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普通の生活

晩餐の後、ティオールはルーシュに屋敷で好きなようにすごしてよいことを告げ、自身は用事があるからと書斎へと向かっていきました。


ルーシュとしてはよくわからないお屋敷です。


もう夜ですし、どんな部屋があるのか見てまわるのは明日にして、今夜はもう自分へとあてがわれた部屋に戻ることにしました。


バラの様子も気がかりですしね。


はたしてバラは、ルーシュが晩餐のために部屋をあけたままに、一輪挿しでかたいつぼみをたたえていました。


ルーシュはほっと一息つきました。


バラをそっと眺めます。



『めずらしいバラ……?



ティオールはそう言っていました。


咲けばよい香りのするきれいな花だとは思いますが、ルーシュにはそれ以上はよくわかりません。


赤みが強い緑色の、ツルンとした光沢のある茎。


トゲはありますが、小さく遠慮がちでちょっぴり。


五枚一組で、楕円を縁取るようにちょっとギザギザした葉っぱがいくつか。


それだけです。


それだけのことなのに、ティオールはめずらしいバラだとわかったようでした。


悪魔の王様が用意した花なので、人間の世界には存在しないバラなのかもしれません。


と、ドアがノックされ、『失礼いたします 』と最初にルーシュをお世話してくれたお手伝いさん、リディが入ってきました。



『ルーシュさま、もうお休みになられるようでしたら支度の方をお手伝いいたします。



『うん、お願い。



ルーシュはすぐに返事をしました。


今やれることはあまり無さそうなので、もうベッドに入ってしまってもよいかと思えたのです。


リディは一瞬だけ戸惑ったように目をぱちくりさせたようです。



『どうしたの?



『あ、いえ……。



リディはなんとなく困ったような笑顔をみせ、言い淀みました。


ルーシュはきょとんとしてリディを見つめたまま小首をかしげます。



『……いえ、大したことではないのです。

ルーシュさまはおそらくお小さい頃から使用人のある生活をなさっておいでのように感じられましたから……。

存じませんでしたもので。


『あの……、申し訳ございません。

失礼いたしました。



リディに謝られても、ルーシュにはなんのことだかよくわかりませんでした。


当然です。


悪魔の世界でのルーシュは王様の使い魔が小間使いとして仕え、身のまわりをすべてととのえてくれていました。


悪魔の世界では使い魔さえ使役する能力があれば大したことではありませんが、人間の世界では、上流階級で生活をする者達だけがそれをゆるされています。


ほとんどの人達は、自分のことは自分で身のまわりをととのえます。


普通の生活をしてきたような女の子では、先程のルーシュのように当たり前に受け入れて返事をすることなどできないでしょう。


だからリディはほんの少し驚いたのです。


そしてルーシュはリディが驚いた理由がよくわからないままに、寝巻きへと着替えさせてもらっていたのでした。

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