はじまり
冷え切った空気を包み込むように、朝日が白い薄手のカーテンの間から差し込んでいる。柔らかな光の中にひと1人が座れるほどの古い机、長い期間を共にしてすっかり肌触りが馴染んでいる樫の木の机があり、その前に年老いた女性が正座をして編棒をしきりに動かしている。彼女の横には赤、青、黄色、緑、ピンクと様々な色の毛糸が入ったカゴが置いてあった。
眼鏡越しに毛糸を編む眼差しは優しく、時折辛そうに眉間にしわを寄せている。紫色の毛糸をカチカチと編んでいると、たたたたと扉の向こうから近づいてくる足音が聞こえてきた。
「おばあちゃん!出来た!?」
扉が開くと同時に弾んだ声が飛び込んできた。振り返り見ると赤いランドセルを背負った女の子が期待の眼差しでこちらを見ている。左右に高めに結んだ髪の毛が揺れる。白色のセーターとお気に入りの水色のスカートを履き、膝下までの長めの靴下には青い横線が3本とフリルがあしらわれている。
「ごめんねぇ、もう少しで出来上がるんだけれど。りこが学校に行くまで間に合わなかったわねぇ…」
おばあちゃんと呼ばれた女性はすまなそうに答えた。
「あっごめんね!良いの良いの!おばあちゃんが毎日毎日編んでくれてるから余計に楽しみになっちゃって!」
りこと呼ばれた少女は両手を横にぶんぶん、顔を左右にぶんぶん振りながら答えた。こちらに気を遣わせまいとオーバーすぎるくらいに否定するりこの様子に、くすりと笑ってしまった。
「朝も冷えてきてるものねぇ。帰ってくるまでには完成するはずだから、明日の朝は巻いていけるわよ」
「やったー!帰ってくるの楽しみ!じゃあ学校行ってくるね」
「ええ、気をつけていってらっしゃいな」
りこは答えるように手を振りながらドアを閉めた。
女性は立ち上がり、窓に近寄り白いカーテンを開けた。外のひんやりとした空気を肌に感じた。階段をたたたっと駆け降り玄関のドアがガチャンと閉まる音がすると、孫娘がこちらを見上げて両手で手を振る姿が見えた。
「行ってらっしゃい」と手を振り返すと、りこは学校への道をかけていった。ランドセルに付いている水色の馬のキーホルダーがりこの元気に呼応するようにぴょんぴょん跳ねていた。
姿が見えなくなるまで見送ると、女性はそのまま目をつぶった。
「何事もなく、今日もあの子が笑顔でいられますように…」小さく呟かれたその願いは、眩しく差し込んでくる陽の光の中に溶けていった。
初めての投稿小説です。
拙い文章で読みにくいかもしれませんが、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。
書いたものから更新していく予定です。