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三国争乱姫 ~歴女が姫の代わりに三国志攻略?!~  作者: 水季瑠璃
二章 襄陽の陰り
24/26

11 厩舎見学、そして起点


「この後はどこに行くご予定なんですか?」


城に帰ってきて、解散という流れになった時に関羽に聞いてみる。


店主に「何に使うんですか?」と首を傾げられながらも、下着に仕えそうな手触りのよい長い布も無事に手に入れられた。



「厩舎だな。昨夜新野から駆けさせたので、様子を見ておきたい」


関羽は少し考えるようにしてからそう言う。



(ま、まさか…!)


「馬ですか?!」


若干興奮してしまった。


アクティブ系歴女でもある桜は中学生の時に一時期、流鏑馬選手になる!と息巻いたことがある。


流鏑馬とは馬に乗って矢を射る競技。


某オープンワールド侍アクションゲームで

(馬に乗りながら矢で攻撃するってなんて格好いいのかしら。源平時代の“武士”はみんな刀じゃなくて弓を重視してたわけだし。流鏑馬って、なんて古きを尊ぶいい競技なんだ…!)

とよく分からない熱があがって憧れたものだ。


スクールが遠かったり、費用面ネックもあり、流鏑馬体験と乗馬初歩ライセンス所得で終わってしまったが。

…というのは言い訳で、実はすぐに日本舞踊やら茶華道やらもやってみたい!と浮気をしたからなのだが。


ただそれ以降も馬は好きだった。

牧場なんかで体験乗馬をしていたらもれなく乗るくらいには。




(そういえば…)


「関羽さんも、馬に乗って矢で居たりするんですか?」


「矢…?」


もしそうならこの機会にぜひ、流鏑馬のスキルを伝授して頂きたい!と鼻息荒く聞いたのだが、関羽は不思議そうに首を傾げた。


「矢を射る者も勿論いるが…馬には普通は(ゲキ)だろう」


(戟…!)


そういえば、関羽や趙雲が時折“戟”と呼ばれる槍のような長い武器を背に携えている時がある。


どうやらこの時代の武将は馬に乗って戟で戦うのが主らしい、と考えて少し落ち込む。


(軽々と趙雲が持ってた武器、あれ結構重そうだったよね…槍に触ったことすらない素人にはレベル高いか…)




「そもそも病み上がりだろう」


せめて乗馬だけでもしたいな、とそれっぽい事をお願いしたら一刀両断されてしまった。


この身体に体力がないのは仰る通りだし、変に体調を崩して迷惑をかけるわけにもいかないので、おとなしく頷いた。


しかし馬に会うのは問題ないと言ってくれたので、一緒に厩舎に向かうことになった。



(芙蓉姫の身体で起きた時、そんなに体力とか身体能力に違和感ないなーと思ったけど、ぶっちゃけ現代人はひ弱なんだったわ…。現代人が山を越え川を越え徒歩で東京から大阪までぶっ続け移動なんてわりと無理め…飛脚なんて尊敬の域。

古代は風邪になっただけでもサクッと死ねる医療レベルだし、気を付けよ…)


──この時固めた決意を元に翌朝から桜がラジオ体操を始めるようになって、毎朝鵬燕がひそかに奇怪なものを見る目を向けるようになるのは別の話。




「おお…!馬さんたち!」


「好きなのか。珍しいな」


さらりと柔らかな手つきで馬の鼻面を撫でながら関羽が言う。


今まで聞いていたものと違って柔らかな声に、劉備が言っていた“関羽は動物好き”という言葉を思い出した。



「実はちょっとだけ乗った経験もあって」


「そうなのか。珍しいな」


またも珍しい、と言われる。

今回は言葉だけでなく、驚いたように目も丸くしていた。



「まあ…私の居たところでは、性別や身分を問わず乗馬できたので…」


関羽が目を丸めた理由が“姫は普通馬に乗らない”という所にあることが分かるので、桜はそう苦笑する。


“お姫様”が足をカパッと開いて“馬乗り”になるのははしたないと思われることもあるだろうし、そもそも馬と関わる機会がそうそうないのかもしれない。


(こんなに可愛くて格好いい生き物を愛でないなんて損してるわね)


桜はそんな風に思いながらため息をついた後、馬へと視線を戻した。



「木曽馬っぽい」


競馬場や牧場で見るような足が長くスタイリッシュで引き締まったボディの馬とは違い、脚が短く太く(勿論サラブレッドに比べてという意味で)、胴もしっかりとした肉付きの馬だった。


背が高くないのでサラブレッドに比べれば迫力に劣るが、地に足着いた…というか、力が強そう…という親しみやすいフォルム。


それは日本でいうところの“木曽馬”という種類に似ていた。


(木曾義仲様もこういう馬に乗ってたのかしら!)


そのまま名前から連想した武将を思い浮かべながら心の中だけで桜は興奮する。


馬面を撫でてやると優し気な目で受け入れてくれた。



牧場にいたり乗馬体験などで触れ合える馬は穏やかで人馴れしているので、比較的たやすく撫でさせてくれるがここにいる馬たちは軍馬だし、古代においてどこまで“人馴れ”させられているかも怪しい。

(暴れ馬を従わせる技量が評価されたりする時代もあった)


「賢い子ですね」


「そうだな、この辺りの奴は比較的。

しかし、お前も馬の扱いに慣れているようだ。馬も落ち着いている」


褒められて嬉しい気持ちになる。


馬は賢くちゃんと人を見ている。

だからそんな馬に受け入れられたということは、現代人として得た当然の知識とかではなく、自分自身を認めてもらえた気になる。


そしてそれを関羽が認めてくれたことも嬉しい。

関羽は社交辞令を言うタイプではなさそうだから、本当にそう思ってくれているのだろうし。



へへ、と桜が照れくさそうに笑いながら馬を撫でるのを、関羽は少し目を細めて優しく見つめた。


もちろん関羽がそんな目を向けていたことは桜は知らないし、ささいな変化だったため関羽をよく知る者にしか分からないものではあったのだが。


それでもそれは確かに、関羽が“桜”を認めたきっかけとなる一幕だった。




関羽は様子を見たい奴は奥に居る、と厩舎の奥の方へ進みながら、厩舎の案内をしてくれた。


おそらく厩舎に入る事を許してもらえたのだろう。


厩舎エリアの一番手前のエリアにいる馬は比較的穏やかで、“いつでも出動させやすい”子たち。


その次にいるのが、決まった騎手(武将)がいる子たち。手前から奥へ行くほど序列が高くなっていくらしく、関羽は本当に奥の方だった。


劉備や関羽たちの序列の高さが分かって今更少し慄いたのは内緒だ。


まだ若い子や病気の子たちについては、本城の広い厩舎の方にいるのだそうで、この厩舎はあくまでも離れや客が来た時用の厩舎という扱いらしかった。


とはいえ離れは裏門からも近いため、緊急時に出動させられるように城の馬たちもいるのだそう。




「この一回り大きい子が?」


「ああ。俺の馬だ」


「りっっぱですね…」


他の馬たちも格好良かったが、関羽の馬だと紹介された子は一際別格と言わざるを得なかった。


美しさや気立てのよさでいうならば劉備の馬の方が優れているのかもしれないが、体格や風格が他の馬たちとは明らかに違った。


「足も速く、力も強く、体力もある。大陸屈指の馬だ」


そう言って関羽はそっと鬣を撫でる。

本当に自慢に思っているのだろう関羽の言葉に、改めて桜はほうっと息を吐いて馬を見た。



事前に“この辺のは気性が荒い”と聞いていたので桜は近づかない。


(というかオーラがすごくて恐れ多くて触れません)


「お名前は?」


「ああ、赤兎(セキト)という。」


「そうなんですね。」


(………、なんか聞き覚えあるような…)


その夜、桜はじっくり考えた末に“赤兎”が日本に伝わってくる程有名な“赤兎馬”であることに気づいて(思い出して)歓喜と戦慄とを同時に覚えるのだが、この時は思い出すことはできなかったため、ただただじっと赤兎を見つめてうっとりとため息をもらすだけだった。



そんな風にその日は馬の事を考えたり、何か赤兎馬に絡むエピソードなどこの時代や歴史について何か思い出せないかと記憶を掘り起こしてみたりしながら夜を明かした。



ここしばらく喉元過ぎたような、なんだかんだ平和な日が続いていたのだが、翌日から桜を取り巻く状況が苛烈に変わっていくことになる。





その始まりは、昼前の伏龍の部屋でだった。




「毒だ」



(──ああ、やっぱり)


関羽が固い声でそう言うのを、桜は愕然としながらも当然の事と受け入れた。



微量すぎて確定はできなかったもののおそらく砒素、あるいは殺鼠剤で毒物には間違いないこと、


即死するものではなく体をじわじわと蝕み、最終的に死に至らしめるものであり、摂取した日数によっては即刻治療すべきである、


ということを、ファオの所に鑑定結果を聞きに行った関羽が淡々と話した。



ファオ(漢字は“華”と書くらしいことが分かった)の所へ鑑定結果を聞きに行きたいと相談してみたがやんわりと断られた桜は、伏龍の部屋で仕分けや雑務を手伝いながら関羽の到着を待った。



(ファオ)の反応から毒物の線が濃厚になったため色々と確認や根回しのためにやることがあるらしく、鑑定結果を“知ってもよい”立場の人間が、足も遅く準備に時間のかかる桜に付き合って町を歩ける桜に付き合える時間がない。


直接そうと言われたわけでもないが、そういう理由があるようなので桜も大人しく頷く。


別に邪魔をしたいわけではない。



それに加えて「また一緒に夕食しませんか」と劉琦が誘ってくれていたので、その準備もしなければならない。


夕食会についても、タイミング的におそらくほぼ間違いなく、華の鑑定結果を伝えるために伏龍が劉琦に働きかけたのだろうと思う。





そして、その夕食の席で



「…だめだ飲むな!」


「ッ──…!!」


「琦君!!」



事件が起きてしまったのだ。




そうしてその場に同席していた桜は

この日を起点として

否応なしに襄陽の嵐に巻き込まれていくことになった。





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