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三国争乱姫 ~歴女が姫の代わりに三国志攻略?!~  作者: 水季瑠璃
二章 襄陽の陰り
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1 謁見



「準備できた?」



扉の向こうから聞こえる甘い声にどきりとする。


「…お待たせしました」


初めて女官さんに身支度を手伝ってもらい上品な格好に身を包んだ桜は躊躇いながら廊下に出た。




「…うん、きれいだね」


ふんわり微笑んでさらりとこぼれた後れ毛を撫でつけてくれる。


あまりにも自然に、柔らかく。


(だから…!!!!

まじで…!!!!)


顔を赤くしながら桜が睨むと、馴染みのない反応に劉備は一瞬目を丸めた後、楽しそうに笑った。





二章 襄陽の陰り





「昨日はゆっくり寝れた?」


芙蓉の部屋で簡単に劉表の前での振る舞い方を教えてくれた後、劉備は病み上がりの(フリをしている)桜を支えて歩きながらそう聞いた。



「はい、おかげさまで。お風呂頂けたので…だいぶ気持ちもすっきりしました」


「そっか、よかった。お風呂、気持ちいいよね、俺も好きなんだ~。

俺、わりと今まで色んな所点々としててさ~、野宿とかもして。野宿はね、全然苦じゃないんだけど…連日お風呂に入れないのは辛かったなぁ…」


思い出すようにガックリうなだれる劉備を見て、多分自分も連日入浴できないのは我慢できなさそうだと苦笑する。


「なかなかお城とか大きな街でもないと、お風呂入れなさそうですもんね…

そういうときは、川とかですか?」


「そうだね~。

さむっ!とか言いながらね~川とか、湖とか。


あ、でもね、たま~に、温かい湧き水の湖があるんだよ、ちょうどいい温度の。この辺だと江夏の山の方にあるんだけど…

その温かい泉はね、いつでもお風呂入り放題で、すっごくオススメなんだよ~」


(温かい泉…、…温泉?)


「それは良いですね…!」


(温泉…露天風呂…最高…入りたい…)


そんなお風呂談義を小声でしながら歩いているうちに、あっという間に本殿の広間にたどり着いた。

少しも苦痛な間がなくて、劉備は本当にコミュニケーション能力が高いと感心する。



広間が近づくに連れ、劉備が口を閉ざして外行きの顔になったので、桜も大人しく、体調が悪いていで顔を伏せた。


そのおかげか特に不審がられることなく第一関門を突破することができた。




離れの広間よりももっと広い本殿広間。


よく磨かれて光る石の床には立派な柱が十数立っており、中央奥に重厚な椅子が三脚ほど、立派な敷物の上に置かれていた。


その三脚に座るのは、女性、男性、少年だった。おそらく妻、劉表様、ご子息だろう。




「永らくご面倒をおかけしておりましたのに…ちゃんと挨拶ができておらず、申し訳ありませんでした」


劉備との事前打ち合わせ通り、桜はそれだけ言ってあとは黙っていた。


うっかり変な事を言ってもまずいので、病み上がり設定は本当にありがたい。



「病み上がりなのに悪いね。劉備殿も付き添いご苦労」


そう言ったのは中央の男性。

穏やかな口調、雰囲気だが、その目の奥は鋭い。


この風格、予想通り城主である劉表で間違いないだろう。



「いえ、劉表様。当然のことです。」


普段ちゃらんぽらんな軽い雰囲気の劉備も、この場ではキリリと表情を引き締める。


(かっこいい…)


うっかりギャップにやられそうになって、目を反らした。



さりげなく視線を外した先には、劉表の部下だろう武将たちがいた。


劉備に厳しい目を向ける者もいれば、比較的好意的な表情の者もいた。

配置的には、劉表達を正面にして、左右に武将がずらりと並んでいるような形で、空いているのは背後だけ。


まさしく三方向囲まれている構図に緊張感が半端ない。本当に体調が悪くなりそうだ。




「芙蓉、心配していたのだぞ。

起き上がれるようになってよかった!」


ふと、そう声をかけられる。


年は中高生くらいの少年。

この偉そうな口調から、おそらく2人いる劉表の息子のどちらかだろうと思ったが、そのどちらなのか分からない。



「ご心配おかけしてすみません…」


曖昧に苦笑して逃げることにした。


「う、うむ!我が心配するのは当たり前だ」


苦笑を向けたら、あからさまに嬉しそうだった。


心なしか顔も赤くなっているような気がする。



(芙蓉が美人だってのはマジだったのね…)


芙蓉の顔は自分の顔とほぼ同じで全く違和感がないから、芙蓉が指折りの“美人”というのも実感もなければしっくりもきていなかったのだが、こうもあからさまに喜ばれると事実なのだと感じる。


平均的なルックスだった桜には慣れない経験で、嬉しいというよりは居心地が悪い感覚が強かった。



美人だと人生楽しそうだなとか以前は思っていたが、芙蓉のこれまでを聞いている感じ、美人には美人の苦労があるんだろうということも感じた。


(まあ不細工だったら小汚いおじさんの後妻とかになって苦労してた可能性もあるから、好待遇受けてる分ラッキーなんだろうけどね…。とりあえず身の振り方は気を付けていかないと…)


うまく利用できるかもしれないが、美しさというのは使い方を誤ったら諸刃の剣にもなりかねない。


現状、目の前にいるこのご子息には、必要以上に近づかない、近づかせないほうがよさそうだ。


(たぶん城主の息子でしょ…下手に関わったらややこしいことになるよね)



「劉琮様は相変わらずお優しくご立派なご様子で、感服いたしました」


にっこりと劉備が毒なく少年に笑いかけると、キッと少年が劉備を睨んだ。


美人のお姉さまと仲良くお話してたのに、お姉さまの婚約者に牽制された…とでも感じたのだろうか。


(劉備さんは褒めてあげてるのに。お子ちゃまね)


しかし劉備のおかげで、この少年が劉表の2人目の子“劉琮(リュウソウ)”だということが分かった。




「…劉琦様にもご挨拶できればと思ったのですが…やはり、具合が?」


「ああ…」


劉表は一瞬言いよどむように視線を右に散らしたが、すぐに頷いてみせた。


「そうなんだ。あれは少し前にまた体調を崩したばかりだからね。

もうほとんど大したことないんだが、万が一にも芙蓉姫にうつしてはいけないと、部屋に下がらせているのだ」


「左様ですか。では、後程部屋までご挨拶に伺います」


「そうだな、そうしてやってくれるとあれも喜ぶ…」


ゴホン、


「父上、兄上のことは良いではないですか。体調が悪いのに無理に起こすこともないでしょう」


劉表を咎めるような咳払いの後、劉琮がそう冷たく言い放つ。


咳払いは劉琮の後ろに立つ武将からのようで、どうやら先ほどから劉表もその武将を気にしているようだ。


(なるほど…?)




「それで、芙蓉。体調が回復したのなら、宴を開くぞ。参加するがよい」


様子をこっそり窺っていた桜に、また劉琮から声が飛ぶ。


仮にも劉備という婚約者がいる前でこんなに分かりやすくアプローチするのはどうかと思うのだが…


(甘やかされ系ボンボンなのかな…)


頭の片隅でそう思いつつも、表向きは淑女ぶる。


「ありがたいのですが、まだ起き上がれるようになったばかりで、食事もあまりできないので…大人しく休ませていただきたいと思います」


そう言ってから劉備をチラリと見ると、それで大丈夫と言うように劉備は頷いてくれた。


そしてそれを見て、劉琮が分かりやすく不満げな顔をした。


「むぅ…」



そのあと劉備は新野の状況報告など業務的な話を2、3劉表と交わし、桜を連れて広間を離れた。





「すごいすごい。いい感じだったよ~」


「それならよかった…。劉備さんのおかげです。

…でも、気疲れしました…」


劉備も気疲れの原因が解っているのだろう、苦笑して頬を掻いた。


「熱烈だったね~」


「ですねぇ…」



桜は深くため息をついた後、気持ちを切り替えるように劉備を見た。


「私の感覚では、部下本人含め大勢の人の前で部下の婚約者に言い寄るのってナシなんですけど、普通にあるんですか?」


「う~ん…あることはあると思うよ。行儀はよくないけどね。

例えばもし劉琮様が俺の主だったら、たぶん“献上しろ”って命令されてただろうし、命令されたら逆らえないよね。」


「サイテー」


劉備がというよりは、主に劉琮がだが。


非難するように睨んだ桜に、劉備は不快を示すでもなく取り繕うように苦笑した。


「大丈夫だよ~、劉琮様は主じゃないから、従う必要ないし。」


そして、ポン、と頭に触れる。


「桜ちゃんが嫌なら、一緒に逃げてあげる」


(…!また…)


口説いているのだろうか、それとも劉備は普通に性別美醜年齢関係なくこういう事を言うのだろうか。


またも赤くなった自分が悔しくて、桜は挑むように笑った。


「じゃあ、その時はお願いしますね」


一瞬目を丸めた後、すぐに劉備は笑って頷いた。




「それで…、劉琦さんにも会っておいたほうが良いですよね?」


「う~ん、桜ちゃんはどっちでもいいとは思うけど…俺はこの後、部屋に伺うつもり。」


「あ、じゃあ私も一緒に。」


せっかく身支度してもらったのだし、どうせいつか挨拶しに行くのならば、なるべく1日でまとめてしまいたい。


桜の言葉に劉備は嫌な顔一つせずに同意してくれた。




「そういえば…劉琮さんの後ろに立ってた武将さん…」


蔡瑁(サイボウ)様のことかな?うん、どうしたの?」


「あの人、劉琮さんをゴリ推ししてて、劉表様もちょっと困り気味でしたよね」



劉備は少し目を丸めた後、ケラケラ笑う。


「さすがだね~、判ったんだ。

そうだよ。蔡瑁様はね、劉琮様の叔父なんだ。だから劉琮様に後を継いでもらいたいんじゃないかな」


「なるほど…。

じゃああの女の人は劉琮様のお母さんですか?」


「そうだよ~」


どうりで劉琦の話をする時、劉表以外は冷たい表情だったわけだ。


あの場所にもし劉琦がいたら完全にアウェーだった事だろう。



「なんか…劉琦さんがいたたまれないです…」


「そうだねえ…。

劉表様は、正妻とのお子で人柄もよくご自身に似ておられる劉琦様を可愛がっておられるんだけど…

劉琦様は前に出られる性格でもないし、病弱なのも事実だし…なかなか難しいね~」


2人で溜め息をつく。



そんな話をしていると、劉琦の部屋に着いていた。

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