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第7話 異世界に召喚された少年は生きるために動く

これまで散々走って疲れたのか、気が付けば眠ってしまっていた。

外が明るいことに気付き、木のくぼみから出る。

変な体勢で眠っていたからか、体のあちこちが痛い。

体をゆっくりとほぐし、頭を働かせる。


これからどうすればいいか、わからない。

最悪、一生この森の中で隠れて過ごすことになるかもしれない。

なんにせよ、水と食料の確保はしなければ。


それに、今の場所は危険だ。

明るくなってから昨日の兵士たちがもっと森の奥深くまで入ってくるかもしれない。

自分はそれよりも更に奥に行って、見つからないようにしないと。


……とにかく生きる。死んだらそこで終わりだから。

生きて、自分の世界に帰るんだ。


生きるため、元の世界に帰るため。

とりあえずの方針を決め、森の奥深くへと歩き出した。





……

…………



森の奥へ歩き出して、しばらくたつ。

20分か、30分か。時計がないからわからないけど。

この森は結構広いのかもしれない。


食べられるものを探しながら歩いていたが、いまいち良さそうなものが見つからない。

途中キノコをいくつか見つけたが、さすがになんの知識もない中でキノコを食べるのは怖い。

理想は食べられそうな木の実を見つけること。

しかし探し方が悪いのか、それらしいものは見つけられない。

最悪、ウサギやシカのような動物がいればいいが、火が用意できないため一か八かで生肉を頬張る羽目になる。



そんなことを考えながら歩いていると、なにかの気配がした。

息をひそめ、音をたてないようにゆっくりと歩く。

気配がした場所にある程度近付き、木々の隙間から覗き込むと……


シカ、のような動物がいた。


四足歩行に頭のツノ。

細い足にヒヅメ。


全体的なフォルムはシカに似ている。

勿論ここは異世界で、想像している通りのシカが出てくると思っていたわけではなかった。

しかし目の前の動物は、なんというか、あまりにも禍々しかった。


体を覆う毛はシカには珍しく長くとげとげとしており、風になびく様子が見えないことから相当に硬いのだろうと推測できる。

毛色は黒と赤のまだら模様をしており、気のせいでなければ赤い毛並みが淡く発光している。

角は黒く、生き物を狩るためなのかとても鋭い。


思い出すのは、この世界にきて最初に見た生き物。

人類が1000年かけてようやく討伐した、大魔王と呼ばれるバケモノ。


あの大魔王ほど圧倒的な力を感じないが、雰囲気は似ている。

この世界には大魔王がいるくらいだから、おそらく魔物もいるのだろう。

きっとこの生き物が、魔物なんだ。



……魔物って、食べられるのかな。


いかんせんこの世界の知識がないせいで、わからない。

とにかく倒してみて、一か八かで食べてみるかな……。


魔物を倒す方法は、持っている。

街で使った黒い閃光。

あれがなんなのかわからない。

けど、なんとなくだが、今ならまた使える気がする。



――ドクン


心臓がはねる。

力の奔流を感じる。

この力を、あの魔物にぶつける……!


「くらえ!!」


魔物の前に飛び出し、手を振りかざす。

黒い閃光がきらめき、魔物の体を貫いた。


「ギャオオオオォォォン……!」


魔物は、おぞましい叫び声をあげながら、その場に倒れた。


「で、できた……!」


思った通り、あの黒い閃光が使えた。

これなら、この力があれば、狩りが出来る!

絶望ばかりのこの世界で、少しの希望が見えたのを感じた。


倒れた魔物に近付く。

どうにかしてこいつの毛を剥いで、肉を食べてみよう。



すると、思ってもみなかったことが起こった。


倒れた魔物の体がひび割れ、粉々に砕け散ったかと思ったら、空中に霧散してしまったのだ。

そして魔物が倒れていた場所に、黒い石がポトリと落ちた。


「はあ!?」


思わず叫んでしまう。

いや、肉は?食料は???

折角倒したのに、なんだこれ!!!


意味が、わからない。

さっきまであった魔物の体はどこにいった?

肉もツノも、毛皮すらもなくなった。

質量保存の法則はどうした?

魔法が存在する世界ではなんでもありか?


思えば、丸一日以上食事をとっていない。

空腹もあって、期待が裏切られたときの苛立ちは相当なものだった。



久しぶりの食事にありつけられないという絶望にうちひしがれながら、魔物が倒れた時に落とした黒い石を拾う。

他の、地面に落ちている石とはなにかが違う。

なんとなく黒い石からは、黒い閃光を出した時の力と同じような力を感じる。



……カリッ


黒い石をかじってみる。

硬い。食べられない。


「食べられなきゃ意味がないんだよ……」


食べられない黒い石を投げ捨て、また食料を探すため歩き出した。


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