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三国争乱姫 ~歴女が姫の代わりに三国志攻略?!~  作者: 水季瑠璃
二章 襄陽の陰り
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挿話 運命、あるいは予感じみた何か



ある時、ある場所で。



「──芙蓉姫が生き返っただと?」



左目に眼帯をした男が、伝令兵に噛み付くように吠えた。


「は…はっ、影からそのように」


伝令兵が慌てたように返答をすると、大柄の男がケラケラと笑った。


「馬鹿じゃねえのか、

死んだやつは生き返ったりしねえんだ。

それくらい俺だって知ってるぞ。なあ兄貴」


「ああ。

つーか、そもそもまだ死んでなかっただけだろ」


「は、そうだと思われます。

ただその…どうやら元気に町などへ出歩いているようで…」


「はあ?」

かなり体格のいい眼帯男は眉を寄せて伝令兵を見る。



「──替わったか?」

眼帯男が低い声で唸る。


先ほどまでのものと比べはっきりと低く重くなった声に、伝令兵は汗がじわりと浮かぶのを感じた。


この男を怒らせてはいけない。

それは、自軍の者全員の共通認識だ。





「落ち着け、(トン)

可能性は低いだろう。利がない」



よく通る、しかしはっきりとした存在感のある声がピリピリした空気をキリリとした物に変える。


緊張が解けるわけではないが、息の音すら憚られた先程とは違う類のものだ。

伝令兵は詰めていた息を吐き出した。



「だが…!」


「病状がよくなったのは喜ぶべきことだ」


「ケッ、知らねえよ。あんな奴」



しかし…

と特別細工の細かい椅子に座る長髪の男は考えた。



元気になったからといって、

出歩く?

それも、町へ?


─有り得ないことだ。


自分の知る芙蓉ならば。



“替わった”と惇が懸念するのも当然のことだ。



そこまで考え、長髪の男は眼帯男を見やる。


「惇、よく学んでいるようだな」


「…へっ!?

な、なんだ、いきなり」



少なくとも出会った頃の惇ならば“替わる”などという可能性すら考えなかっただろう。


首輪をつけてひたすらに本を読ませてきたかいもあったものだ、と男はクスリと笑う。


“惇”と呼ばれる眼帯男は突然褒められて困惑しながらも少し照れくさそうな様子だが、

彼を含めその場の面々は、なぜ男が少し楽しげなのか分からず不思議な沈黙が流れる。



「兎も角、

──瑣末な事だ。

もうアレは、私の婚約者ではない」


長髪の男──曹操は、静かに冷たくそう言う。



その回答が気に入ったのか、惇はニヤリと笑った。


「ああ。そうだよな。

なあ、殺していいか?」


そうして放たれた言葉は、その内容とかけ離れたカラリとしたものだった。

悪びれることなく、むしろ悪気そのものがなく。



「惇。まず調べてからだ」


そしてため息をついたものの、曹操もはっきりと止めることはしなかった。


「ああ勿論だ。そうするぜ、孟徳。」


楽しそうに惇は笑い、あとで影を部屋に呼ぶようにと近くの兵に指示をしていた。





「それで、華陀(カダ)はどうしている」


その後いくつかの報告を受けた後、曹操は軽くこめかみを抑えながら聞いた。



(あるじ)、頭が痛むのか?先生の薬がなくなったのか?」


その様子に、惇とは別の体格のいい男が心配そうに反応をする。



「いいや、大したことではない。

それで」


「はい、かなり前に出られたきりです。

医官が先生の調合を聞いているため、丞相の薬は何時でも作れるとのことですが…」


「そうではなく、(イク)が知恵を借りたいと言っていてな」


「ああ、文若殿か。陛下の事でか?」


体格のいい男の言葉に曹操は頷くだけで返した。



「しばらく戻らねえんじゃねえか?

センセイは金儲け…じゃなかった、薬草採集に出たらいつもそうだろ」


惇の言葉に曹操はため息をつく。



「呼び戻しますか?」


「…いや、いい。

アレのことだ、どうせ荊州だろう。

近いうちに会うことになる」


感情なくそう漏らされた言葉に、体格のいい男が表情を明るくする。


「そうだな!主、その時はこの夏侯淵に任せてほしい!」

「いや、俺だろ、曹操」


「ああ、考えておく」



「──あなたも出られるおつもりですか?主様(ぬしさま)


それまで黙っていた中性的な美青年がよく通る声で曹操の後ろから声をかける。


「…」


「“逃げの劉備”がいるでしょう、あの辺りには。

因縁の相手なのでは?」


「ああ、あいつあの時逃がしちまったからな」


「良馬をもらっといて隊抜けした恥知らずもそこにいんだろ!」



惇が苦々しく言い、淵が「あの馬狙ってたのに」と憤慨する横で、

因縁か、と曹操は考える。


そして、そうと分からない程度に小さく口角をあげる。



「──私も行くのが、いいかもしれないな」


何か予感めいたものを感じて、曹操はそう小さく呟いた。




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