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三国争乱姫 ~歴女が姫の代わりに三国志攻略?!~  作者: 水季瑠璃
二章 襄陽の陰り
22/26

9 帰城


ファオの事はまず劉備に相談しようと決めて、趙雲と一緒にとりとめもない話をしながら劉備の元に向かうと、ちょうど劉備も全て売り切れて店じまいしていたようで、ヒラヒラと笑顔で手を振って迎えてくれた。



「お財布が潤ったよ~」


とホクホクした笑顔の劉備がお団子を買ってくれた。


「おいしい…!」


さっきまで蒸し器に入っていた温かなお団子は動き回って空いたお腹を幸せにしてくれた。


趙雲は「せめて毒見を、」とか小さな声で言っていたが、それを上回る速さで劉備が口に含んでいた。勿論桜も。


夕日を浴びながらの帰り道も、そんな和やかで楽しいものになった。





「そろそろお帰りかと思ってました」


門番にひらひらっと手を振って挨拶する劉備にさりげなく顔を隠されながら、域と同じように裏門を通る。


しばらく歩いた後に裏門からほど近い廊下で鵬燕がそう言って迎えてくれた。



「やあ鵬燕」

「鵬燕様、」


劉備が楽し気に声をかける後ろで少し小さく趙雲が漏らした。


鵬燕推しだと知ったので、つい温かく見守るような目で見てしまう。


「…芙蓉姫のものですか」

「あっ、はい!」

「私が」

「ありがとうございます。」


何となく頬が上気して見えるのは気のせいなのだろうか。

桜がほのぼのとした気持ちで2人のやりとりを見守る。



そのまま趙雲は倉庫などに買いだしたものを直しにいくようで、鵬燕と劉備に嬉しそうに礼を尽くして去って行った。



「どちらに向かわれますか」


「うん、俺はね、龍ちゃんのとこに行こうかなって」


「あ…じゃあ、私も一緒に行っていいですか?ちょっと…お話したいことがあって」


伏龍と2人なら、ちょうどファオの事を話すいい機会だ。


劉備が快く頷いてくれたのを見て、

「では、私は先にこちらを部屋へ運んでまいります。」

と鵬燕が去ろうとするのを慌てて引きとめ、大蒜の漢方だけ持たせてもらった。


それだけで、何となく劉備は桜が話したい内容について察したようだった。




「おお、帰ったんすね大将。桜も」


伏龍は自室で書類仕事をしていたようだったが、いきなり部屋に入ってきた劉備と桜を見ても驚くそぶりも迷惑がるそぶりもなかった。



「いやあ、今日も売れたよ~!」

「そっすか」


「酒屋のお嬢さん、そろそろ産まれるらしくてね。お祝いにって言って買っていってくれたお客さんもいてね~」

「そっすか」


「そういうの聞くと嬉しくなっちゃうよね~」

「そっすか」


嬉々として話す劉備に、書類仕事を続けながらそっけなく答える伏龍。



「…忙しかったですか?」


劉備がじぃっと不満げな目を向けて黙ったすきに桜が聞いてみる。


「いや、それほどじゃねえよ。

大将が部屋に来てすぐする話はわりとどうでもいいから片手間で聞いてるだけ。」


劉備からよく部屋に襲撃され慣れている様子の伏龍がしれっと書き物を続けながら言うと、「ひどいよなあ」と劉備は唇を尖らせながらもさほど気にしていないようだった。



「桜は?どうした」


チラッと劉備に目配せした後で、サササッと木簡を机の端に避けながら伏龍が口火をきる。


「実は、どういう人なのかはちょっと分からないんですけど、砒素が分かるかもしれない薬師に会ったんです」


そうして桜は薬屋であったことを話す。


ところどころ「あほだな」とか「うかつだなあ」とか言われながらも説明を全て終えて、持っていた漢方を差し出した。




「なるほどね…」


「気にしてくれてありがとうね」


劉備はにっこり微笑んで、もうクセのように桜の頭を撫でてくれる。


20にもなって頭を撫でられるなんてそうそうなかったはずなのに、ここ数日のうちにすっかり慣れてきてしまっている自分がいた。



「とりあえず、これは桜と子龍の目の前で薬屋の薬草を調薬されたものだし、摂って悪い物でもないから琦君にお渡ししても大丈夫だろ。

あとはそのがめつ…商売人気質薬屋についてだが、」


さりげなく伏龍は言い換えたが“がめつい”は全くその通りの表現で桜は脳内で深く頷く。



「ちょっと心当たりあるなあ」


「そっすね。天才で奇人な行商薬師なんてそんなにほいほい居るもんでもないでしょうし」


(…有名なんだ)


奇人て。と桜は苦笑いしつつも、天才と言われるからには怪しい人ではないのかとホッとする。



「ただ、すぐには判断できないかな。少し時間をくれる?」


「あ、はい…勿論。

数日は襄陽にいるって言ってました」


いちいち許可を求めてくれる劉備に恐縮しながら、桜は頷いた。



「どっかに属してる可能性もありますしね。

まあ芙蓉姫のことだと勘違いしてくれてるなら、それはそれで利用できるかもしれないですけど」


「そだね。身内のゴタゴタなんて本来外に出さない方がいい」


俺たちは知っちゃったけど、と劉備は苦笑いしながら言う。



たしかに身内争いなんかしていたら、外側から攻められる格好の的になる。


劉備たちは部下的立場だからまだ許容範囲内かもしれないが、厳密には食客、部外者だ。


もし劉琦が弟陣営から攻撃されていることを突き止められたら、弟陣営の勢力を削ぐことができる。


劉表が望んでいた通り劉琦を後継として指示できるかもしれない。


そうなれば家は落ち着き、お世話になっている劉備たちも安心することができるだろう。


(早く解決すればいいな…)




それから桜は劉琦との食事のために身支度を整えるため、廊下に迎えにきてくれた鵬燕とともに自分の部屋に帰った。




「桜の言ってた怪しい男、やっぱり例の天才薬師っすかね?」


「う~ん…、まあ金に汚いけど優秀な薬師は他にもいるから何とも言えないけど…。

もしそうだったら、襄陽は…

やはり戦地になるかもしれない」


「……」


劉備は静かにため息をつく。


その時がきたら、自分たちがとる行動は既に決まっている。



だが、──桜は?


本当は芙蓉で、嘘をついているだけなのであれば選択肢は1つしかない。


けれど彼女が“桜”であり続けるならば…



劉備が頭に手をあてて眉を寄せる理由が何となく分かったのだろう。


伏龍も小さくため息をついた。



「大将、実はちょっと考えてることがあるんすけど…」






「うん、これは美味しいね」


「でしょう?よかったー」

「ありがとう芙蓉姫」


「あ、いいえ。買ったのは私じゃなくて劉備さんで…」


「きっかけは芙蓉姫ですよ、彼女が町で売られているお菓子を食べてみたいと言ったから買いに出たので」


「そうか、劉備、芙蓉姫、ありがとう」


帰路で買い食いしたお団子を劉備からのお土産だと劉琦に差し入れすると、劉琦は嬉しそうに受け取ってくれた。



「いつか元気になった芙蓉姫と、劉備たちとで町に行って直接食べてみたいね」


劉琦は、病気で町に行けない芙蓉を慰めるようにそう微笑んでくれた。



(ああ、町に行きたくてお土産にお菓子を頼んだと思ってくださったのか…

ちょっと罪悪感だな)


桜が苦笑したのをどう感じたのか、劉琦は少し目に力を籠める。


「大丈夫、昨日より顔色が良くなっているようだし、きっと良くなる」


「…ありがとうございます」



本当は自分の方が大変な状況なのにも関わらず優しく温かな劉琦。



そんな風に、劉琦を交えての4人でのお食事会は始終和やかに進む。


劉備が襄陽の町の様子を話すと、めったに町に行けないらしい劉琦は喜んだ。

行商していたらこんなお客がいて、こういうものが今はやっているらしい…と言った話に目を輝かせている。


食が細いのは気になるが、伏龍たちに現状を相談できたことで少し気が和らいだのか、昨日より表情が明るい。



「そうだ…、町で良い漢方が手に入ったのです。」


桜は懐から何気なく漢方薬を取り出した。



「とても良いお薬らしく。よかったらこちら、劉琦様に」


スッと劉琦のすぐそばに置いて、じっと劉琦を見つめる。


「ホントいいらしいっすよ、琦君。

試す意味でも、しばらくこれだけ飲んでみるのはどうっすかね」


伏龍もなんてことない軽い口調でそう告げる。


しかしその伏龍の目だけは真剣な様子に、察した様子で劉琦はしっかりとそれを受け取ってくれた。




(今日はなかなか有意義だったわ)


お風呂につかりながら、桜はしみじみと考える。



町を色々歩けて心地よい疲れがあるし、食べ歩いたお団子はおいしかったし、最後に劉琦と一緒にごちそうを食べることもできた。


(…ファオに翻弄されたのはシャクだけど)


思い出すと今でも何となくムカッとするが、すごく嫌な人ってわけでもない。



(漢方薬、効けばいいんだけど…)


とにかくこれ以上摂らないことが一番だ。


今回漢方を渡したことで、今までの漢方を飲まない大義名分もできたのも大きいと思う。


そういう意味ではやはり、ファオに教えてもらえたことは価値があったと思う。



(…あっ、…下着作ろうと思ってたんだ)


お風呂上りに下着を当然のように探して、思い出す。


鵬燕に頼んで細く切った布を巻いていたが、もちろん鵬燕も侍女もそれが下着だとは思っていないから、当然用意してもらった着替えセットの中に入っているわけもなく。しかも代えの細い布もない。


(…ああ…スースーする…落ち着かない…また明日町に行けるかなあ…)



桜は明日にでも鵬燕に相談してみることにして、とりあえずおとなしく休むことにした。



しっかり動いたからか、その日は本当に心地よくゆっくりと眠れた。


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