決戦
二機制との戦いの場は、チャミュエルによって破壊された市街地となった。あれから数年たつが、全く復興が進んでおらず、立ち入り禁止のままである。
爆心地の中心は完全な更地だが、周辺地域は半壊した建物や瓦礫の山で大規模な破壊活動を行なっても問題ないとされた。グライドのテストにはもってこいの場所である。
自衛隊の演習場を使うと言う案もあったが荒川と自衛隊の折り合いがあまり良くないので、その案は却下された。
「自衛隊絡みだと横河が茶々を入れてくるだろうからな」とのことである。
運搬用の大型トラックからグライドを降ろし、指定の場所まで向かう。朝靄の残る廃墟は、まだ登りきらぬ朝日に照らされ白く浮かび上がっていた。
「飯島さん、もうそろそろ離れてもらわないと戦闘に巻き込まれますよ」
ギリギリまでグライドの整備をやめない飯島に遥香は声をかける。
「相手のタイプだけでも確認しないと最終セッティングが出来ない」
そう言っていつまでも離れようとしない飯嶋に遥香は
「こちらから映像データは送るので、遠隔でセッティングして下さい」
「戦闘中にプログラム変更なんて危険すぎる。もし問題があったらどうするんだ」
「飯島さんを信じていますから」
「むうう、そう言う所遥香ちゃんはずるいなあ」
「飯島!グズグズしていると置いていくぞ」
流石に荒川が怒鳴り出す。
「ほら、荒川さんも怒り出しましたよ」
「わかった。ナビは俺がやるからちゃんと指示通りに動いてくれよ」
そう言って飯島はグライドから離れる。飯島が十分離れたのを確認して遥香はグライドのエンジンをアイドリングから機動状態まで少しづつ出力を上げていく。
全方位センサーを使い敵の居場所の探す。
「いた」
動体センサーが反応し、センサーに反応があった場所に急いでカメラを向ける。
「画像拡大、視覚補正。おいおい、こいつはガイレンB3じゃないか」
敵のグライドの姿を確認した飯島が思わず声を上げる。
「防御力の高い旧型を出してくるとは思わなかった。遥香ちゃん作成変更だ」
飯島の最初に予定した戦法は、接近戦に持ち込み装甲の薄い部分を攻撃後、即離脱。ヒットアンドアウェイを繰り返す。と言うものだった。しかしガイレンB3、通称鍋頭は装甲が異常に厚くこの作戦では効果が薄い。
飯島はトラックの中からナビゲーター用の端末を操作して戦闘用プログラムを変更する。
「プログラム変更完了。えっ何これ?」
遥香は変更されたプログラムを見て驚いた。防御力の高い機体なので攻撃力を上げるように変更されると思ったのだが、実際には更に機動力が上がる設定になっていた。
「ギリギリまでスピードがあげられるようにした。最初の作戦通りヒットアンドアウェイを繰り返してくれ」
「でもこれじゃ、敵にダメージが入らないのでは?」
「その通りだ。辛い戦闘になるが暫くこの状態で持ちこたえてくれ」
「何か考えがあるのね。わかった、やってみるよ」
遥香はそう言って頷くと、機体の最終チェックを行う。機体のチェックが終わった頃、無線に通話が入った。
「双方とも準備が出来たなら競技を開始する。ルールは事前に説明した通り相手の機体を行動不能にしたとこちらで判断した時点で終了。もしくはパイロットかナビゲーターのどちらかから棄権した場合、負けと見做される。では、こちらからの無線は終了する。この後はナビ以外との通話は禁止される。了解か?」
「了解」
相手の機体から了承の無線が来る。遥香も慌てて返事を返す。
「りょ、了解です」
「それでは競技開始!」
開始の合図と共に遥香は機体を急加速させ、相手に接近する。しかし最初に確認した場所には、相手の姿が無い。接近警報の鋭いアラームが鳴る。背後からの銃撃が来る。焦って回避しようとしたが間に合わずゼオフィールドが働く。フィールドにより弾丸は逸らされたが、完全に衝撃は吸収出来ず機体が大きく傾き転倒しそうになる。
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ガイレンB3のパイロット、斉藤和馬は近づいて来る相手のグライドを確認すると、直ぐに退避行動をとった。廃墟の瓦礫を上手く利用して、相手に気がつかれずに背後に回り込み銃を連射する。弾は命中したようだがゼオフィールドによって弾かれ、たいしたダメージは与えていない。
「わざわざ旧型を引っ張り出して来るから、どうなるかと思ったけどこれなら大丈夫そうね」
ナビゲーターの早島直美が安心したように無線で話しかけてくる。
「無駄な会話などするな。キチンとナビの仕事をしろ」
「……」
これだから女にナビはさせたくない。斉藤はコクピット内で苦々しく思う。そもそも新型のガイレンB4は、俺と相性が悪い。新型は防御力を下げその分機動力を上げているようだが、機体の軽量化など、ゼオフィールドによる慣性制御があるため既存の兵器と比べ十分な機動力を持っているので、俺には不必要に感じる。だが目の前の敵、RMX7はそのガイレンB4より更に軽量化されているようだ。防御はほぼゼオフィールドによって行われている。
面白い。防御に特化したガイレンB3と機動力に特化したRMX7。斉藤は狭いコクピットで自分でも気がつかないうちにニヤリと笑っていた。