残業をしたくないのは、他にやりたいことがあるから
毎日定時で帰っている諸君からしたら、そんなのは当たり前のことだろうと思う。
何を今更偉そうに言っているんだと、そんな気持ちにもなるだろう。
例えば、家に帰って推しの配信を見たいとか。
例えば、友達とゲームをする約束があったりだとか。
本を読みたい、アニメを見たい。
あるいは、小説を書く時間を一秒でも長く確保したいとか。
人それぞれに、本当にやりたいことがある。
仕事は、それを成立させるためのお金稼ぎの手段でしかない。
仮に残業することによってお金がもらえるのだとしても、
それによって「本当にやりたいこと」ができなくなるのでは、本末転倒も良いところだ。
だけど、それがわからなくなってしまう人がいる。
平気で深夜まで残業をする人。あるいはそれを、他人にまで強制しようとする人たちだ。
彼ら彼女らは、悲しいことに、やりたいことがないのだ。
特に趣味もなく。
つまり家に帰ってもやることがない。ただ横になって無為に時間を過ごすだけ。
それならば、会社に残って残業代を採掘した方が、有益という気持ちも理解はできる。
そんな空虚な人間に、今更何を言っても無駄だ。
一つ例を挙げる。
その人は、普段から子供の自慢をしてくる人だった。
うちの子と、キャッチボールをしただとか、習い事を始めさせただとか。
だけどそんなその人は、毎日超楽しそうに残業をしている。
特に「今日やらないといけない」用事もないのに、会社に残って仕事をしている。
つまりその人にとって、何よりも自慢の子供というのは、自慢をするための道具でしかないということだ。
私には、その人の気持ちが全く理解できなかった。
「早く帰って子供の相手をしたくないのですか?」
なんて聞いたらどうなるのだろう。そんな無駄な諍いを起こそうとは思わないが。
いずれにせよ、理解できない人間というのは、存在するのだ。
実の子供のことでさえ二の次にできてしまうような人間が、存在するのだ。
そんな人間に、早く家に帰りたい人間の気持ちを理解してもらおうなんて、おこがましいのかもしれない。
そんな人間と、相互理解を結ぼうなんて、無駄な努力でしかない。
だから私は、彼らに説明しようと努力はしない。
君たちも、やめておいた方が良い。帰る時間が遅くなるだけだ。
「お先に、失礼します……」
ただその一言だけを残して、私は静かにその場を後にした。