第四章 うさぎの村
ラビを下ろし、案内されるがままりこは歩いた。
「人だ!」
「すごい、初めて見た!」
「あんまり怖くなさそうだねぇ」
村に住むうさぎとすれ違う度に下の方からいろいろな呟きが聞こえてきた。りこは口々に自分のことを言われてどんな表情をしたらいいか恥ずかしくなり、なるべく前を行くラビのほうばかりを見るようにしながら歩いた。ラビは4足歩行でぴょんぴょん跳ねながら進んでいる。うさぎの村は全体的に家と畑の2つで構成されているような素朴な村だった。畑の横を通り過ぎるとにんじんと思われる葉が土から覗いているのが見えた。ここの季節は春なのだろうか。
「ここがぼくの家です。」
気がつくとラビが一軒の家の前で立ち止まっていた。ラビの家の横には他の家々と同じで大きな畑があった。ラビより小さいうさぎが2匹、遠くから釘付けになってりこを見つめているのが分かった。2匹揃って、少し口もぽかんと空いていた。
「すみません、入り口はしゃがんでもらわないとりこさんには低いかもしれません…」
ラビはドアを開けて言った。
「大丈夫だよ!お邪魔しますっ」
りこは頭をぶつけないように少しかがみながらドアをくぐった。中央に部屋の半分を占める楕円形のテーブルがあり、それを囲むように椅子が並んでいた。壁にはドライフラワーがいくつか吊るしてある。食器棚にはたくさんのお皿がしまわれていた。りこは幼稚園で人形遊びをした時のおままごとの部屋を思い出した。カップやお皿、洋服など何もかもが手のひらに乗るほど小さくて可愛らしくて、おままごとの部屋がりこは大好きだった。思い出の部屋と重ねて見惚れていると、ラビは部屋の壁にリュックを掛けながら声をかけてきた。
「りこさんはにんじんはお好きですか?にんじんの皮と葉で作った紅茶があるのでご用意したいんです。」
「にんじんの紅茶なんて初めて!ありがとう」
ラビはホッとした表情を見せた。
「それなら良かったです。椅子にかけてお待ち下さい…と言いたいところなのですが、どの椅子もりこさんには小さそうですね」
机の周りにある椅子を見渡した。兄弟たちの椅子であろう小さめのものから、ラビの両親のものであろう少し大きめの椅子もあったが、りこが座るとかなりお尻がはみでそうなサイズであった。
「床に座っちゃうから気にしないで!家で縫い物するときとか本読むときはいつもそうたから」
「お客さんに申し訳ないです…それではせめてこれを敷いてください」
申し訳なさそうなラビから薄手のクッションのようなものを受け取った。敷いて座ってみるとカシャカシャっと枯葉のような音がした。
しばらくするとラビはにんじんの紅茶をカップに入れて持ってきてくれた。湯気と共ににんじんの香りがふんわり鼻をつついた。ラビは自分のカップを持って隣に座り、りこを見た。
「りこさんには助けて頂き、本当にありがとうございました。お礼のひとつとして、僕の分かる範囲でりこさんの疑問にお答えすると同時に、この世界のことをお話しできればと思うのですが、いかがでしょうか?」
りこはカップのにんじんの紅茶を一口飲んだ。にんじんの香りと風味が芯となっているが、花や植物の香りもするので、まるで野原畑にたたずんでいるような気持ちになった。
「そんなことないよ、この温かい紅茶で十分だよ。でもこんなに長い夢を見てるのは初めてだし、触れたものの感触とか音とか味とか…いろんなものがはっきりしててすごいなぁっていう感じはあるけどね」
ラビは驚いた顔をした。そして困ったような顔になり恐る恐る口を開いた。
「りこさん。これは夢ではありません。ここはわたしたちのような動物たちが人間の世界で過ごした後の……死後の世界、と言われている場所なのです」
テイルズオブアライズを進めていたら、続編の執筆が滞ってしまいました(´ω`;)
少しずつ書いていきます!