第2話 【羨ましい生活】と【にぶいやつ】
はるかを羨ましく思う美夜が、まだ色々自分の欲求に忠実に動く、しかし、成功したかと思えば失敗もある。
どう動いていいか、どう言葉をかけていいか分からない悠はどう動くのか。
恋愛ものじゃないはずなのにこの流れ。
いつ始まるんだ本編は!と思うかもしれないですが、もうしばらく青春を謳歌させる予定です。
△
お昼過ぎの住宅街、普段通らない友人の家への道。
歩いている最中に、はるかちゃんから連絡があって家に着いたら連絡して。と言われたけど、なにかあったのかな?
角を曲がると見えてきた、少しだけ周りの家より大きな家。
そこが、はるかちゃんと悠先輩が住む家。
あ、連絡入れなきゃだった。メッセージより電話がいいかな。
スマホを開くとお母さんから連絡が入っていた。
『急でごめんね。仕事で長期出張でしばらく家に帰れそうにないから、しばらく1人だから気をつけてね、戸締まりとかよろしくね〜』
よくある事だが、毎度何日帰ってこないとか記載がないことが困る。
お母さんへの返事を送り終えて、電話帳からはるかちゃんの名前をタップするとコールが始まったが、何回か鳴ったあと直ぐに切られた。と思うと玄関ドアが勢いよく開いて、はるかちゃんが大きいパーカー1枚で出てきた。
「ちょっと、なんで電話なのメッセでいいじゃん!」
「だってその方が早いと思ったんだもん。というか、その格好はなに」
「え?部屋着だよ、お兄ちゃん寝てるから1番楽な格好で待ってたんだよ。そしたら電話かけてくるじゃん?起きたら、2人で寝顔拝んじゃうぞ作戦が破綻しちゃうところだったんだからね?」
なにその作戦は、と思ったが私はツッコまない。だって知らない作戦だけど寝顔を見れるなら……見るしかないからだ。
「じゃあ早く見に行こうよ、起きちゃう前に!」
はるかちゃんは玄関開けて私を先に通してくれて、私は靴を脱ぎ、はるかちゃんの後に続いて悠先輩の部屋の前まで来た。
私は声を潜めて疑問に思ったことをきく。
「大丈夫起きてないのお兄さん?」
「大丈夫すごくスヤスヤで可愛い寝顔で寝てるよ」
親指を立ててグッドサインを送ってくる。その寝顔を1人でまじまじと見れてることが羨ましい。
「というか、もう1人で先に拝んでるじゃん」
「妹の特権です、ふふん。さあさあ、行きましょ」
カチャと静かにドアをはるかちゃんが開ける。すると勉強机とパソコン、本棚が開いた隙間から見えた。まだ悠先輩が見えない。
そんな私をおいて、はるかちゃんがそそくさと部屋に入っていく。
本棚にはゲームのソフトと小説やマンガ本が陳列していて、ゲーム機も一緒に置かれていたりする。
そして、目の前にはベッドの上で悠先輩が眠っている。
私はすかさず、スマホを取り出しカメラアプリを起動し、音が小さく済むようにスピーカー部分を指で塞いで、シャッターボタンを押した。
「なーに撮ってんのよ」
先程より声を潜め、はるかちゃんはニヤついてくる。
「つい……」
こんなチャンス逃せるわけがない。撮らなかったらきっと後悔していること間違いない。
でもなんか罪悪感も少しある、寝てるところを忍び込むなんて。
でも、寝てる顔が大人びた感じを彷彿とさせる雰囲気があるが、今は真逆に幼くみえ可愛い。
「ねえねえ、見てアレ……」
はるかちゃんが指さす方を見ると、寝てる先輩の下腹部の当たりが膨らんでいる。
「ちょ、ちょ、ちょっと!?アレ―――」
少し声をあげてしまった瞬間、はるかちゃんに口を塞がれる。
「しーっ!ダメだよ、慌てちゃ!猫だよ。よく見て大きすぎるでしょ?」
大きすぎるって……わかんないよ。そんなのわかんないよ。
「ていうか。分かってるなら、あの言い方は卑怯じゃない!?」
「いや、アレって言っただけだし。美夜ちゃんが意識しすぎなんだよ?ムッツリさんめ」
「確かに少しは過ぎったけど……はるかちゃんが変な事言うからだもん、私は悪くないも……ん、あれ?待って?なんで猫ってわかるの?」
疑問をぶつけると、はるかちゃんは悠先輩に掛けてある毛布を捲ってみせた。
「ほらね、猫でしょ?」
よく見えなかった。少し近づき屈んでみると、確かに子猫がそこにいた。
「子猫?すごいぐっすりだね。ピクリともしないね」
幸せそうに眠る子猫が羨ましくもあり、だけども癒されるような複雑な気持ち。
「あ、子猫じゃないよ一応成人?違うか1歳は過ぎてるよ」
「へぇー。小さくて可愛いね」
「おや?自画自賛ですか?」
「違う!」
しまった。つい荒らげてしまった。
すると、ふと誰かの手が頭の上に乗っかってきた。
「はるか……うるさい」
悠先輩が起きた。そして頭の上にあるのは先輩の手だった。
「あ、ごめんねーお兄ちゃん。あーあ、起きちゃったか……」
「つか、なんでお前そこにいるの、俺お前のあた……ま!?」
勢いよく頭の上から手が離れていくのがわかったと同時に先輩が起きあがった。猫は毛布の中でモゾモゾしてる。
「あ?え?なんで猫明さんがここに?」
「寝てるお兄ちゃんの顔をどうしても見たいって言ってたから、連れてきた。んで写真も撮ってたよ」
「ちょ―――!?」
声が出なかった。先輩が起きたこともそうだけど、私服の先輩に見蕩れていて声が上手く出なかった。
「マジ?なんで?」
ひかれてるよね……。でも答えなきゃ。
「……えっと、気づいたら撮っちゃってました。すみません」
つい、謝ってしまった。
「うーん、まあ写真なんてよく盗撮すらされるからね。問題は一切ないけど、猫明さん―――」
嫌だその先は聞きたくない。怖い、嫌われたくない、否定されたくない。
そう考えたら小学生の頃の遊んでた頃の記憶が浮かびあがってきて、つい感情が口に出ていた。
「遊んでた頃みたいに呼んで欲しいです」
「え、えっと……」
勇気を出すんだ私。今しかない。今言わないときっと後悔する。
だが、口は考えとは真逆なことを言っていた。
「やっぱ、ダメですよね……まともに話したのも小学生以来ですし、図々しいですよね」
「ううん、そうは思わないよ。でもなんか今更名前でってなると、なんだか気恥しいというか」
「それこそ、お兄ちゃんが今更でしょ。小さい頃は【みぃちゃん】って呼んでたくせに」
はるかちゃんの言う通りで、先輩はそう呼んでくれていた。
先輩が先に中学生になってしまったのもあって、疎遠になり今に至る。
だから、互いに昔呼びあっていたように、呼ぶのは難しくなってしまっている。
「でもいきなりは難しいから……なんというか、そのー……心の準備をさせてくれ!」
「お兄ちゃん……そういうところだよ……」
「何がわかるんだよ」
「わかるよ、私は今お兄ちゃんは、私の事【はるか】って言うけど昔は【はーちゃん】だったんだからね?私だって美夜ちゃんと同じ気持ちが少しはあったもん。だからわかるの!」
はるかちゃんがそう言い終えると、先輩は私たちの前に座り直し言った。
「いいか。俺はな2人を大事に思ってる」
真面目な顔、姿勢よく座る姿。説教をされている気分に自然となる。
「でもな、少し悔しいことがあるんだ。きっと学年が一緒だったら昔みたいに振る舞えたかもしれないけど、実際は先輩としての立場、はるかの兄としての立場があるから―――」
「え、じゃあそういうの関係なかったら?」
食い気味に割って入った、はるかちゃんの頭を先輩はポンと叩いて手をおいた。
「今の俺じゃないと思うよ。もっと自分に素直だったと思う」
「じゃあ。今だけでも呼んでくれないの?」
先輩は首を縦に振ってみせた。
「まあ、ほら……学園で中等部で1、2を争う美少女たちに言い寄られていたら言うものも言えない。男心をわかってくれ」
あ。逃げた。これはすぐ分かる。わかったからこそ私は気づいたら感情的に話してしまった。
「先輩。逃げないでくださいよ……男心って言うなら乙女心もわかってください。私とはるかちゃんは先輩が好きなんですよ、でも言えない。お互いの関係が崩れてしまうかもしれないから、私が取ってしまう。はるかちゃんが取ってしまう。そういう風に私たちの心と思考はいつもグルグルしてるんです。私たちの心の方が今決壊寸前なんです。はるかちゃんも私も先輩を想う気持ちは一緒なんです」
話している最中瞑っていた目を開くと、先輩とはるかちゃんはキョトンとしていた。
「……美夜ちゃん。い、いま言っちゃってたよ」
我に返った瞬間、気づいた。たしかに言っていた。
好きと。
そう思うと恥ずかしくなり、私は荷物を置いて部屋を駆け出してしまっていた。
□
部屋を出ていった猫明さんに驚いていると、アンズが鳴いた。
「にゃー」
開かれたドアに近づき、こちらを見てくる。
「アンズが追わないのかって言ってんじゃない?」
はるかは呆れたかのような表情を浮かべながら俺を見ている。
「こういう時は相手のことをよく考えてあげてよね。馬鹿みたいなこと言ったら、女の子はすぐ傷ついちゃうんだからね」
「と言ってもどう言えっってんだよ」
「そんなの素直に思ったこと伝えればいいんじゃないの?」
シッシと手をはらい早く行けと促されたので、何故か先導するアンズの後について行くと、はるかの部屋の前で止まった。
俺はドアに向かってそっと話しかけた。
「えっと……大丈夫?」
「大丈夫じゃないです……」
ドア越しに返事が帰ってきた。だが、どう話していいか分からない。
アンズがペット用の扉から部屋の中へ消えていった。
「俺こういう時なんて言っていいか、わかんないけど」
少し間が空いてしまう。再度深呼吸をして話を続ける。
「嬉しいよ。あんな風に思っていてくれたこと、俺自身がさっき言った様に、昔のようにちゃんと意地を張らずにいれば良かっただけなんだって思うと、自分が恥ずかしいよ」
「……でも仕方ないですよ。男の人はプライドが邪魔するって言いますし」
「うん。そうだったのかもしれない」
今ここで言うべき言葉はなんなんだろうか。
俺が言うべきことは一体何なのだろうか。
少し考えたが結論は簡単な事だった。
「美夜ちゃん。はるかと同じになるけど……昔とは違うけど、これからそう呼んでいいかな?」
返事が返ってこない、その代わりにドアが開かれアンズを抱いた猫明さんが出てくる。
「少し期待とは違った答えな気もしますが、それでいいです……。でも学園で話したりする場合は、苗字で大丈夫です」
俺は何故かそう言いながらも、何故か拗ねているような子供のような表情に、懐かしさを覚え彼女の頭の上に手を置き撫でた。
「え!えっと……」
「美夜ちゃん。ごめんね辛い思いをさせていてさ」
小さく頷いたのを見て頭から手を離す。
抱いていたアンズを床に下ろし、俺の部屋の方へと歩みを進める美夜ちゃんを背にし反省する。
「(なんで、俺は上手く出来ないんだろうな、もっといい言葉があったんじゃないかな)」
そう思っている最中、背中に柔らかい感触と腹のところに手がのびてきた。
「私は嬉しいですよ。でもね先輩……毎日先輩と居れるはるかちゃんが凄く羨ましいくて嫉妬してるんです。私とももっとお話して欲しいです」
そう話終えると、手をほどき背中からも感触が消えた。振り返るともう美夜ちゃんは歩みを進めていた。
「にゃー」
アンズが鳴いた、何か言いたげに。
何を言われても仕方ない。そう思うとアンズを抱き上げ撫でながら俺も部屋へと戻る。
戻るとなんでか分からんが、はるかがニヤつきながら話だす。
「ねえねえ、お兄ちゃん今日から美夜ちゃんうちに泊まるって〜日曜には帰るそうだよ〜」
「え!?」
声を上げたのは俺じゃない。美夜ちゃんのほうだ。
「着替えとか一緒に取りに行くからさ。お兄ちゃんは待っててね?」
「ちょっとなんでそ―――」
何かを伝えようとする美夜ちゃんの腕を引っ張りながら、はるかは彼女の荷物を持ち急かしながら家から出ていった。
きっと、はるかの独断だろう。だが平気なのだろうか?突然すぎて親から許可出るんだろうか。
まあ、それは考えても仕方ない。
部屋のテレビの電源をつけてゲーム機を起動しヘッドセットをつけお気に入りのゲームを始めるか。
△
はるかちゃんに腕を引っ張られ外に出た私達は玄関前で止まってた。
はるかちゃんは土下座をして謝りだす。
「ごめん!いい雰囲気になってるの見て、なんか適当なこと言っちゃった!」
おでこをコンクリートにくっつけて綺麗な土下座をしながら謝るほどの事じゃないのに……。
「大丈夫だよ、うちの親出張で家にいないし問題ないよ」
「そうなの?お母さん忙しいね」
「仕方ないよ国のための仕事だもん」
思わぬ外泊に心が踊り声がうわずる。それに気づいたはるかちゃんはニヤつきながら立ち上がった。この顔本当癖だよな〜。
「お兄ちゃんの部屋に毎日たむろってやろうよ、一緒にゲームとか色々できるよ」
「そうだね、なんか昔みたいで懐かしいね」
だね〜と返事をしながら私の家へと歩き始めた。
昔は本当に毎日楽しかった。
日が暮れるまで遊んで、土日は泊まりで毎週遊んでた。
なんだか今日は、今までの日常とはまるで違う。
こんなに幸せなことばかりで後が怖いけど、今を噛み締めながら楽しむしかないよね。
はるかちゃんのあとをついて私は家へと向かっていく。
お読みいただいてありがとうございます。
結果はるかが背中を推す流れになり、その流れに乗っていく。どうなるんだろうかと思う作者の自分。
ではでは、次はワクワクのお泊まりから始まります。