第6話 異世界に召喚された少年はひとりぼっちになる
まずい。まずい。まずい!
踵を返し、その場から逃げ出す。
路地を出ると、女性の叫び声を聞きつけたのか、鎧を着た兵士が駆けつけてくる。
不運にもその兵士は、自分を宿まで連れてきてくれた兵士の1人だった。
「お前は、召喚者の……」
「助けて!そいつ、魔者よ!!そいつに人が殺されたの!!!」
「なに……!?」
駆けつけた兵士に、女性が説明する声が聞こえる。
もう、どう弁明しても遅い。
とにかく逃げなければ。
兵士のいる方向とは逆方向に、走る。
走る。走る。走る。
ろくに知らない街の中を、とにかくがむしゃらに走る。
宿は駄目だ。
兵士に自分の正体がばれている。
どこか、見つからない場所に隠れないと。
あてもないままとにかく走っていると、背後から警鐘を鳴らす音が聞こえた。
自分が逃げたことにより、騒ぎが大きくなっている。
きっとここを守っている兵士たちが、自分を捕まえるために動き出すだろう。
このままでは、いずれ捕まってしまう。
それでも、なにも頼れない今、走ることしかできない。
しばらく走っていると、石で舗装されていた道が途切れ、目の前に荒野が広がった。
荒野は、駄目だ。
枯れた木や、岩が転がっているぐらいで、見通しが良すぎる。
逃げてもきっとすぐに見つかってしまう。
あたりを見渡す。
すると、左手に森が広がっているのが見えた。
森なら、隠れる場所も多いだろう。
もしかしたら見つからずに逃げ切れるかもしれない。
そう考え、森の方へ走り出した。
森に向かって走っていると、後ろから兵士の気配がした。
振り返ると、街から松明を持った兵士が4、5人ほど出てきた。
「いたぞ!あそこだ!」
兵士の1人が叫び、こちらに向かって走り出した。
とにかく、森に逃げないと。
幸い、まだ兵士との距離はある。
前を向き直し、再び森へ向かって走り出した。
……
…………
なんとか、逃げ出せた。
あれから、兵士に捕まらずに森に入ることができた。
森は深く入り組んでいて、生い茂る木々に紛れることで、兵士たちを撒いた。
どうやら運が良かったみたいだ。
そのまま森をさまよっていると、大きなくぼみの空いている木を見つけた。
今日は、ここで休もう。
くぼみに体を押し込むようにして入り、膝を抱える。
……これから、どうしよう。
今日何度目になるかわからないその自問。
答えの見つからない問いかけ。
これまでは、それでも次の行動が明確だった。
とにかくシエルさんたちについて行って、元の世界に戻る手立てを探す。
けど、それももうできない。
人を、殺してしまった。それも、2人も。
本当に死んだのかきちんと確認したわけではないが、感覚でわかる。
人の命を奪う感覚。
あの時は必死だったが、改めて思い返すと、背筋が凍った。
宿で、シエルさんは、なにがあっても自分だけは味方だ、と言ってくれた。
けどそれは、自分がなにも知らない、なんの罪もない不幸な召喚者だったからで。
さすがに人殺しの味方にはなってくれないだろう。
「本当に、ひとりになっちゃったな……」
鼻がツーンと痛み、涙がにじみ出てくる。
急に異世界に召喚され、訳もわからないまま街に連れてこられ、挙句人を殺してしまった。
どうしてこうなってしまったんだろうか。
どうすれば、こうならなかったのだろうか。
なにもわからない。なにも考えたくない。もう、なにも。