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三国争乱姫 ~歴女が姫の代わりに三国志攻略?!~  作者: 水季瑠璃
一章 荊州の城に降りたる
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5 自分を取り巻く環境

まずこの国は、“漢”という国だ。


漢は血統による王政であり、現在は“献帝(ケンテイ)”という年若い皇帝がトップに存在している。



国には“州”と呼ばれる地域がある。


(現代日本でいうところの都道府県みたいなものみたい)



州はそれぞれ“州牧(シュウボク)”という役職のものが管理している。


(これはいわゆる、県知事とかね)



ここは“荊州(ケイシュウ)”と呼ばれる地域で、“劉表(リュウヒョウ)”という人が収めている。民からの信頼も厚い、とってもいい人らしい。




「それで、俺は劉表様から“新野(シンヤ)”っていう場所を任されてて、普段はそこにいるんだ」


「うーん…つまり、市長…?」


「え?」


「あ、いえ。

えっと…じゃあ、あなたたちは、劉表様の部下ってこと?」


「ん~。お世話になってるんだけど、部下ってのはちょっと違うかな~。同じ劉のよしみで頼ってみたら、仕事紹介してくれた、みたいな」


いわゆる、食客みたいなものに感覚は似てるのかもしれない。


(しかし、軽いな…)


「身も蓋もない言い方だな」


軍師が苦笑したが、本当にその通りだと思う。

そんな軽い調子で統治などできるのだろうか?



「えーっと、劉のよしみって…。親戚か何か?」


「直接どうっていう訳じゃないけど、同じ劉の名前を持つからね~」


しかし…名前を聞いた時から“劉備(リュウビ)”という名前、どこかで聞いたことがあるような気がする。三国志において重要な人物なのかもしれない。


(もっと麗子講座をちゃんと聞いてればよかった…)




「で、この雲長(ウンチョウ)関羽(カンウ)が、俺の右腕で。」


「カンウ…」


紹介された雲長は軽く目を伏せて受けただけだった。


(渋い…武士っぽい…いぶし銀…)


そして、なぜかこの名前にも聞き覚えがあった。

麗子がここにいてくれれば…と思う。



「ここにはいないけど、張飛(チョウヒ)益徳(エキトク)っていう俺の左腕が今は新野の城を守ってくれてて。

ここにいる、子龍(シリュウ)趙雲(チョウウン)と龍ちゃんは、比較的最近入ってくれた仲間だよ」


紹介されても子龍はフンッと鼻を慣らすだけだった。


崇拝する劉備に対して桜が砕けた口調や呼び方をするのがとにかく気にくわないらしい。



おそらく先ほどから、雲長とか関羽とか、子龍と趙雲とか、丁寧にフルネームを紹介してくれているんだろうと思うが、聞き慣れない響きすぎて、なかなか頭に入ってこない。


(メモ帳がほしい…)



“龍ちゃん”というのが誰か分からず、桜は当たりをつけて紹介されていなかった軍師を見る。


「あぁ俺、一般的に“伏龍(フクリュウ)”ってアダナで呼ばれてて、諸葛亮(ショカツリョウ)ってって名前よりそっちのが知られてんだよな。」


「へえ、龍。カッコいい」


「カッコいいよね~、だから俺も“亮”と迷ったんだけど、“龍”にしたんだ~」


ヘラヘラと笑う劉備に、軍師伏龍は大げさにため息をついた。




「それで、ここって荊州のお城なんですよね?何でほとんど勢揃いで皆さんここにいるんですか?」


「………」


新野という場所は大丈夫なのか?という素朴な疑問だったのだが、その疑問に一同は微妙な空気になり、沈黙する。


「?」



それを破ったのは伏龍だった。


「芙蓉姫の葬儀の参列のためだよ」


「えっ…」


「芙蓉姫はここんとこずっと寝たきりで、もうそろそろやべえって話だった。こんなんでも一応大将は婚約者だし、参列しないわけにもいかねぇだろ」


かなりハッキリと伏龍は告げ、事実とはいえ…事実だからこそ、さすがの子龍も少し気まずそうな顔になり、桜の後ろに控えていた鵬燕も眉を寄せた。



最初は確かにヒヤッとしたが、実際今現在は自分が憑依したことによってこの身体は急激に回復したのだ。


別にショックを受けるほどではなかった。


そもそも、死の淵にいたからこそ桜が喚ばれたのだろうし、

死ぬと思っていた人がゾンビよろしく起き上がったんだから、桜が目覚めた時に全員が幽霊を見るような目で見てきたし、鵬燕ですら声を荒げたのだろう。



「なるほど」


桜が普通に頷いたので、周りは呆気にとられたような、安心したような様子だった。




「そもそも、恋仲じゃないのに、どうして劉備さんと芙蓉姫は婚約者に?」


「あ、えっとね~…」


「婚約者ってことにしとくと、ハクがつく。だから、婚約してただけだ。」


劉備が言いよどんだので、伏龍が何ともなしにそう答えた。


「俺たちが新野を任されて、初めて会った時には、もう既に芙蓉ちゃんはかなり身体が弱っていたし。それどころじゃなかったんだけどね、実際は。でも、対外的に、ね。」



「…芙蓉姫は、有力武将の娘か何かなの?」


その桜の返しが意外だったのか、少し伏龍は目を丸めた。


(え?だっていわゆる政略結婚てやつでしょ?)


「ん。…いや。家名というより…、

芙蓉との婚約に利がある理由は二つだ。

まず、芙蓉はこの国でも有名な美女だ。三本の指に入るだろう。」


「えっ、そうなの…?」


信じがたい気もするが、何となく、嬉しい。


時代によって美人の定義が違うのは知っていたが、

そうか、この時代のこの国ではこういう顔がウケるのか。



「それと、もう一つ。

芙蓉姫は、幼い頃からずっと曹操(ソウソウ)の許嫁だったんだ。」


「えぇ…?!」


またも、新たなお相手が。


曹操…なぜか聞いたことがあるような気もしたが、初めて聞く名前だ。


(次から次へと縁談話があるってすごいな…)


ただただ感心する。



しかし伏龍は気にせず続けたので、桜はまたそちらに意識を戻した。


「しかし、詳しい事情は知らんが破談になり、曹操は芙蓉姫を結局手に入れられなかった。芙蓉姫が断っただの色々話は飛び交ってるがな。

とにかく、“芙蓉姫”は“曹操が手に入れられなかった姫”として認識されてるんだ。」


思っていた以上にすごい立ち位置にいる姫だった。



「つまり、芙蓉姫を手に入れる事で劉備さんの名前を上げたかったってこと?」


「…。へぇ」


「ああ、そういうことだ。」


「でも、それって曹操さんに喧嘩売ってない?大丈夫なの?」


「喧嘩売ったんだよ。

でも、元々対立してるからな。

戦の大義名分になるほどでもないし。」


伏龍はカラリとした調子で言う。


隣で劉備が苦笑しているから、婚約することを勧めたのは伏龍で、劉備と芙蓉はただ受け入れただけなのかもしれない。



「対立してるってことは、別の国の人?」


「いいや、同じ漢帝国の人間だぜ。

それも、かなり高い“丞相”という役職についている。漢帝国を支配してるっつっても過言じゃねぇ」


「それって…同じ国の偉い人に喧嘩売ったってこと…?」


明らかにまずくないか?

桜の顔が引きつる。


「一枚岩じゃねぇんだよ、この国も。

でも曹操は丞相である以上、私怨で戦はふっかけられねぇから」


あっけらかんと伏龍は言うが、ヒヤヒヤするったらない。




(ここ、どうやら平和な国ってわけでもなさそうね…。

でもそれってつまり…この人達は“反乱軍側”ってこと…?)


一抹の不安にかられる。


このまま“劉備の婚約者”をやっていて良いのだろうか。何かヤバいことに巻き込まれかねないか?



「…曹操さん、攻めてこないよね…?」


与党と野党の対立…程度の話ならいいが、ここは古代だ。何が理由で戦争が起きるか分かったもんじゃない。憑依してるだけとはいえ、戦争に巻き込まれたくはない。


「劉表様次第だろうな。

劉表様は中立なんだ。だからご子息の劉琮(リュウソウ)様と芙蓉姫の縁談が持ち上がった時も頷かれなかった」


(芙蓉姫、他の人とも縁談話あったんかい…)


桜は思わず頭を抱えた。



(ん…?

ていうか芙蓉姫ってそもそも何者…?

劉表様の娘なのかなと思ってたけど、息子と縁談ってことは多分違うんだよね。

でもそれなら、なんで婚約者の城“新野”でもなく“荊州”に…?)



「芙蓉姫って、劉表様とどういう関係なんですか?

なんで新野じゃなくて、荊州に?」


桜としては当然の疑問だったが、間者か嘘かだと思っている子龍には白々しく映ったようで、「ご自身のことでしょうに」と小さく皮肉った。



劉備はそんな子龍に苦笑しつつ、鵬燕を見る。


「俺らはさ~婚約したとは言っても会ったのも2、3回だし。鵬燕のほうがよく知ってるとは思うんだけど…」


「…劉備様がご存知のことが全てです」


言外に説明を求められた鵬燕は、ただそう返しただけだった。


劉備はヤレヤレ、といった様子で肩をすくめた。



「じゃあ、事実がどうかは知らねえが…

芙蓉姫がどういう経緯でここにいるのか、一般的に知られてる話をしてやるよ」


劉備が話す様子がないので、また伏龍が仕方なさそうにそう言ってくれる。


言動や見た目はチャラいが、何だかんだ優しい。


情報収集の際には、伏龍が一番頼りになりそうだ。

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