5 チートが多いため異世界と断定
「子龍さんは鉱石の加工が得意なんですね」
子犬系従者がいそいそと小物加工に勤しんでいる…
なんだか想像したらそれだけでほっこりする。
「うん、子龍の加工品はキレイだよ。
削ったり割ったり、火に入れたり研磨したり…力や繊細さ、忍耐力が必要な作業なんだけど。
子龍っては、見事なんだよねえ。」
「へえ~」
確かに鉱石加工は色々注意するポイントが多そうだ。実際どういう工程で宝石になっているのかはよく分からないが…
「俺はどっちかというと塗ったり染めたりが好きなんだけど、子龍は鉱石の加工が得意でね。
装飾品を作る時に手伝ってもらうんだ。
動物の皮をなめしたり、加工したりするのも得意だしね。
…まあ、子龍は器用だから基本的に何でもできるんだけどね。」
キャンキャン吠えているだけではなく、主にまっすぐで努力家で、結果何でもできてしまう、スーパー従者なのかもしれない。
失礼だがかわいい皮肉屋のイメージしかなかったので、少し見直す。
「子龍さんとも、ちゃんと話したことないですね…。
なんか嫌われているっていうか…。
まあ理由は分かってますけど」
桜の言葉を受けて劉備も伏龍も苦笑をこぼす。
「大丈夫、いい奴だよ。
これから少しずつでも話していけば誤解も解けて、きっと仲良くなれるよ。桜ちゃんと子龍なら」
「はい、そうですね。」
自分が、上下関係などの考え方が違うことからの振る舞いや言動によって不信感を与えているだけだ。
むしろサラッと受け入れてしまえる劉備と伏龍がおかしいくらいだと思う。
自分の大切な上司に不審人物が近づいているのだから、至極真っ当な態度だとも思える。
桜のからりとした笑顔を見て、劉備や伏龍も笑顔で頷いてくれた。
「あとは~…益徳は料理がうまい」
「まあ間違ってはないっすけど、あれはそういうんじゃなくてむしろ酒の肴じゃないっすか?」
「うん、ついつい酒がすすむ味だよね」
“益徳”について話す2人を桜がキョトンと見ていると、すかさず劉備が説明してくれる。
「今は新野城を守ってくれてるんだけど、信頼してる“益徳”って仲間がいるんだ。
益徳はとにかくお酒が好きでね。
お酒をより美味しく飲むためにって感じで、自分で料理するようになったんだよね。」
「料理担当って感じではないっすよね。むしろ自給自足?」
「そだね。作ってくれる料理はすごい美味しいんだけどね。
大体自分が大量に飲んで、自分が大量に食べちゃうもんなぁ。
前作ってくれたつまみ美味しかったからもっと食べたかったのに!」
「気がついたら皿から消えてましたね」
そう話す2人はとても楽しそうで、きっと楽しい宴会なんだろうと想像ができる。
「楽しい人なんですね」
きっと陽気な人なのかなっと思って桜がそう言うと、劉備と伏龍は顔を見合わせた。
「う~ん…、俺らはそうだね。楽しい。
ただ桜ちゃんが一緒に飲むのはちょっと心配かな」
「…というと?」
「すっっごい絡んでくるんだよね」
劉備は大袈裟にため息をつく。
「一緒にご飯食べると、大体真っ先に益徳が酔っ払って、絡み酒に付き合わされるんだよ」
うーん、なるほど、絡み酒タイプなのか…
たしかに、だいぶカオスになったとしても男だけの席ならまあ楽しいのかもしれない。
そういうのはいつの時代でもある空気感だと思う。
「ただでさえガラと人相が悪いのに酒癖も悪いとか…」
「龍ちゃん言いすぎ。
…まあ、お上品な振る舞いができるタイプではないかな。
そういうのもあってお留守番してもらってるんだけどさ」
劉備が苦笑する。
戦う人間にみられる、粗野や粗暴な部分がある人物なのかもしれない。
たしかに聞く限り、芙蓉姫との相性は最悪な気がするし、葬儀中期間に飲む機会があったとしたら色々まずそうな気もする。
納得したように深く頷いた桜に、劉備や伏龍も深く頷いた。
「あ~っと、そうだ。鵬燕も“手に職”だよね?」
話題をそらすように劉備が視線をさまよわせ、その先にいる鵬燕に矛先を向けた。
「自分で刀研いだり、折れた刀直したりできるんでしょ?
簡単な手当てとか薬調合したりもできるみたいだし。鵬燕も有能らしいよね」
桜は思わず鵬燕を振り返る。
手当てや薬などは忍者っぽいところから想定内だったが、まさか刀工的要素もあったとは。
「…確かにそれくらいなら出来ます」
鵬燕も否定しない。
え、この人たち武将よね?
なのに、服を整えられる、設えられる、装飾品も作れる。
身の回りの物も設計できて、作れる。
もちろん薬も簡単なものなら作れて、応急処置も可能。
狩猟も酪農もお手の物で、刀の修理加工もこなします
とか…。
なんていうか、主人公一味臭がすごいくらいチートだ。
だって、戦闘力も高いんだよね?
うわ、チートだ。
絶対に“過去”ではない、きっとなんか、あれだ。
どっかのゲームの世界だ。
イケメンなチートがポンポンいるとか、現実ではありえない。
桜は楽し気に仲間や宴の話で盛り上がる2人をぼーっと眺めながら、なんとなく遠い目になった。
実在しないとされる芙蓉姫が“ヒロインですか?”と思うほど数奇な人生を歩んできていることもそうだし、
チートイケメン達が10~30代の妙齢という点もそうだ。
きっと自分の生きてきた世界の過去にいるわけではなく、別の世界にいるのだと思わざるを得ない。
(だったら、やっぱりキーアイテムを見つけたら、
過去が分かるとか、芙蓉姫が出てくるとか、特殊能力が芽生えるとか、
何かあるかもしれない…!)
桜はそんなちょっとよく分からない理由からも、
今一度「芙蓉の首飾り絶対見つけるマジで」という意思を固めた。
そして同時に劉備軍のイメージを
“モデル事務所でバイトをしているヒエラルキートップの美大生集団”
と自分の中で固めたのだった。
しばらくその他の人物含め、劉備軍の仲間の話を聞きながら、ご飯に舌鼓をうつ。
古代中国にも“米”があって、それは桜をかなり安心させてくれた。
塩が貴重だったり、調味料や味付けもまださほど開発されていないのだろうが、それでも可能な限り工夫された料理は十分に桜を満足させてくれた。
(今日もご飯が美味しい)
しみじみしていると、2人の話題が明日の話に移っていた。
そういえば部屋に入った時に劉備がチラリといっていたが、どうやら明日は襄陽の町におりて市場に行くらしい。
「あの、私もついて行っちゃだめですか?」
遠慮がちに桜が言うと、劉備はにっこり笑った。
「うん、そう言うと思ったんだよね~」
「ああ、思ってた。別にいいぞ。
体外的には部屋で伏せてることにして、ついてこればいい。」
「鵬燕は今まで通り部屋の前で警備ね。そうしておけば、皆納得するだろうから」
本当に想定内だったのだろう、2人はサクサクと話を進める。
ちょっと苦い反応をされるのを想像していただけに、拍子抜けを通り越して呆気にとられるレベルだ。
「私は構いませんが、芙蓉様の護衛はいかがいたしましょうか。」
「うん、それはね、子龍にお願いしようと思ってる。」
鵬燕の言葉に、劉備がまたにっこりと笑う。
(え?大丈夫なの…?)
桜は脳内だけでぎょっとする。
勿論、子龍とは交流していきたいという方向になったが、護衛なんてしてもらっても大丈夫なのだろうか。
本人的には劉備を一番守りたいだろうに。
劉備が命じたら傍についてくれるんだろうけど…
そもそも必要か?と思っているのに申し訳ない気持ちだ。
けれども伏龍もウンウン頷いているし、きっと何らかの理由があるんだろうから黙っておいた。
(これをきっかけに少しでも話ができれば、って配慮してくれてるのかなって気もするし…)
それに変に護衛なんていらないですーとか言って、城下町行きがキャンセルになるのも嫌だ。
「桜ちゃんは容姿が目立たないように布をしっかり巻いてもらって、服も町民みたいな恰好で来てね。服は明日の朝、鵬燕に届けてもらうから」
テキパキと明日の話を劉備さんに指示されたり注意事項を聞いたりしながら、桜はその日の夕食を終えた。
(どんな所なんだろう)
市場で何か首飾りにつながる情報は得られるだろうか?
記憶が曖昧になりつつあるから、首飾りの事などどこかにメモとして残しておきたいと思っている。
筆や紙など、文房具は手に入るだろうか?
桜は明日の準備をしながら、色々と思いはせた。
思いの外、初めての外出にワクワクしているようだ。
(あしたが楽しみ)
そんな楽しい気持ちで眠りにつけたのは芙蓉の身体に入って初めてのことだった。




