第3話 【変化】
今回は和気あいあいというか、楽しげなお泊まり会みたいな感じになってます。
楽しんでいただけると幸いです。
□
集中できない。
いつもただただやってるMMORPGのはずなのに変な気分だ。
そんな気持ちになりながらもたんたんとゲームをしていたら、達也からボイスチャットの誘いの通知が来たので、それに応じた。
「よお、おつかれさん」
「なんだよ急に、いつも先にメッセージで声かけろって言ってるじゃん」
普段はメッセージで確認し合ってやっているので、普段と違うことに若干の不服を訴えた。
「言っとくが3件も送ったぞ5分刻みでな。だけど返信もないのにフィールド移動とかしてっから気づいてないのかと思ってボイチャ誘ったんだよ」
スマホを確かめると確かに3件の通知が来ていた。
それに今更ながら返信を送ってみた。
「返信したぞ、読んでみて」
「お、おう。必要ない返信だな……」
少しの沈黙後、達也は震えた声で喋ってくる。
「マジかよ。嘘だろ?」
「本当だよ、本気と書いてほんきと読むくらい」
「それを言うならマジと読むだろ。これマジならお前羨ましいな……俺も行っていいか?」
送った返信は【猫明さんがウチに泊まるらしい】とだけ。
羨ましがるのは中等部ではアイドルのような存在だったと、達也が言っていたこともあり見当はつくが、こいつが家に来ると面倒なことでしかない。
「来るな」
「なんでだよー」
叫んだ達也の声が遠のくと同時にガタンと大きな音が聞こえてきた。
しばらくガタガタと音が聞こえたと思えば、先程とは違う震えた声で話し始めた。
「痛いし、羨ましいし、悔しい」
「痛いのは知らん。羨ましがられても妹と猫明さんが友達で泊まりにくるだけだし、俺には関係ない事だよ」
「だとしても、羨ましい。俺なんて男兄弟しかいないんだぞ、その時点で俺の羨ましメーターはお前に対して振り切ってるんだからな!?」
「羨ましメーターってなんだよ……」
「妬ましさが生み出すものだ。俺は友人でよかったと思う反面では、妬ましさに包まれてるのさ」
理解が追いつかない。こちらからしてみれば男兄弟の方が、一緒に趣味とかを共有できるじゃないか。羨ましいと思うのはお互い様だと言うのに。
半ば呆れ気味に思っていたら、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「悪いミュートする、母さんかも」
「おう、待ってるわ」
ヘッドセットを外して返事をすると、案の定買い物から帰ってきた母さんが戸を開けて入ってきた。
「はるかが居ないんだけど、遊びに行ったの?」
「なんで俺に聞くの?」
「ああ、確かにメッセージを送ればよかったわね……。今日の夕飯は何がいい?」
母さんは美夜ちゃんが泊まることを知らないみたいだったので、経緯を色々省いて説明した。
「そうなのね〜、美夜ちゃんのお母さんも多忙だものね、夕飯奮発しなきゃだわ!」
「なんでそこまで張り切るんだよ」
「だって悠が猫明さんて呼び方じゃなくて昔にみたいに呼ぶようになったってことは、何かあったんでしょ?だとしたら私からしてみれば記念みたいなものだもの……」
心底嬉しいのだろう。両頬に手を当て体をクネクネとさせている。
母さんの表情と言うよりは動きに感情が出てくれるので、昔からわかりやすい癖のひとつだ。
そんな母が少し照れくさそうに口を開く。
「赤飯にする?」
「なんでちょっと恥ずかしそうに言うんだよ!?やめてくれ!まだ何もしてないんだから」
あら!という言葉のように母さんの表情と手が口元を隠した。
「まだ何もしてないだなんて、これからあるかもしれないのね!?大変だわ〜!孫が拝めちゃうかしら?」
「絶対にないから!もう!母さんは頭ん中が少女なのか!?」
「あら、こう見えても私はまだ20代のつもりよ?」
「じゃあ僕らは何歳で産んだって言うんだよ」
「神様の贈り物なのよ?あなた達は」
両手を握りしめて胸元に当てて答えた。母さんそれは無理があるだろ……。
「……んで、用は済んだ?」
「そうね!はるかにもメッセージ送って確かめて、夕飯の準備を早めにした方がいいかもしれないから……おいとましなきゃね」
「赤飯は絶対やめてくれよ?」
一応念押しはするが、母さんはどちらとも受け取れるグッドサインを出して部屋を出ていった。
「大丈夫だよな……」
信じるしかない。少し脳内お花畑な母さんだけど……。
少し頭を悩ませながらも、ミュートを解除してボイスチャットへ戻る。
「すまん、母さんが夕飯どうするか聞いてきたわ」
「お、おぉ?まだおやつの時間にもなってないのにな」
そんなことを話したりゲームを楽しんでいたら、あっという間に時間がどんどん過ぎていき、気づけば夕方になっていたことに達也が話題を止めきり出してきた。
「あ、もうこんな時間かよ。1回休憩するか?」
「んー、確かにな。でも夜ログインできるかな……」
「……なんだ、忙しくなるってか。飽くなき欲望が舞い上がるってか」
「もうそれはいいって、ありえないからまじで」
「なんで俺には妹が居ないんだ……落ち着こう水飲も……」
「親に頼めばいいじゃん。妹が欲しいの〜って」
ゴホゴホと咳き込む音が聞こえてきた。
「おいおい、噎るほどの発想だったとは思わなかったぜ。すまんな達也君よ。さてそろそろ落ちるぞ」
「最悪な想像させたお前は絶対処す。明日覚えとけよ」
その言葉を最後に達也はボイスチャットとゲームからログアウトしていった。
俺もその後ログアウトし、部屋を出てリビングへ降りていった。
リビングのソファーに美夜ちゃんとはるかが座ってテレビを見ていた。
母さんは夕飯の準備も終わりを感じさせる雰囲気だ。
「お兄ちゃん何してたの?」
「ゲームだけど?美夜ちゃんは本当にうちに泊まるんだね」
「そうですね、親も仕事で帰ってこないっぽいので……」
なんでか美夜ちゃんの落ち着きがないように見える。他の人の家に泊まるなんてそうそうあるものじゃないもんな、そりゃあ落ち着かないか。
「あ、お兄ちゃん夜みんなで遊ぼうよ〜」
「別に構わないけど、明日も登校なんだから夜更かしは出来ないからな?」
「大丈夫だよ、その対策もバッチリするから」
バッチリとはなんだ?と思ったが気に止めるだけ無意味だろう。どうせ強行されるからな。
母さんの用意した夕飯を食べ終え、先に風呂に入り自室に戻りベッドに横になった。
1人増えるだけで食卓は賑やかになるもんだな。オヤジあんたがここにいないのが寂しいよ―――。
オヤジがいなくなってからもう6年は経つだろうか、仕事と言って出ていったあの日。
いや、もう過ぎたことだ。俺は色々見聞を広げてきた。オヤジのコネを使って世界史博物館にも立ち寄り、世界の歴史を学んだりもしてきた。
オヤジは偉大なことを成し遂げた人間として有名だが、決して名前を記述されるものは残っていない。それは遺族、母さんや爺ちゃん達の意思を尊重して国側の配慮で、オマケにこの家と有り余る金額を貰い受け生活をしている。
「オヤジ……俺頑張るよ。オヤジの分まで母さんとはるかを幸せにしてみせるよ」
言うは簡単だが、行動しなきゃ始まらない。高等部で行われる試験で成果を出さなきゃな。
「はるかたちが来るまでPCでゲームでもするかな」
PCデスク前のゲーミングチェアに座り、電源ボタンを押して起動し終えるまでは、スマホでSNSをみていたら達也が呟いているものに目がいった。
『あいつはきっと今頃楽しんでる。絶対許さない。オレ、アイツ呪ウ。』
それに"いいね"をしてあげる。絶対俺の事だ……反応してあげなければ可哀想だ。すると、すぐSNSが更新されて達也の投稿が確認できた。
『アイツ、ミテル、オレコワイゾ。逆二何カサレソウダ。』
なぜお前が怯えるんだよ、呪うんじゃないのか。
俺はそれにもを"いいね"をしてスマホをとじた。
そこからしばらくは普通にゲームをして過ごし、21時になろうかと言う頃に部屋のドアをノックする音に反応をした。
「入っていいぞ」
見ていた動画は止めずにヘッドセットを外しチェアを回転させ反応した。
「お兄ちゃん開けて〜」
「なんで開けれないんだよ」
チェアから腰をあげドアを開けると、布団をズルズル引きずりながら猫の着ぐるみのようなパジャマ姿のはるかが入ってきて、その後に黒のもこもこなルームウェア姿の美夜ちゃんが申し訳なさそうに手に持ったお菓子類を抱きながら、頭を下げつつ入ってくる。
「なんだよそれ?まさかと思うがここで寝るつもりか?」
「せいか〜い。その方が夜更かしも多少は許されるでしょ?」
俺の問いに応えつつ布団を敷き詰めていく。ふたつの布団の端が壁と俺のベッドに少し当たって盛り上がっている。敷き終わり美夜ちゃんと共に布団の上に座った。
「で!お兄ちゃん何食べる?」
お菓子を両手に掲げながらはるかが聞いてくる。
だが……。
「食べない、夜に間食はしない主義なんだ」
「ノリ悪っ!」
「じゃあ先輩何して遊びます?」
美夜ちゃんが話題を変えてくる。遊びか……。
「うーん、テレビゲームに、カード、ボードゲーム、まあ色々揃ってはいるけどどういうのがいい?」
俺の趣味で揃えたものばかりで昔はやっていたものを集め、昔の遊びに興味があったから集めただけで遊べてはいないけどルールは概ね理解はしている。
「定番ですけど……トランプでブラックジャックとかどうですか?」
「いや、そこは普通ババ抜きとかでしょ!?」
当人の希望通りにブラックジャックを行い、その後負けっぱなしのはるかが神経衰弱を希望してきたことにより、ブラックジャックは終わりを迎えた。
暫くトランプで遊び、オセロ等で遊びあっという間に0時を過ぎていたことに気づいた。
「なあ、そろそろ寝ないか明日に響くぞ?」
「先輩の言う通りだよ……はるかちゃん寝ようよ?」
今や俺と美夜ちゃんは意地になっている連敗無勝のはるかに付き合わされている状態だ。
「やだ!勝ってないからやだ!」
「駄々をこねるな」
「なんで私だけ勝てないの!」
「はるかちゃんはババ抜きじゃすごく顔が強ばって、目でジョーカーをバッチリ見てて持ってたらすぐ分かったし、オセロも言いようがないくらい下手っぴな置き方してたもん。他のゲームもほぼ同様だよ……だから勝てる遊びにしよう?」
その通り過ぎて少しばかり同情したが、美夜ちゃんにそう言われても諦めきれていないのだろうな。
「じゃあ絶対勝てる遊びを美夜ちゃんに仕掛けるもん、これだ!」
はるかは美夜ちゃんを押し倒し脇腹をくすぐり始めた。
「美夜ちゃんが笑ったら私の勝ち!題してくすぐりゲーム!」
「ちょ、っとまっ……てぇ〜」
「このこの〜笑え〜」
なんという光景だ……!!目の毒すぎる、くすぐられ笑うことを堪え声を殺しながら暴れる美夜ちゃんの服がズレていく。そこをはるかは今まで服の上からだった指で地肌をくすぐるようになった。一言で言うのなら――――。
「眼福だ」
「ん?なんか言った?」
「ああ、言った」
「エロイ?」
「まあな、普通に目に毒だ」
それを聞きニヤけるはるか。すると美夜ちゃんの耳元で何か言うと、それに驚いたのか口が開いた。
「なにいって―――」
「隙あり!」
口を開けてしまった美夜ちゃんは思わず笑い声をあげてしまう。
「あははは……も、もうダメ!お、おわって……!」
「やったぁ!私の勝ちぃ!」
ガッツポーズをするはるか。息が上がって服装が乱れたままの美夜ちゃん。終わって安心のような残念なような。
「じゃあ2人とも、はるかが勝ったことだし寝ようぜ?歯を磨いてこいよ」
「虫歯になっちゃうもんね!チョコ食べたし」
はるかはすぐさま部屋を出ていった。美夜ちゃんを置いて。
「大丈夫?」
なるべく直視しないように声をかけるが反応がない。
「美夜ちゃん?服乱れてますよ〜お腹冷えちゃうぞ?」
服装の乱れを教えると、すぐさま起き上がり乱れを直し美夜ちゃんは俺を見てくる。
「……エッチ」
とんでもない事を俺は言われなかったか?
「心配しただけだぞ?それを言うなら、あの愚昧に言ってくれ!ささ、ほら歯を磨いてきなさいな美夜ちゃん」
ムスッとした表情を浮かべつつも、ドアを開け美夜ちゃんは出て行った。
「はぁ……。しんど、これ明日もなのか?エグいエグすぎる」
デスクに置いていたスマホを手に取りSNSをチェックすると、達也がひたすら病んでいることを目にした。
「なーんでそこまで荒れることができるのかな?構わないで寝てしまおう」
寝る準備はとっくに終わっている、それにさっさと寝入っておけば2人もさっさと寝るであろう。
「考えるより行動!おやすみ!いい夢見よう俺!」
ベッドに潜り込み、2人の布団を背にして横になる。昔から寝付きがいいと自負している、すぐ寝れるだろう―――。
無理だー、こんなん寝れねえ!洗面所から先にはるかが帰ってきたが声をかけられるし、美夜ちゃんが戻ってきてから二人で何か話してて気になって寝れん!普通に無理だろ、なんで年端もいかない男女3人がひとつの部屋でこうも寝ないといけないんだ?
考えていては埒が明かない。寝ることに集中するんだ……俺……!
本気で寝ようとすると美夜ちゃんの声が鮮明に聞こえた。
「はるかちゃん、そろそろ……寝よう?眠いよ」
「そうだねぇ……寝ようか、おやすみね」
「おやすみぃ」
やっと寝るか……良かった。というか美夜ちゃんの声が鮮明に聞こえるということは、すぐ横で寝てるのか?
……。
……。
「いや待て……」
もしかして違うんじゃと思い、確認するために寝返りをし薄目を開けると……。
「へっ、やっぱお兄ちゃん見ると思った」
「先輩、私たちの寝顔を拝もうとは欲張りですね」
2人が目の前で座って俺を見ながら、そんなセリフを吐いてくる。
だがここは、普通に寝ているフリをするぞ。
「あれえー?気のせいだったかな?」
「うーん、私には少し開いたように思えたけど……?」
よし誤魔化せてるようだな、狸寝入りは成功するもんだな。
「はるかちゃん私寝る時服脱ぐんだけど平気?」
ん?暑くなるからなのだろうか?寝る時に着込みすぎて脱水症とか、あるとか言うしな気をつけて欲しいな、目を開きたい。
「お兄ちゃんより早く起きれば問題ないよ」
ゴソゴソと布の擦れる音が聞こえる。これは脱いでるのか?それとも大人しく布団に入っているのか?
「わぁ、そのブラ可愛い〜」
わあお、それは俺も健全な男児ならば!見なければいけないのかもしれないのでしょうか?
「これ寝る時につけるやつなんだよ?はるかちゃんはつけてないの?」
「私は……お風呂入っちゃった後はダルいからつけない」
愚妹よ、いや……はるか様よ。妄想が膨らむから!妹ではそういうの健全じゃないから今言うんじゃない!
「えーでも、なんでこんなに形とか……いいのよ!」
「ああん」
「お前ら静かにしろよ!」
そうツッコんで起きあがった眼下には、布団の中で大人しく横になってる2人がいた。
「やっぱり起きてたんだぁ〜」
声がニヤついてて苛立つ、チクショー。
「やっぱりエッチですね」
こんな男でごめんねえ!?畜生!!
だがしかし、ここは落ち着いた感じでこの場は切り抜けよう。
「おやすみなさい、いい夢見ろよ」
そのあとはもちろん寝かせて貰えなかった。
美夜ちゃんとはるかのイジりでだがな――――
完全に夜も更けてスマホの時計は2時過ぎを表示している。
いつの間にか喋りながら寝入ってしまった。2人を眺めながら思う。
「なんか少しだけだけど……昔みたいで楽しかったな」
小声でつぶやき、俺は寝る体勢に入ったら数分もしないうちに寝入っていた。
今回はもう1視点を加えて書いてしまうと、長々としたものになってしまいそうだったので分けて投稿する予定です!
そちらはもう執筆もしているので早めの投稿ができるかと思います!お楽しみにしていてください!