週末
週末ってすぐ終わっちゃうから嫌ですね。
「今日はカラオケで歌いまくるぞ〜」
土曜日の午後、神崎は一人で思う存分に歌うために駅近くのカラオケ店へと向かっていた。
駅の中は多くの人で行き交っている。
これだけ人がいれば知り合いと会いそうなものだが、一人でカラオケに行くのがバレると少し恥ずかしいので出来れば会いたくはない。
「特に白森さんには……」
「私がどうかしたの?」
「え……って、うわぁああ!!」
聞き覚えのある声が聞こえた神崎が後ろを向くとそこにいたのはよりにもよって今、一番会いたくない白森だった。
突然の白森の登場に神崎は思わず後ろに下がって距離を取る。
「こんにちは神崎くん。こんな所で何をしてるの?」
「こ、こんにちは白森さん。お、俺はちょっと買い物でもしようかと……」
神崎の心の声 : (一人カラオケなんて絶対に言えない。だって何か恥ずかしいから!!)
「そうなんだ。何を買いに来たの?」
「えっと……ま、漫画!! 好きな漫画の新刊を買いに来たんだよ!!」
「へぇ、漫画ねぇ……」
「白森さんは何しに来たの?」
「私? 私はカラオケに行こうと思って」
「カラオケ? じゃあ誰かと待ち合わせ?」
今、白森の近くには神崎しかいない。白森がカラオケに行くとしたら誰かと一緒に行くのだろうと思った神崎だったが返事は予想外のものだった。
「違うわ、私一人よ」
「え、一人? ってことは一人カラオケ? 神崎さんが?」
「言い方が失礼ね。別に一人カラオケくらい普通じゃない。私、結構よく来るのよ一人カラオケ」
「あ、そうなんだ」
神崎の心の声 : (失敗した!! 白森も一人カラオケなら変に恥ずかしがらないで正直に言えば良かった)
「でも今日は一人じゃないみたいね」
「……それってどういう意味?」
「あら? 分からないの神崎くん。あなたも私と一緒にカラオケに行くのよ。気が済むまで私に付き合ってもらうから、覚悟してね」
「へ? まじで?」
「まじで」
突然の誘いに神崎の思考は停止する。
こんなに困ったのは授業中に居眠りしてたら机に足を思い切りぶつけながら起きた時と同等かそれ以上だ。
「私と一緒にカラオケは嫌なの?」
「行く!! 行くよ!! 行く行く!!」
「そう。それじゃあ早く行こうかしら、神崎くん」
白森は神崎の腕を掴むとそのままスキップしながらカラオケへと向かうのだった。
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《カラオケ前日の放課後》
「神崎、明日どっか遊びに行かね」
「悪い。俺、明日は一人カラオケで思う存分に歌ってくる予定だから」
「お前結構一人カラオケ行くもんな。そういうことだったらまた今度誘うわ」
「悪いな。今度はどっか一緒に遊びに行こうぜ」
「了解。それじゃあな」
「ああ、それじゃあ」
金曜日の放課後の教室の二人の男子の何気ない週末の会話。しかし、教室を出た廊下からそれを盗み聞きする女子生徒がいた。
白森の心の声 : (神崎くんが明日カラオケに行く!? これは私もカラオケに行くしかない!!)
「あ、白森ちゃんいた。白森ちゃん明日、遊びに行くって話どうする? 私、ゲーセンとかでもいいと思うんだけど」
「ごめん矢野ちゃん。私、明日用事できたからまた今度でもいい?」
「用事? 神崎くん?」
「うん、神崎くん……って!! なんで分かったの!?」
「さぁ、何ででしょうね。羨ましいなぁ、神崎くん。親友と遊びに行くのより優先されるなんて」
「別にそういうのじゃないってただ私が待ち伏せするだけだから」
「待ち伏せって……まぁ、いいや。分かったから楽しんできなさい」
「ありがとう矢野ちゃん。埋め合わせは今度するね」
「だったら、パフェがいいな」
「分かったわ。それじゃあ私、明日の服決めなきゃいけないから今日はもう帰るわね。それじゃあ」
白森は矢野にそれだけ言うと陸上部も顔負けの速度で学校を後にした。
「乙女だなぁ、白森ちゃん」
カラオケ良いですよね。
最近、一人カラオケに結構ハマってます。