プロトグライド起動
最初の予定と異なりグライドを活躍させる話にしてみました。
素直に楽しめる作品になればいいな、と思っています。
自衛隊厚木駐屯地の隅にある第一機構試験開発部と書かれた、かなり古いプレハブの建物。
その中では数人の男と一人の少女がうるさく言い合っていた。
「だから言ったでしょう。歩行調整用のプログラムより先に機体の重量配分をちゃんとしろって」
パイロットスーツを着た小柄な少女が、年配の男に怒った様に言う。
「だけどねえ遥香。現状だとグライドのフレーム強度が微妙に足りてないんだよ。今の予算だと良い材料が使えなくてねえ。エンジンを小さくするか、フレームを厚くするか決まってないうちは重量配分出来ないんだ」
彼らの横には高さ4メートル程の大きな機械があった。よく見るとそれは、二本の腕と二本の足を持つ人型機械だった。
男達はどうやらその機体の開発技師らしく、そして遥香と呼ばれた少女はそのロボットのテストパイロットらしい。男達は各々機体の調整を行なっており、その中の一人の年配の男が遥香の相手をしていた。
その日は朝から快晴で、気温は既に三十度を超えていた。開け放たれたシャッターから倉庫内に外の暑い空気が流れ込んでくる。
「お願い荒川さん。とにかく動ける状態まで組んでくれないと、朝のうちにテスト出来ないから。歩行調整はこちらで手動でやるので早く」
「やれやれ、遥香には敵わないな。飯島、歩行調整は後にして機体をまず組み上げてくれ」
「了解です、主任」
飯島と呼ばれた若い男は、天井に取り付けられたクレーンを使い機体の組み上げを始めた。
「荒川主任は遥香さんに甘いねえ」
倉庫の奥から台車で部品を運んできたガタイの良い中年の男が、苦笑いしながら荒川主任と呼んだ男に話しかける。
「主任にとっちゃ、遥香ちゃんは孫娘みたいなもんですからねえ。そりゃあ甘くもなりますよ」
飯島も一緒になって、そんな事を言い出す。
「飯島、手が止まってるぞ。10時までに組み上がらなかったら、お前休憩なしだぞ」
少しムッとしたのか、荒川主任が飯島にそう言った。
ここ第一機構試験開発部、通称一機検では二足歩行の大型機械の開発、及び試験を行なっている。
自衛隊内ではプロトグライドと呼ばれているが、実際には歩行戦車と言った方が通りが良い。
数年前に拡散したエイリアンテクノロジーによって、これまでとは異なる兵器開発を行うと言う名目によって作られた一機検だが、実際の所二足歩行機械、用はロボットを兵器にするというのはかなりムチャな話だった。
ロボットと言うのは精密機械であり、兵器として使うには開発費や整備費用などコストがかかりすぎる上、二足歩行の兵器としてのメリットがほぼ無いのである。この技術を普通の戦車や装甲車に転用した方が、よほどマシである。
にもかかわらず、一機検が潰れずに存続しているのには理由があった。
オーバーグライドと呼ばれる異星生命体が自衛隊と交戦し、自爆とも思われる行動によって自衛隊が辛うじて勝ちを拾ってから約一年。その際に手に入れた生体慣性制御器官を使った兵器開発が一機検に回ってきたのだ。
ゼオフィールドと呼ばれる慣性制御場は異常とも思える機動力と防御力を機体に与える。
本来ならトップシークレット扱いの生体慣性制御器官だが、それがこんな場末とも言える一機検に回ってきたのは、一機検のライバルである第二機械知性制御部との開発争いに負けたためである。
負けたのに開発しているのはおかしいと思われるが、実際には第二機械知性制御部の予備として開発が続いているだけで、予算は雀の涙ほどしか無い。
開発争いに負けて予算が大幅に削られたが、低予算でも開発を続けると言う荒川の熱意と、逆にこんなところで慣性制御などと言うものを扱うことが隠れ蓑になる。そう言った理由で格下扱いの、この状況に甘んじているのだ。
一機検に回ってきた慣性制御ユニットは、たった一つのみ。それを使い回して試験及び開発を行っているのが現状である。
整備員達の必死の作業で、10時前には機体が組み上がった。
遥香は整備台の梯子を使いコクピットによじ登る。
「遥香、足元に気を付けろよ」
「大丈夫だって荒川さん。あ、でも今度機体にステップ付けてもらえると良いかも」
そう言って遥香はコクピットに入ると、ハッチを閉めた。
既に起動していたエンジンの出力を徐々に上げ、ジェネレーターと慣性制御ユニットを繋ぐ。
「ユニット起動成功。プロトグライド動作チェック、オールグリーン。油温が上がったら試験に入ります」
その時遥香は外部モニターに妙なものが写っているのに気がついた。
「なんであんな所に大型トラックが止まっているの?工事とかの予定はなかった筈」
この駐屯地、特にこの付近は民間の建物等は全くなく、自衛隊関連の業者しか入ってこない筈である。
今日はプロトグライドの試験予定のため、自衛隊関連の車両すらここの近くには来ない。
では、あの大型トラックは何なんだろう。そう思った遥香はカメラをトラックに向け、映像をズームさせた。
トラックの荷台にかけられたシートが外され、荷台に乗っていたものがカメラに映る。
それはK2戦車だった。
k国産の戦車だが、既にk国では使われなくなっていたと聞いた。今、それを使っている組織は。
「テロリスト!」
現在、この駐屯地には自衛隊の部隊はほとんど居ない。自衛隊の戦力は別の駐屯地に移り一機検の試験のために使っているだけである。
遥香にはこの施設にテロリストがやってくる理由がわからなかった。彼女が使っている機体がトップシークレットである事を除けば。
だが外部にプロトグライドの試験のことは知られていない筈。ロボットの試験場としか思われていなかった。
「ここでこのプロトグライドの実力を見せつけてやれば、あの2機制(第二機械知性制御部)に一泡吹かせられるかも」
ここで遥香は愚かにも、そんな事を考えてしまった。
プロトグライドはテロリスト達がいる方にゆっくりと歩を進めた。
この小説は作者の妄想であり、実際の人物、組織とは全く関連はありません。
また、いい加減な知識によって書かれているため一部情報に間違いがある可能性があります。