第1話 異世界に召喚された少年の冒険は死から始まる
こんなこと、誰が信じるだろう。
突飛で、寝る前に見る夢のような――
蒸し返すような暑さ、けたたましく鳴くセミの声、全てが不快に感じた8月のある日のことだった。
僕、高峰 蓮斗は、学校に行くためにこれまでもう何度も通った通学路を歩いていた。
……夏休みにも関わらず。
それもこれも、全員参加強制の部活なんていう制度のおかげだな。ほんとありがたい限り。
まずは夏休みの定義からあの教師連中に教えてやらなきゃな。
――ミンミンミンミン ジージージージー
町の緑化施策とやらで、通学路には等間隔で木が植えられている。
必然、等間隔で聞こえるセミの大合唱。アブラゼミとミンミンゼミが奏でるハーモニー。
このうるさいセミの鳴き声も、さすがに3週間目にもなれば聞きなれてきた。嘘。無理。うるさい。
――ミンミンミンミン ジージージージー
この通学路だって、もう何度も通っているから目新しいものなんてなにもない。
アスファルトの模様もそろそろ覚えられそう。
なんなら目をつむってでも学校まで行けちゃうね。
――ミンミンミンミン ジージージージー
一応、周りに人がいないかを確認して、目をつむってみた。
5mほど歩いて、目を開ける。
……意外とまっすぐ歩けないものだな。
――ミンミンミンミン ジージージージー
もう一度目をつむって、また歩く。
今度はまっすぐ、10mを目指そう。
なんとなく、感覚はつかんできた。
歩く、歩く。
――ミンミンミ
セミの鳴き声が消える。
急に、肌寒いくらいの風が吹き始める。
まぶたを貫く太陽の光が消える。
靴底から伝わるのは、アスファルトの硬い感触ではなく、濡れた土のような、不快な感触。
悪寒がする。
何かがおかしい。
恐る恐る目を開ける。
目の前には、見飽きた通学路ではなく、黒い月に照らされる荒野と、黒くて巨大なバケモノがいた。
「……え?」
目の前の情報を処理しきれない。
驚愕、戸惑い、不安、恐怖、楽観、色んな感情が体の奥底から溢れてきて、分類しきれない。
ただ一つだけ認識できたのは、目の前のバケモノから感じる、絶対的な力から受ける圧迫感だった。
「後ろに下がれ!逃げろ!」
男の人の声がする。
鋭く、耳を貫くように通るその声で我に返る。
瞬間、後ろを向いて走り出した。
「わああああああああああああ!!!」
情けない声を上げながら、滅茶苦茶に体を動かす。
ぬかるんだ地面に足を取られながら、必死で走る。
途中、4人の男女とすれ違った。
間もなく聞こえる戦闘音。
剣で切り裂くような音、金属のはじける音、何かが燃える音、バケモノの叫ぶ声。
思わず、振り返る。
4人はそれぞれが縦横無尽に駆け、飛翔し、燃えさかる火球を飛ばし、バケモノと戦っていた。
その非現実的な光景に、思わず足を止め、見入ってしまう。
そして――――バケモノと、目が合った。
直後、
自分の死を直感した瞬間、
黒い閃光が僕の心臓を貫いた。
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