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俺たちの友情は不滅だぜ

"俺たちの友情は不滅だぜ"

 いつかどこかで誰かがそういったのか。

 あるいは何かの本で読んだのか。

 男同士の熱い友情と言えば気恥ずかしいものがあるが、大方間違ってはいないだろう。

 例えどんな逆境で在ろうとも。自分は友人を信じて疑わず、また友人からも自分がそうであるという絶対の自信。それが自分にはあった。

 そう、あった。はずなのだ。


 人間というのは愚かなもので、些細なことでその関係には亀裂が走る。

 男の友情だって例外ではなく、そう例えば。


「―――だから髪は絶対に結んだ方が良いって、何度言ったらわかんだよ!意外と邪魔になるんだぞ!?」

「ハッ、何を言っているのか理解しかねますね。結んでしまってはその艶やかな黒髪を十分に魅せることはできないと何故わからないのですか!」

 「ボクはどっちも似合うと思うんだけど...」


 などと自分の事でピーチクパーチク喚く友人達を無視し、胸にはあるはずも無いものが小さく膨らみ、股間には逆にあるはずのものがなくなった元男子高校生は、目の前にある様々な問題から目を背け、自分たちの友情を疑っていた。


「俺たちの友情は...仏滅だぜ」


 まず、長い黒髪の少女が声をかける。

「お前ら、集合」

 続いて赤みのある短髪で柄の悪そうな少年が問う。

「なぁ、ハルやっぱ結んどいた方が良いぜ。ちゃんとしとかねぇと顔だって荒れるぞ」

「今最優先でやるべきことは、まず生きる為に何をすべきかって考える事だと思うんだよナツキ」

 それを対してなのか反してなのか、眼鏡をかけた釣り目の少年が反応する。

「だからと言って四六時中結んだままではそれこそ痛んでしまいます。日中はやはりそのままでいるべきです!ハル!」

「このままじゃ俺達みんなこの荒野でくたばる。だから日が沈まないうちに行動を起こしたいんだ。わかるかアキト」

 そして少女にに理解を示そうとする、金髪で少し背の高い優し気な少年。

「ボクはわかってるよハル!どんな髪型でも、ハルは素敵だよ」

「そうか、わかってくれるかトウジ。じゃあ、それを踏まえて聞いてくれ」


 そう言いながら黒髪の少女は、手ごろな石を見つけそれを割り、簡単な石器としたそれを長い髪に近づけて。


「いつまでオレの髪型で言い争ってんだ現実見ろやボケがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「「ああああああああああああああああああああああああああああああ」」

「あー……」


 勢いのままに、断髪した。

 



 彼らは今どんな状況かと言えば。

 あたり一帯は岩、砂、青空と言ったものしか見えない荒野に座り込んでいた。

 4人とも手荷物は無し。制服で居ることからいきなり放り出されたことがわかる。

 掛け値なしに異常事態なのだが、特にぶっちぎりで異常なのが。


「...何で俺、女になってんだ」


 短い黒髪の少女、元は少年であったハルの性別が変わってしまっていることである。

 一先ずはパニックも収まり、状況に目を向け始めた一行は、移動を開始した。幸いにも恐らくは道であろうと思われる踏み固められた地面を見つけた為だ。


「全く...一体全体何故この様な事に...」

「わっかんねぇよ、誰も今まで何してたか覚えてないんだから」

「あぁ...晩飯までに帰らないと妹に怒られるぜ」

「妹より自分達の心配を良いと思うよー?」


 あても無く、ただただ歩き続ける一行。

 何かこんな始まり方をするRPGが在った様な気がするなと、そう思いながらも足を懸命に前に進める。


「そういえば、ここ。道っぽいのに何も通おらないねー」

「人一人いないな。外国?ってこうなのかな」

「平日の日中ですよ?こんな建物一つ無い土地に、人が通りますかね?偶然では?」

「それにしたって無さ過ぎだぜ。もうだいぶ歩いてんのに人も車も建物もねぇ。あるのは砂と道と大きくなる岩だぞ」

「「「大きくなる岩?」」」


 そういったナツキに反応する3人。大きくなる岩とは?

 ここは全く知らない土地なのだ。あまり見かけないどころか、想像もしない何かがいてもおかしくはない。

 では、実際何が居たのかと言うと。ほら、と指さすナツキの方を一行は道の先から真横に顔を向ける。

 一行は下ばかり向いて歩いていたのだろう、そこで初めて自分たち以外の生き物を視た。


 数百メートルか先に大量に土煙を纏った大きな岩があった。ただの岩に視えたそれは確かに動き。その姿は徐々に大きくなっている。


「ほんとだー。大きくなってるね、あの大岩」

「岩のサイズが変わる訳ないでしょう?アレは近づいてきているんですよ」

「あ、なーるほどー。で、ボクたちはこの後」

「大岩に轢かれて、ペシャンコっつー訳だぜ」

「悠長だな馬鹿ども!!さっさと走れ!!逃げろ!!!」


 身の危険を理解した一行は道を走り出す。あの岩が真っすぐに進むのであれば進路上にいなければ済む話だ。

 その筈だったのだが、ナツキの一言で事態は変わってしまう。


「おい、アレ!なんか追われてんぞ?」


 その巨体に眼を取られていたが、確かに何かが大岩を連れる様にこちらに走って、逃げていた。

 その正体を視てわかる頃には、ナツキはやべぇとハルを視た。


 言葉を発する間も無く、ハルは大岩に向かって走り出していた。


「おい!待てよハル!!」

「えっ!?ちょっと、何!?どうしたのハル!!」

「気でも狂ったんですかあの大バカ者はッ!!」


 続いて、ナツキが追い、アキトとトウジもそれに続く。

 追ってくる三人に甲高い声でハルは叫ぶ。


「ちっちゃい子が!このままじゃ轢かれる!!」


「ハルも一緒に轢かれちゃうよ!?」

「馬鹿ですかハルッ!!他人の心配をしてる場合、って早ぁッ!?」

「ハルは中学で陸上やってたからな...しかも全国レベルの実力だぜ」

「なるほど...悔しいですが僕達が全力で走っても追いつけないのも当然ですね!」

「流石だよ、ハル!」

「お褒めに預かり光栄だバァァァァァァカ!!!」


 小さい足で懸命に走る外套で身を包んだ子供は、激しく息を切らし、限界が近い。

 もう今度こそ駄目なんだと。諦めかけ、足をもつれさせたその時。ようやくハルがたどり着いた。

 小さな体を抱きかかえ、大岩の進路から離れようとするが。


(重っ!!?クソ、この体。力が無い!)


 思うように体は動かず、駆け足程度が限界だった。

 しかも、ハルの走りに今の体は耐えられず、足は震えだしてしまった。


(やば、このままじゃ...)

「オイ!だいじょぶかハル?」


 駆け足すらも耐えられなくなる寸前に、三人はようやく追いついた。


「ナツキ!アキト、トウジ!この子頼む!」

「わかりました!僕が抱えます!」

「ハル、走れるか?」

「ヨユーだっての。行ってくれ」

「お前...足...」

「...行ってくれ」


 ハルはもう走るどころか、ナツキに寄りかかっていないと立っているのもままならなかった。

 三人は気付く。ハルは自分を置いて行けと言っているのだ。

 自分はもう助けるな。その子と自分達だけを守れとそう言ったのだ。

 そう、理解した上で。


「わかった。ボク達の伝説を、再現しよう!」


 意味も意図も詳細も訳わからん事を、トウジは言った。

 あまりに常軌を逸すると、人間もパソコンみたいにフリーズするんだなと、ハルは思う。


「なッ!?正気ですか、今この場でアレをやろうと言うのですかッ!?」

「上等!一度上手くやったんだ。二回も三回も出来ねぇはずがねぇ!!」

「うん、ボクらの栄光を、もう一度ここに!!!」


「考えがあるならさっさとやれやぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」


 迫りくる危機を前に、再び外套の子をハルに預け、ナツキとアキトは肩を組んだ。

 二人はそのまま組んだ肩に子を抱えたハルを座らせ、正面で背中を向けたトウジと逆手で手を組む。

 組んだ手にハルの足を乗せ、今ここに伝説の再現とやらが始まった。


「...オイ、マジか」

「落とすなよ、二人とも」

「ハッ、貴方こそ途中でこけないで下さいね」

「それじゃ行くよ、二人とも!!」


 それはかつて、彼らが全力で動き回り、次々と敵を力任せに蹴散らしていった結果。

 危険行為としてそれなりの処罰を食らった、騎馬戦だった。


「「「うおおおおおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」


「マジかよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 振り落とされそうになりながらも、必死に抱えられた外套の少女は、クスリと笑った。

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