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ラジオ

作者:

3、2、1…


「こんばんは、今日もこの時間がやってまいりました。」



 ここからは、私の時間ステージになる。




「今夜も始めてまいりましょう。

 ー深夜のひっそりラジオ。


早速ですが、最初のお便りに参りましょう。


ペンネーム、かおりさん。

あら…。とても達筆で綺麗な文字です。

秋らしく紅葉が描かれた便箋でお便りを送ってくれています。

…くんくん、なんだか、金木犀のにおいがする気がします。

においを嗅ぐなんて、はしたないですね。すみません。

では、お便りに行きたいと思います。


『こんはんは、さきさん。

 最近、一段と寒くなってきましたね。

 こんな季節になると、私はいつも思い出します。

 初恋の彼の事を』


なんて素敵なお便りでしょう。それでいて、この時期に思い出す。というのがなんとも物悲しいくていですね。こう寒くなってくると人肌恋しくなりますからね。

初恋かぁ…。それぞれ思い出がありますよね。もしかしたら甘酸っぱい思い出が多いかもしれませんね。


『彼と出会ったのは、高校生の時。

 おさげにセーラー服。今では見かけない格好をした女子学生でした。

 私は女子高に通っていましたので、彼とは学校が違いました。そんな彼を時折、見かけては恋心を募らせていました。

 女の私から声をかける勇気はなく、恥ずかしくてできませんでした。ただ、見ているだけでよかったのです。

 そんな学生生活を送っていた私も高校を卒業をしました。

 彼は同級生だったらしく、それ以来見かけることはなくなりました。』


あら…卒業してから意中の彼を見かけることはなくなったんですね。

なんだか、切ないですね。

お便りにはまだ続きがあります。皆様、もう少しお付き合いをお願いいたします。


『高校を卒業して、私はすぐにお嫁に行きました。そういう時代だったんでしょうね。

 実家から離れた田舎町に引っ越し、そこの農家の長男と結婚をしました。

 夫との間に三人の子どもが生まれ、幸せに暮らしていました。

 かわいい娘に元気な息子に囲まれて、本当に幸せな生活でした。

 そんな夫も4年前に病死しました。もちろん悲しい出来事でしたが、

 子どものほかに、孫に囲まれている毎日でした。』


初恋の彼を忘れられないまま、若くして嫁いだ。

そして旦那様との間にお子さんが生まれ、お孫さんも生まれた。

旦那様がお亡くなりになられて寂しい気持ちを抱えつつも、かおりさんは本当にしあわせな毎日を送っていらっしゃたのですね。


『そんな生活も長くは続かないものですね。

 私にも病気が見つかり、入院をすることになりました。

 長年住んだ家を離れ、娘や孫が住んでいる都心の方の病院に入院することになりました。

 そこで、神様からの贈り物を授かりました。初恋の彼に再会しました。』


おぉ!ここで、あの初恋の彼が出てくるんですね!

この後の展開が気になりますね。では、続きを読みますね。


『彼の名前も知らない私が見つけられたのは変な話ですよね。

 お見舞いに来ていたお孫さんを見かけたのです。

 若い頃、恋焦がれていた彼の顔にそっくりでした。

 その時も声をかける勇気がない私は病室の前を通った時にお名前を見ました。

 初めて名前を知ったときは、本当に嬉しくて、生娘の様に今にも踊りだしそうな気分でした。

 そのまま、話をしないでそっと死んでいくんだと思いました。

 でも奇跡が起きました。

 ある日、私が談話室でくつろいでいると彼が隣に座ったのです。

 「初めまして」なんて声をかけられたときは、心臓が飛び出るかと思いました。

 あの時ほど、高揚したことはありません。なんて、こんな事を書いたら夫に怒られそうですね。

 でも夫の事は本当に愛していました。彼の事は恋というより憧れに近かったのかもしれません。

 そのあと顔を合わせれば挨拶をしたり、世間話をするくらいの仲になりました。

 若い頃の話、奥様、お子さんやお孫さんの話。色々な話をして、聞きました。楽しかったです。

 さて、高齢の私たちです。そんな楽しい時間も長くは続きませんでした。』


初恋の彼との再会…。青春ですねぇ。それがお互い年を取ってからっていうのも甘酸っぱいですねぇ。私こういう話、大好きですよ。

…あ、話が逸れましたね。では続きを読みますね。


『彼とのかけがえのない時間が、私の楽しみでもあり活力になっていました。

 ですが、そんな彼も私を置いて、死んでゆきました。

 最後に見た、彼の笑顔は素敵でした。

 若い頃の笑顔も勿論素敵でした。年を取った彼は…しわくちゃな顔をくしゃくしゃにして笑っていました。私も、しわしわのおばあちゃんなので、人の事は言えませんけどね。

 彼が最後に話していたのは、奥様のお話でした。

 “彼女は本当に素敵な人で、自分には勿体なかった”と嬉しそうにおっしゃられていました。

 幸せそうな顔が微笑ましい反面、嫉妬してしまいました。私の中にこんな感情が残っていたなんて自分でもびっくりです。

 自分も同じように夫から愛されていたのか、という嫉妬です。いやですね、いい歳をして。

 さて、前置きが長くなりましたね。ごめんなさい。

 こんなおばあちゃんの話を聞いてくれるのは此処しかないものでね。

 けんじさん、私の初恋相手があなたの様な素敵な方でよかった。

 はじめさん。私、あなたと結婚出来て本当に幸せでした。

 来世でも、よろしくお願い致します。』


…ここで、かおりさんのお便りは終わりです。

何度も私の感想を挟んでしまい。すみませんでした。

かおりさん。いいじゃないですか、嫉妬。

自分も同じように夫から愛されていたのか、なんて思って嫉妬をするなんて中々できないですよ。

かおりさんも旦那様から愛されていますよ。

だってほら。今、かおりさんと旦那様がこちらに向かって手を振っています。

そんなおふたりの手は固く握られています。

…なぜわかるかって?

それはここが天国と地獄の境にあるからですよ。

死んだ方からのお便りを募集して、皆様にお伝えするためにあるからです。

次回はどんなお便りが寄せられるのか、楽しみですね。


では、今日はここらへんで。

この時間のお相手はさきでした。」

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