいるだろうに・・・これはどういうことだ?
立ち止まってパンフレットを見てみる
来園を歓迎する一般的な挨拶の後に特徴が書いてあった
「当園は来場者の方がそれぞれ餌をもらい安全な通路を通って園内を見学していただきます。通路の最期には小高い丘がありそこに登っていただくと園内が一望できます。ではどうぞお楽しみください」
とだけ・・・何なんだ?そしてこの餌って何のことだ?
注意書きに目を通したらそこに餌に対する注意書きが書いてあった
「見学に近寄ってくる動物たちには絶対に餌を与えないでください」
?ますます謎は深まった
見学に近寄ってくる?餌を与えるな?じゃあこの餌はなんなんだ?
何やら気配と視線を感じた
パンフレットから目を上げてみると
周りに多数の猿が集まってきていた
突然のことに驚きを隠せなかった
人はその場から知らない間に何かが無くなってもそれほど驚かないが、知らない間に増えていると驚愕する
まさにそのとおりで目を見開いて無意識に身構えてしまった
また、なんなんだ?が頭の中で渦巻く
それも猿ばかり・・・
ある猿は私を指差しとなりの猿と何やら話し合っているように思えた
赤ちゃんを抱いた母猿は赤ちゃんに私について何やら教えているように見えた
私を見て笑っているような猿もいた
とにもかくにもここから離れよう・・・
急ぎ足で通路を先へと進んだ
すると猿たちも一緒について来る
さらに別の猿がどんどん集まってきて私を見ている
ただ、猿たちは私に危害を加える気がないのは何となく解った
手に持っている餌すら見向きもしない
まさに、私を見にきているだけなのだ
通路の先に丘が見えてきた!これがパンフレットに書いてあった最期にある園内が一望できる丘なのか?
急いで駆け上がった
不思議なことに猿たちはこの丘には登ってこなかった
一安心した
丘の上から周りを見渡した
ほんとうだ!
園内が一望できる
猿たちがあちらこちらでグループを作り生活している姿が見えた
そして私が歩いてきた通路の外側、つまり猿が集まっていた側に等間隔で看板らしきものが掛けられていた
そこには猿の生活域側に見えるように文字が書いてあった
「人間(霊長類) 手を触れないでください」
あっ!
ここで私は全てが解った
そこでもう一度パンフレットに目を通した
注意書きの最後に書いてあったのは「この餌の消費期限は来園日中ですのでお早めにお召し上がりください。また、空容器類は園内にはけして置いたままになさらないで園外へ持ち出してください」
私は急いで紙袋の中の餌を確かめた
パックに入った2個のおむすびと2切れのたくあん、赤いウインナーソーセージを炒めたもの、卵焼き一切れ、小さな鮭の塩焼きとペットボトルのお茶が入っていた
この動物園で見世物になっていたのは私の方だったんだ!
それでずっと檻の中を歩いていたんだ
猿たちは広大な場所で自由に生活している
動物園の飼育の義務から私は入場無料であり餌をくれたということか・・・
妙に納得したら大きな空腹感に襲われた
私はその丘の上で供給された餌を貪るように食べて動物園を後にした
帰り道に小さな子供を連れたファミリーに道を聞かれた
「動物園はどちらですか?」
私はニヤッと微笑んで場所を教えてあげた




