パーティ後
当て馬令息恋を知る、庭園パーティで2
一方、アーノルドは庭園会だ突然別れたソフィアを、ソフィアの留学中の2年間、まさしく必死に探すことになった。庭園会に参加していたのだからもう社交界デビューしているだろうと踏み、そのうち夜会で会えるだろうと、軽い気持ちでまずはレッド派閥の夜会に徐々に、後に片っ端から参加し、そのうちブルー派の夜会にも広く参加してソフィアを探した。名前を聞かなかったため、唯一の手がかりは令嬢の茶髪だが、茶髪は帝国で一番多く、手がかりにならなかった。どのパーティ会場でも見当たらない。ひと目見れば、必ず間違えない自信はあるのだが。
アーノルドはそれまで軍務ばかりで社交をほとんどしていなかった。しかしパーティに参加すれば身分は高いので誰とも言わず、よく話しかけられた。相手が探している令嬢の親類の可能性を考慮し、無碍にはできないことも功を奏し、うまい話といわれて色々な話を振られ、その受けもいいため、すぐにアーノルドの社交界での評判は鰻登りとなった。
ダンスに参加すれば令嬢に囲まれてすぐ身動きがとれなくなるから、ダンスホールだけははじめ避けるようにしていたが、それも良くないと思い直し、ダンス会場で茶髪の令嬢を目が合うまでジロジロ見るものだから、余計ダンスに誘われてしまい、それも断れないから、そのエスコートが素敵だ、皆分け隔てなく接してもらえて安心とアーノルドは女性達の間でたいそう評判となった。
レッド派閥の夜会からブルー派閥の夜会へと参加するパーティを広げつつあった段階で、親友でなにかと行動を共にしている関係のブルー派閥伯爵家嫡男ネロ近衛騎士団長に、アーノルド元帥は国を手に入れるおつもりですか、と笑われ、気づけばそんな感想を自然と持たれるほどに社交界での地位が盤石なものになりつつあった。ネロとしては、軍を掌握するだけでなく、派閥問わず、関係を広く築き上げつつあるアーノルドは国をおびやかす存在そのものだった。王に仕える近衛騎士の身分としては当然気にした。
「なんだそれは、人探しだ。」
とアーノルドは訝しがりつつ否定し、親友にワイン片手に、実はな、と生涯の最良の出会いについて話しはじめた。
ネロはワイン片手に冷静さを保ちつつ、腹ではたいそう驚いていた。この幼少の頃から剣にしか興味のなかった堅物の親友が、19歳で初恋をし、今まで数年こんなにも純粋に1人の令嬢を探し求めていたとはと全く気づかなかった。また、自分も何か役に立ちたい、そう思える素敵な話だった。
そんな中、アーノルドは社交界だけでなく、軍務でも成果を順調にあげ続け、もとの位が高いこともあったが、21歳の今は軍では元帥となった。
そんな生活を2年続け、これだけではまだ足りないのだと、令嬢に会った年にデュビタントとなった茶髪の令嬢との条件で、軍の側近、レッド派閥侯爵家五男、ロバート、愛称ボブに城にある釣書を持って来させていた。職権濫用である。さすがに疲労とあせりで公私混同ぎみである。
「お待ちしました。」
「うむ。」
「本当にこちらの令嬢全員と見合いをするおつもりですか?」
「ああ、そうなるだろな。」
と答えると50冊ばかりの釣書を脇に置き、アーノルドは書類仕事にもどった。
ロバートはネロから大体の事情は聞き、ネロと同様心から令嬢探しに協力したいと考えていたが、庭園会で一回見たきりでその後見ていないということは、普通に考えて他に婚約者ができたということではなかろうかと、口には出さないが、上司兼親友を心から不憫に思っていた。
しばらくしてその釣書をもとにアーノルドは見合いを始めたが、当然成果は全くなかった。
そしてソフィアとの出会いから3年目、今年も庭園会にアーノルドは独り参加していた。王太子の婚約者がこのほど決まり、そのお披露目を兼ねて開かれており、今回でこの庭園会は役目を終えることになっていた。王太子への挨拶も早々にすませたアーノルドは、今日、いや最近は会場で令嬢を探す熱意もおこらないため社交のメインエリアは避け、自然と立食会場までとぼとぼ歩いていた。アーノルドは挨拶を一番に終えているため、立食会場に他の姿はなかった。3年前、茶髪の令嬢と食事をしたソファ席になんとはなく腰掛け、空を見上げ、鳥が横切るのをボーと視界の隅にいれていた。焦点はあっていない。アーノルドは疲れを感じていた。
しばらくすると、
「ごきげんよう。」
と、アーノルドに話しかける聞き覚えのある声がして、アーノルドは自分は寝てしまっただと錯覚した。
「ごめんなさいね、リラックスされているところ、つい、懐かしくなって話しかけてしまいましたわ。」
と、また声がする。これは、と気づいてガバッと上体をおこすと、そこには夢にまで見た令嬢が、まさしく探し求めていた茶髪の令嬢が、少し大人びた印象で、赤いドレスを着てアーノルドの前に立っていた。
ああ、やっと、見つけた。というか、見つけてもらえた、とアーノルドが令嬢に感謝して見ると同時に、自然と体が動き、令嬢をエスコートして同じテーブルの椅子に座らせた。とても自然で、まる2年の社交の成果がはじめて発揮されたといえる光景だった。
もう、逃すつもりは毛頭ない。
心の中でアーノルドは強く思いつつ、できるだけ優しく、これまでのこと、名前、婚約の有無を引き出そうとしていた。
「ああ、久しぶり。見違えたぞ。どうしていたんだ。全く夜会では会わなかったが。」
「うふふ、それはそうですわ。私この2年隣国で留学しておりましたの。また、社交界デビューもまだすませておりません。」
「ばかな、3年前ここでお会いしたではないか。」
「それは留学の関係で通常より一年早く14歳で庭園会に参加しておくよう父にいわれたからですわ。父に無理やりコネをつかって参加させられたともいいますわね。3年前はよくしてくださったのに、お礼が言えず申し訳ありませんでしたが、今日がいい機会になりましたわ。本当にその節はありがとうございました。」
「そうだったか。いや、礼にはおよばない。それはそうと、まだ名前を言っていなかったな。私はアーノルド レッド、レッド公爵の長男だ。君は?」
「ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。私はソフィア ブルー、ブルー公爵家で第4子ですわ。」
ソフィア、なんとさわやかな響きかと、やっと名前を聞けたアーノルドは心でガッツポーズして神に感謝していた。すぐに婚約申込をしなければと算段をつけていた。だが、できるだけ紳士に、あわよくば好意を持ってもらえるよう、愛称のソフィーと心の中で呼んで、とびきりの人好きする笑顔で完璧にエスコートし、最後は庭園会の帰りは自分の馬車で送り届けた。
また馬車の中では、婚約者がいないこと、社交界デビューは1ヶ月後のレッド派閥のある伯爵家の夜会と必要な情報はきっちり仕入れることに成功していた。
一週間後、城でアーノルドはソフィーの父親のブルー公爵が宮廷の仕事を終えるのをつかまえようと廊下の端にたたずんでいた。しばらくすると陛下との謁見を終えたブルー公爵が出てきた。それをすかさずつかまえ、話しかけた。もちろんこの一週間のうちにレッド公爵家の家族に話し、了承をもらった婚約申込書を渡すためである。
「ブルー公爵、ここにおられましたか、少しお時間よろしいでしょうか。」
と、話しかけ、話す了承をもらうと、人気のあまりない噴水の広場にブルー公爵と移動し、すぐに本題に入った。
「これを。」
と、巻物をわたす。
「これは?」
「実は恥ずかしながらブルー公爵の娘でおられるソフィア嬢を私自身がみそめまして、婚約、いや結婚したいと考えてある次第で、これが婚約申込の巻物となります。」
単刀直入すぎて呆気に取られたブルー公爵だったが、
「陛下には?」
「いえ、まだ。」
「陛下に反対された場合を考えておかれよ。」
と、ブルー公爵は短くいうとその日は足早にその場を後にした。
隣国王太子との婚約の話があり、また、娘または葡萄畑、どちらか、いや、両方離れていくかもしれぬなと考え心穏やかでないところに、今度はレッド公爵の婚約申込かと、ブルー公爵は内心嵐だった。
執務室に戻った、アーノルド、肘置きに手を置き、顔を傾けて考え中である。
(陛下にもし反対されたら、どうするか。)
まだどうするか思いついていないが、人払いし、部屋に残したロバートに、ブルー公爵へソフィアとの婚約申込みの件を話し、陛下にもし断られた対応を考えるよう忠告されたことを話し、意見を求めた。
「普通なら成果をあげて褒美として願いを叶えてもらうとかですかね。アーノルド様は他国に攻め入ると1番の成果を上げるのに無欲だから、一番肥沃な土地は他にあげてしまわれ、残った土地で功績の分だけの面積をもらってしまわれるから、お父上が領地経営が大変だとこの前嘆いておられましたよ。たまに荒れた山が鉱山だとわかって宝石が出てくるからそれはそれで楽しみがあるとも言っておられましたが。ネロ様にきいてみてはいかがですか。」
これが精一杯ロバートに意見できることであった。
「うむ、ネロか。」
ネロと会うのは次の夜会になるかな、いや、もう出る必要はなくなったな、がもう参加と返事はしてあるし等と考えていたが、一先ずそのことは置いて、ソフィの社交界デビューのパーティがあるなと思いなおし、ニヤニヤし始めた。
ロバートとしては何かにアーノルドが思いを馳せている姿は正直気持ち悪いが、探し求めていた令嬢が見つかって良かったと心底思っていた。




