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クラウディアが翌朝目覚めると、すでにアレクシスは寝室にはいなかった。
側仕えのマリアンナの世話になりながら支度を整える。
アレクシスはすでに起きて庭園の方へ出ているらしい。
朝食はまだだそうで、戻り次第食堂で朝食を摂るのが常だそうだ。
「わたしも食堂でいただくわ。」
支度を終え、私室を出ると食堂へ向かう途中で戻ったばかりのアレクシスが見えた。
アレクシスは今摘んだばかりだと思われるピンクの薔薇を左腕いっぱい抱えていた。
「クラウディア。よく眠れたかい?」
「アレクシス殿下。おはようございます。 あ、あの・・・。さ、昨夜は取り乱してしまい、申し訳ございません。」
昨夜泣いてしまったことを思い出し恥ずかしくなる。
「いや、そうさせたのはわたしの方だ。お詫びにこれを。」
抱えていたピンクの薔薇の花束を差し出しされた。
「ありがとうございます。いい香り。殿下が贈って下さるピンクの薔薇はいつも見事ですわ。」
とつい笑顔になってしまい、側で仕えていたマリアンナにわたしの部屋へ飾るように、と言い渡すと、アレクシスと共に朝食へ向かった。
王太子の住まう東の離宮での朝食は意外にシンプルだった。
王族の朝食はどれだけ贅を凝らしたものかと思ったが、パンにスープ、卵料理、ベーコンと季節の野菜のサラダとフルーツ。定番の品ばかりだったが、食材と料理人は一流らしく飽きのこない味だった。
クラウディアは先ほどアレクシスから貰ったピンクの薔薇に思いを馳せる。
今まで、誕生日にはアレクシス殿下からはピンクの薔薇の花束をいただいていたわ。
いつも、ピンクの薔薇のみで他の花が混じることがなかった。
しかも色も必ずピンクのみだったわ。
もしかして今朝のように毎回アレクシス殿下が庭園へ赴き、鋏を持って、一本、一本自ら選びながら摘んでくれていたのかしら?
ふと疑問に思い聞いてみる。
「殿下。今まで贈っていただいた薔薇は殿下が自らお摘みになったものなのでしょうか?」
「あぁ。そうだ。」
少し照れたような返事が返ってきた。そしてもう一つ疑問に思っていたことを聞いてみる。
「殿下。ピンクの薔薇というのは何か意味が込められているのでしょうか?」
「意味は・・・ない。」
いつもだったらここでアレクシスの言葉は終わるところだったが、今までの反省を踏まえてか、ぽつりぽつりと話しだした。
「その・・・ピンクの薔薇は・・・其方だ。」
「??」
「初めて其方と出会った日だ。」
うん。うん。私が八才、殿下が十才の頃かな。確か王妃主宰の殿下の友人と婚約者を探す為のお茶会の日だったと思う。
「その・・・其方の着ていたドレスがピンクの薔薇のようだった。」
え!?まさか初めて会った時のドレスの色で毎回ピンクの薔薇を贈っていたの!?
殿下。ちょっと声が小さいですわ。目も合わせていただけないし。
「・・・まるでピンクの薔薇の妖精だと思った。」
瞬間、ボンッと顔が熱くなるのを感じた。
まさか初めて会ったわたしの印象が『ピンクの薔薇の妖精』だとは思いもよらなかった。
だからわたしへの誕生日はいつも自らお摘みになったピンクの薔薇だったのね。
そんな初めて会った時から・・・。
嬉しい。どんな高級なドレスや宝石を贈られることよりも嬉しい。
なのに、殿下のそのお気持ちに今まで気付かなかっただなんて。
なんだか悔しいわ。
アレクシス殿下に心を寄せていかなければならないのはわたしの方だったかもしれない。
「殿下。わたくし、殿下の贈って下さるピンクの薔薇がとても大好きです。
どんな高級なドレスや宝石よりも嬉しいです。」
「ならば、これからはドレスや宝石は買わなくてもいいのかい?」
アレクシスがいたずらっぽく笑う。初めて見るアレクシスの表情にドキリとする。
「あいにく、ドレスも宝石も大好きですの。」
今までアレクシスのイメージが『怖い』『緊張』だったのが、綻び始めてきた。
朝食が終わるとアレクシスは国王陛下と王妃殿下に呼ばれているとのことで王宮へ向かうのを見送った。