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おめかし

『支度はできてる頃合いだ。

着替えたら出ておいで。



ティオールはそう言うと、ちらりとバラをみやってから



『うん、まだ咲いていないね。



そう言い残してルーシュの部屋をあとにしました。


ルーシュははっとしました。


ティオールが部屋を訪ねてくる直前まで、バラはよい香りを放っていたはずです。


バラの香りは残っていなかったのでしょうか。


ティオールは何も言いませんでした。


きっと気付かれなかったのに違いありません。


ティオールとほとんど入れ替わりにリディがやってきていて、顔を洗うようにしてくれたり着替えをさせてくれたりとなにやかやと世話をうけながら、ルーシュはそう思うことにしました。



『さあ、ルーシュさま。

お支度がととのいましたよ!



リディは器用にも、ルーシュの髪を編み込んでくれました。


後ろ髪は残しておろしたまま。


耳の辺りからさっと髪束を束ねるように編んであり、後ろにまとめて深くて濃い色合いの赤いリボンがあしらわれました。



『すてき!

リディ、すごいわ!

まるで魔法ね!



化粧台の前で顔を左右に傾けていると、鏡越しに微笑むリディと目が合いました。



『ふふっ。

リディ、ありがとう!



『お喜びいただけて、なによりです。



リボンは、やはり深い色合いの赤いワンピースドレスと揃っていて、ドレス共々ルーシュにとてもよく似合っています。


裾や、要所を飾るレースはさらに濃い赤銅色です。


落ち着いた雰囲気の服装ですが、ルーシュの気持ちはとても嬉しくて跳ね上がるような気分になりました。


けれどもせっかくすてきなお嬢様になったのですから、駆け回ってしまってはだいなしです。


ルーシュは心の中で、ドキドキする気持ちに静かに落ち着くように言い聞かせました。


リディに連れられて食堂にむかうと、すでにティオールは食卓についていました。



『やあ、かわいらしいお嬢さんだ。

いいね、似合ってるよ。



リディのひく椅子に腰かけるルーシュに、ティオールはにっこりと笑いかけます。


ルーシュは嬉しくてくすぐったくて、少しだけ足をぶらぶらさせました。



『トレンス、マールに声をかけて料理を運ばせてくれ。



ティオールが食堂の片隅に控えていた白髪混じりで背がひょろっと高い男の人に話しかけました。



『承知いたしました。



穏やかな低い声でトレンスは返事をし、きびきびとした身のこなしで場を外していきました。


きっと調理場にむかったのでしょう。


そして、量は昨晩ほどではありませんが同じくとても美味しい朝食を、ルーシュはしっかりと食べたのでした。


食事を終えると、ティオールは今日の予定として後で一緒に街まで出かけるようにルーシュに伝えました。



『昨日は簡単に買い揃えられるものしか用意していないからね。

きみに似合うものや、好きなものを自分で選ぶといいよ。



服や靴、生活に必要なものの買い出しのことです。


ルーシュは戸惑いました。


悪魔の世界では、すべてを王様が用意してくれていたのです。


自分で選ぶなんて、何をどうすればいいのでしょう。


ティオールはルーシュが困惑して狼狽えている理由を遠慮だと思ったようです。



『大丈夫だよ。

お金は心配いらない。

遠慮なんかする必要はないよ。

ぼくがそうしたいと思って買ってあげるんだ。

ルーシュが喜んでくれればぼくも嬉しい。

だから、好きなもの気に入ったものを、全部ぼくに教えてくれればそれでいいんだよ。



ティオールはにっこり笑いかけてくれました。


ルーシュとしてはまだなんだかよくわからないけど、ティオールをじっとみつめてからこくりと頷きました。


ティオールもうんと頷いて、



『よし、じゃあお店が開くにはまだ早い。

しばらく好きにすごしてるといいよ。

なんなら屋敷を探索しててもいい。

リディと一緒なら迷子になることもないからね。



ルーシュにぱちりと片目を閉じてみせ、リディとトレンスに後は頼むと声をかけると食堂を出て行きました。



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